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台風が猛威をふるった今夏。2020年東京五輪も台風が集中する時期の開催であり、小池東京都知事も懸念を表明していた。また、昨今増えているゲリラ豪雨も各地に深刻な被害をもたらしている。これら「水」にまつわる課題に対して、IoTを用いて、浸水被害等を未然に防ごうという取り組みを進めるのが明電舎だ。同社は、下水道のマンホールに水位計を取りつけ、そのセンサーから得られたデータを可視化するサービスを開始。この「IoTマンホール」誕生の背景や狙いについて、常務執行役員 水・環境システム事業部長の加藤 三千彦氏と、戦略企画部長の平井 和行氏に話を聞いた。
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、執筆:阿部欽一
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、執筆:阿部欽一
都市型水害は、都市の規模の大小を問わずに起きている
都市生活者にとってゲリラ豪雨は新たな脅威だ。局地的豪雨の回数、降水量ともに増えており、気象庁のデータによれば、1時間降水量が50mm以上の年間発生回数は1976年から1984年では平均176回だったのに対し、2005年から2014年では平均229回と1.3倍に増加している。
8月は台風の上陸が相次いだことも記憶に新しい。2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるが、開催時期にあたる7月から9月は台風上陸が集中する時期でもあり、東京都の小池知事は、東京大会の暑さ対策だけでなく台風等による豪雨への対策にも懸念を示している。
都市型水害は、都市の規模の大小を問わずに起きている。背景には都市のコンクリート化が進んだことにより雨水が土壌に浸透しにくくなったことがあるといわれる。下水道の普及率は全国で約80%弱まで上がってきているが、雨水の処理率は6割に満たないというのが現状で、当然、自然に処理しきれない雨水は大量に下水管に流れ込むことになる。雨水がマンホールのフタを吹き飛ばす勢いで吹き上がるあの光景だ。
国は2015年に「水防法等の一部を改正する法律」を施行し、大雨による都市部での浸水被害に対し、法整備によりハード、ソフト両面での被害軽減の取り組みを後押ししている。ハード面では、貯水施設や放水路などの雨水貯留施設の整備が挙げられるが、設備投資には多額の予算が必要だ。
一方、ソフト面では浸水被害の危険を周知するなどの取り組みが喫緊の課題となっている。
マンホールをIoT化することで何が得られるのか
こうした中、明電舎が提供しているのが「都市型水害監視サービス」だ。加藤氏はこれを「下水管内の雨水の状態を水位計で計測、計測したデータはインターネットによってクラウドサーバに蓄積され、水位上昇をリアルタイムに可視化することができるサービス」と説明する。
中核となる水位計測は、マンホールのフタの裏にバッテリーと通信装置、水位計を装着した「マンホールアンテナ」を独自開発することで実現。計測されたデータは自社のクラウドサーバに送信される。
また、上下水道事業のコンサルティング会社である日水コンが保有するクラウドサーバと連携することで、同社が保有する管路ネットワークの位置情報がプロットされる。
さらに、降雨情報を国土交通省のXRAIN(Xバンド MPレーダーネットワーク)から取得。これにより、どこに、どれだけの降雨があり、管きょ内の水位がどの程度あるかをリアルタイムに可視化することができる。
「明電舎は、工場や下水処理施設等に発電用モーターや変電設備、制御機器などの電気設備を納入してきました。近年は、短期間で大量の降雨があると、下水道処理施設には設備の計画上限を超える大量の雨水が流れ込んできます。そこで、雨が降るとどこにどれだけ流れ込むのかを『見える化』することで、自前に水量が把握でき、施設運用の最適化が実現できると考えました」(加藤氏)
明電舎は来年で120周年の歴史ある電気機器メーカーだ。なかでも、水・環境分野は明電舎の基幹事業で、上下水道分野では30年間で1兆円超の納入実績がある。最近では、上下水道の電気設備や施設の維持管理や運営まで手がけている。
「2001年に水道法が改正され、インフラ維持管理の民間委託は徐々に広がってきている歴史がありますが、当社は35年前から電気機器メーカーとしては初めて維持管理ビジネスを展開し、現在まで数多くの維持管理実績を有します」(加藤氏)
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