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ユーザー部門の業務改革を期待される情報システム部門の中には、自部門の改革も着実に進めているところがある。彼らは、どのような自己改革を成し遂げたのだろうか。本連載では、情報システム部門のトップに自ら語っていただこう。第8回は、日本たばこ産業(以下、JT) IT部長の引地久之氏に話をうかがった。
JTでは、2008年より、企画IT機能の改革(作り直し)を推進している。外資系ハイテク企業の情報システム本部長であった引地久之氏を新しくIT部長に据え、三カ年の改革計画を策定し、改革を進めてきた。改革の方向は、「標準化、可視化、簡素化、全体最適」を推し進め、経営に貢献することである。
外資系企業での経験をIT機能改革に活かす
JTは、システム子会社が中心となって、ITの開発運用を行ってきた。その中で、金額の大きなサービスが随意契約になっていたり、システムの中身がブラックボックス化していたりする問題が発生していた。このままでは、今後の重要課題である「IT固定運用費の削減」に切り込むことができない。そこでJTでは、企画IT機能を作り直し、固定運用費を削減しながら、経営に貢献するIT実現を目指すことになった。
白羽の矢が立ったのは、当時外資系ハイテク企業の情報システム部門を率いていた引地氏だ。彼は就任後、JTのIT実態を見て、「標準化、可視化、簡素化、全体最適」の改革余地を見出した。これには、外資系時代に得た知見が役立った。外資系では、業務プロセスとアプリケーションの標準化や統合、ベンダマネジメントの可視化などを、徹底的に行っていたのだ。
たとえば可視化では、マルチベンダ化を推進。一定金額以上の案件は必ずRFPを作り、子会社と随意契約となることを止め、妥当な価格でのサービス活用を実現した。標準化では、アプリケーションの削減に取り組んだ。これは、SAPにおける例外の数を減らす、関係会社まで含めたバックオフィス系(会計、人事など)の標準化を進める、といったことだ。もちろんこれは、将来進めることになると考えられる、海外子会社(JTI)との、業務やアプリケーション統合の布石ともなる。
このようにして削減した固定運用費は、戦略的な新規IT投資や、ITインフラ投資に回し、経営に貢献していく。なおITインフラでは、グローバルなBCPの実現や、仮想化の推進を進めている。
これらの改革のためには、業務プロセスの標準化など、ユーザー部門に改革に協力してもらうことが必要だ。そこで、ビジネスの言葉で進む方向を示し、関係者を方向付ける、社内ITコンサルタントを育成しなければならない。引地氏は、それまで本社企画ITにいたインフラの企画人材や、事業部のIT担当を集め、さらに社外(コンピューターメーカー、コンサルティング会社)などから人材を採用し、IT組織を作った。
トップダウンの方針明確化で改革を進める
改革の推進方法でも、引地氏は、外資系で身につけた知見を活用した。それは、トップダウンな方針明確化と、部下のやる気の引き出しだ。
まず、改革のレポート先である経営企画担当の常務に、改革方針や目標をコミットし、経営のバックアップを獲得。そのうえで、部員に対して改革の方向性を示し、アクションプランを説明して理解納得させ、後は部下を信じて自由にやらせ、きちんとフォローする。これによって、部下は、すでに経営が合意済みの方向に向かって、自分の力を最大限に発揮することができるようになる。
もう1つ、引地氏が自ら実践し、また部下に奨励しているのが、「外に行って議論する」ことだ。これは今まで、引地部長が意識して実践し、大きな効果を上げてきた方法だ。異業種の交流会などに積極的に出て行き、一方的に話を聞くのではなく、互いに議論する。その中で得た情報や気付きは、自分の糧になる。
たとえば、解けないで悩んでいた問題の解決策が見える。自分がやろうとしていたことと類似の努力や成功事例を知れば、実現の自信がわいてくる。相手を説得するためにも、他社の事例が有効だ。そして、自分たちのレベル、弱点を知り、これを強化し、強いITを維持するために役に立つ。
今やITは、企業の実力を判断する視点の1つとなっている。自分のレベルを知り、これを高め続けることは、競争優位の確立のためにも、自社のブランド力の強化のためにも重要なことである。引地氏は、現在の改革の先に、日本のトップ10に位置づけられるようなIT化の先進事例を作っていくことを考えている。そのために、人材のさらなる育成とともに、ユーザー部門に対して、変化していくことの重要性を語り続けるつもりだ。
外資系大手企業と比較すると、日本企業は大手といえども、業務プロセスやアプリケーションの標準化統合、ベンダマネジメントにおけるしがらみの打破などの改革余地が大きい。しかし、現場のできない理由やしがらみを断ち切って、改革を進めることは簡単ではない。JTが採用した「外資系情報システム部門経験者の活用」という方法は、この問題を解決する有効な手段の1つだろう。
では、次ページより、引地氏との対談インタビューの全体を紹介しよう。
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