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- 2015/11/10 掲載
パナソニック 津賀一宏社長が語る、2年連続赤字7000億以上の「負け組」を脱した方法
2012年に就任後、2年半でV字回復を実現した手法とは
パナソニックは松下幸之助が1918年に創業した、言わずと知れた日本を代表する総合電機メーカーである。しかし近年、テレビや家電といった従来の主力事業で苦戦を強いられた同社は、2011年度の連結決算で7722億円に上る純損失を計上。こうした中で大坪 文雄氏から社長の座を受け継いだのが津賀 一宏社長だ。津賀社長は自社を「普通の会社ではない」「デジタル家電では負け組」と断じ、改革を遂行。就任1年半後の2013年度の決算で純利益1204億円の黒字転換を達成した。2014年度は1795億円、2015年度の通期営業利益は4300億円見込むなど、見事なV字回復を見せている。
円安などの追い風もあったとはいえ、津賀社長はいかにしてパナソニックを急速に立て直したのだろうか? 今月10日より開催されている日経フォーラム「世界経営者会議」、その最初のセッションに登壇した津賀社長は、これまでどのように改革を進めたのか、現在いかに新たな成長の実現に向けた取り組みを進めているのかを改めて明かした。
利益を生み出せない経営は、社会になんら貢献していない
「逆に言えば、『利益を生み出せない経営は、社会になんら貢献していない』すなわち『お役立ちできていない』ということ。社長として最初に取り組まなければならなかったのは、このお役立ちを十分に果たすことができる姿に戻すことでした」(津賀社長)
同社の50年ほどの売上高と利益の推移を振り返ると、1990年ごろまでは国内の高度経済成長や家電ブームをうまくとらえ、売上高は順調に拡大し利益率も10パーセント前後あった。しかしその後20年以上にわたり、売上高は停滞、利益率も低下し続けている。松下電工や三洋電機といった大きな会社の買収も実行したが、こうした規模の追求が利益に結びついていない状況だった。そうした中、パナソニックの社長に就任したのが津賀社長だ。
「就任直前の2012年5月に発表した2011年度決算は、7720億円もの大きな赤字でした。社長就任が決まり本社に行って調べてみると、テレビ事業だけの問題ではなかったことが判明します。まず会社の規模が大きすぎて会社の全体像が見えなかった。次の大型ヒット商品も見えてこない。そしてキャッシュは不足している。先が全くと言っていいほど見えない状況でしたが、逆に社長として思い切った改革をやるしかないと腹をくくることができました」(津賀社長)
津賀社長はまず新たな経営体制を構築。約30人で構成され、当時最高意思決定機関であった常務会を廃止し、代わりに人数を12人に絞り、社長だけでなくチームで多角的にかつスピード感ある経営判断ができる体制にした。加えて約7,000人いた本社の社員を130人へと大胆に減らした。
こうした体制の元で会社を見える化し、問題点を明らかにした上で、スピーディに意思決定を行い改革を進めていこうとしたのだ。
「普通の会社ではない」「デジタル家電では負け組」発言に込められた思い
「しかし、困ったことに社内には『パナソニックは大きい会社だからつぶれない』との意識がはびこっており、社員、さらには役員にすら危機感が欠如していました」(津賀社長)そこで社長就任から4か月後の中間決算発表の場で、「当社は普通の会社ではない」、また「主力のデジタル家電では負け組」であるという非常にセンセーショナルなメッセージを発信した。これは社員に伝わることも意識したもので、社員全員に他責ではなく自責、すなわち自分事としてこの危機を捉えてほしいと考えたからだという。
そして一刻も早く普通の会社に戻すとともに、しっかりと将来を見据えた取り組みを進めるため、まず1年で黒字化と復配を達成し、3年で収益を改善するというシンプルな目標を立て、社内外に周知した。
「目標達成のためにはあらゆる手を打ちました。プラズマテレビや個人向けスマートフォンからの撤退など、将来の成長が描けない課題事業に対しては迅速に対処しました。利益優先の必達目標を社会に向けて約束した以上、賃金のカットにも着手せざるを得ませんでした。とりわけ組合員の皆様から厳しい批判の声が出て、かなり辛い思いもしましたが、パナソニックの将来のためにはやるしかないと信じて断行しました」(津賀社長)
このような取り組みの結果として、右肩上がりの業績回復を実現。収益改善の目標も2014年度に前倒しですべて達成した。ではなぜパナソニックがこのように急速に復活できたのか? 津賀社長は次のように振り返った。
「円安などの運のよさもありましたが、突き詰めるとお客様のお役立ちの報酬である利益を最優先とした経営に徹してきたからだと思います。そして会社をシンプルに見える化し、スピーディに改革の手を打ち、危機感を共有した社員が努力してくれた結果にほかなりません。もちろん最初から答えが見えていたわけではなく、一気に全てのことを解決できたわけでもありません。優先順位を付け、順番にやれることを一つ一つ積み上げてきて今の姿になったのが、私の実感であり実態だと思います」(津賀社長)
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