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さまざまな立場の人が入り乱れて会議を行う「ITACHIBA(異立場)会議」。第3回となる今回は「勝つためのIT」をテーマに掲げ、東急ハンズ執行役員・ITコマース部長、ハンズラボ代表取締役の長谷川 秀樹 氏、すかいらーく マーケティング本部 インサイト戦略グループ ディレクターの神谷 勇樹 氏、野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタントの鈴木良介氏、KADOKAWA ASCII.jpの大谷イビサ氏らが登壇し、「変化の激しい時代を生き残る戦略的ITとはなにか?」について、会場メンバーを巻き込みながら大いに語り合った。ここではまず、大谷氏による鈴木氏への公開インタビューの一部をお届けする。
クラウドからビッグデータに向かった必然
大谷氏:鈴木さんとお話ししたのは2年前ぐらいなのですが、その際、外食産業でITを使ったらという講演をなさっていて、そろそろiPadで最適なメニューを示す日は近いんだよという話をしていました。
本当かなと思っていたら、そのすぐあとにサイゼリアさんがiPhone使ってオーダーをとりだしたという話が出てきて、すごいなと思って感動していました。そんな鈴木さんですが、もともとはビッグデータが専門というわけではなく、クラウドを専門領域にされていたのですよね?
鈴木氏:そうですね。私のお客さんに非常に先見の明がある通信事業者の研究者の方がいらっしゃいまして、エリック・シュミットがクラウドと言い始めた直後の2007年にクラウド市場の動向を調査せよ、という依頼を受けました。
クラウドの影響でIT市場がどうなるのかを分析した結果、クラウドの利用は時代の必然だよね、進むよね、というのが結論でした。ただし、それは必ずしもハッピーな話ではなく、IT市場全体では縮小すると。SaaS、PaaS、IaaSといったクラウドサービスに、ハードウェアやパッケージソフト、SI開発といった市場がどんどん浸食されていくというのが私なりの解釈でした。
ポイントはやはり「縮小移行」するという点です。ユーザー企業さんにしてみると、すぐに実装できる、すぐに活用できる、そしてスケールを利かせることができるというメリットがあるかもしれません。しかし、基本的には同じことが安くできないと意味がないので、縮小移行になる。でかいシステムをスケールメリットを効かせて作るのだから、それを割り勘で使ったら当然使われる金額の総和は減りますよね。
あとネットワークを介してサービスを利用できるようになると、海外にもどんどん出ていってしまうという話もありました。たとえば、当時、甲府市がセールスフォースで定額給付金支給用のアプリつくりましょうといったような話がありましたが、それは外資にSI開発資金が流出していることに他なりません。
安くなる効果と海外への流出効果から、国内のIT市場は縮小する。縮小したら同じだけの雇用は維持できない。私もSI企業とは浅からぬ関係にありますので、この先どうなるのかな?ということを自己保身の観点からもまじめに考えようと思ったんですね。どうしたらSIerが儲かるかな、と。
ITの歴史は、下のレイヤー(ハードウェア)から上のレイヤー(アプリ)に逃げ続けてきた歴史ですよね。汎用機ブームで「サーバを持ってくだけで3,000万円という仕事」はなくなった。SaaSがでてきて、「CRMシステムをフルスクラッチで開発して6,000万円」という仕事がなくなった。ハード、アプリの上のレイヤーというのは、データレイヤーだろう。データのところで何かやらなければならないのではないかと考え、クラウドからビッグデータにテーマを移行したのが2010年という経緯です。
大谷氏:ITがビッグデータに向かっていくというのは、鈴木さんの中では必須というか、追っていったら結局そうなったということでしょうか?
鈴木氏:そうですね。学生時代がゲノムサイエンスの黎明期で、大量のデータから知見を得るというプロセスを経験していたので、馴染みがあったという面もあります。
ITに関わるプレイヤーが変わる
大谷氏:今まさにエンタープライズ領域で、クラウドの利用がどんどん進んでいますが、今までの商売をやっているだけでは立ち行かない、ユーザー企業の情報システム部門も変化を余儀なくされているというのは、そういった流れから、ということでしょうか。
鈴木氏:2008~2009年ぐらいにクラウドが流行りはじめたころ、IT関連でお金が動いていたテーマはサーバ仮想化やマネージドサービスなど、ユーザー企業が直接やるよりも安くできますよ、同じことを安くできますよという話題が支配的だったと思います。
それは当然ですよね。なぜなら、情報システム部門というのは基本的には総務部門に端を発するコストセンターだからです。
「経営戦略と情報システム投資は表裏一体でなければならない」と社長が表で言っていても、社内会議だと結局もっと安くできないのかみたいなことしか出てこない、といったようなケースはよくあるわけです。そう考えると、仮想化やマネージドサービスといった話が刺さるのは当然だったと思います。
極端な言い方をすると、コストセンターの人は、お財布の規模を小さくしつつ、ちゃんと同じことをできるようにすることが使命です。ここだけだと縮小遷移の中でのパイの奪い合いになる。ですが、事業部門の人は売上を立てていくことが使命なので、売上が10倍になるのだったら、それに対応したコストをかけてもよいと思っている人ではないでしょうか。
ただ、こうした人々は、どのようにシステムを実装するのかという点には基本的には興味がない。アプリレイヤーがギリギリで、ハードウェアはたぶん基本的には興味がない。アプリレイヤーとデータレイヤーの話しか、接点になりえないのではないか、ということで、ビッグデータに舵を切ったのです。
今までと違う財布を狙うのであれば、社内の情シスもベンダーも自ずとふるまい方は変わる、変えないと財布を持っている事業部門に話を聞いてもらえないですよね。
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