- 2007/06/27 掲載
【コミック・ガンボ編集長インタビュー】無料マンガ雑誌創刊「普通のマンガでは誰も読んでくれない」(2/2)
――週刊誌にこだわった理由は?
甲斐■癖になってほしいと思ったんです。やっぱり月刊だと、正直言って忘れちゃうと思うんですよ。月曜日はジャンプで、火曜日はガンボで、水曜日はマガジンで……という感じで、読者のスケジュールの中にうまく入ってほしかった。それと、もちろんビジネス的な側面で言うと、単行本が早く出せるということがあります。月刊だと、単行本が出るまで1年近くかかりますということになると、それまで会社を存続させるのが大変ですし(笑)。
――その一方で、バックナンバーを無料で読ませるなど、Webを使った試みをいくつかしていらっしゃいます。これは他の出版社ではあまり行われていませんよね。
甲斐■そうですね。他の出版社にできなくて、われわれだからこそできるというのは、「ネットでも無料で読める」体制を作れるところにあると思います。『少年サンデー』が無料でネットで読ませちゃったら、買う人が減ってしまってビジネスが成り立たない。我々はそもそも無料で読ませているので、紙は10万部だけど、ネットでそれ以上に読まれる可能性が広がっていくんです。
――そもそも、コンテンツビジネスの中におけるマンガの魅力は何でしょうか?
甲斐■ビジネスとしてマンガを見たとき、一番魅力的なのはやはり制作費が安いということに尽きると思います。漫画家さん一人への原稿料のみですむのですから、映画やアニメを作るのに何千万円か何億円かがかかるのに比べると、ケタがひとつか二つ違う。
――確かに、制作に関わる人数が圧倒的に少ないですから。
甲斐■そうして安い制作費でコンテンツをたくさん作って、読者というフィルタにかけられることが重要だと思っているんです。いま『ガンボ』にも毎週20本弱のマンガが載っていますが、その中で人気が出たものについては、そこからドラマなりアニメなりを作ってさらに大きな市場でおカネを稼ぐことができる。そういう最初のお試しの場となるのが、マンガの大きな価値だと思います。私どもの株主に日本テレビさんが入っていただいているのも、『ガンボ』を実験場として、映像作りにつなげていきたいという意図があるんです。
――読者というフィルタをかけるためには、どのような情報収集を行うのですか?
甲斐■どこの雑誌でもやっていることですが、読者プレゼントという形でアンケートを取っています。あとは、インターネットで読まれた回数というのも、基準のひとつになりますね。もちろん、たくさん読まれててもツマラナイと思われてる可能性もありますが、読まれてるということは読者の引きが強いから、てこ入れしていけばさらに可能性が広がるだろう、という風に考えています。
コミック・ガンボ |
――読者の人気を獲得するためには、やはり雑誌としての「編集方針」が重要になってくると思います。『ガンボ』の場合は?
甲斐■まず大前提として、エロはダメ、というのがあります。無料で配るので誰が読むかわかりませんし、直接手渡ししていますので、もらってみたらエロマンガが載っていて気分が悪い、といわれるのは困りますから。それと、一応キーワードとしては「発見・興奮・納得」というのがあります。
――『週刊少年ジャンプ』の「友情・努力・勝利」みたいですね(笑)
甲斐■「発見」はマンガを読むことで新しいことを知ることができる、というもの。『ブラックジャックによろしく』って、ドラマの面白さもさることながら、あちらを読むことで大学病院の実態を知ることができますよね。大人向けのマンガなので、やっぱりそういうのを目指していきたいと思っています。「興奮」はそのままですが、読んでいてドキドキ・ワクワクさせるようなものを。そして「納得」というのは、やはり大人向けなのであまりに支離滅裂なのはやめようと。別に魔法が出てきてもいいですけど、ひとつの作品の世界観の中で、つじつまがあうような内容にしたいと。
――絵がらを見ると、劇画調のものから萌え系のものまで、多岐にわたっているように感じます。昨今、マンガ雑誌界で細分化が進んでいるのとは対照的に感じますが?
甲斐■確かに、売るものでしたらターゲットを絞ったほうが読者にとっても良いと思います。だけど、無料誌の場合は受け取られる方が多岐にわたっているので、なるべく幅を広げて、その中でひとつでも二つでも好みにひっかかればいいと思っているんですよ。もちろん、何でもアリだと広告媒体として困ってしまうので、年齢と性別程度のターゲット区分をしていますが、ターゲットを「好み」という点で絞らなくて良いというのは、かえって我々のメリットなんじゃないかと思います。
――大手の出版社の場合は、少年誌から大人向けまで、世代やジャンルに合わせて雑誌が細分化されていますからね。
甲斐■ただ、今後は我々も、女性向けとかアキバ系によったものとか、別のターゲットに合わせた雑誌を考えようと思っておりまして、準備はしています。夏から秋にかけて、そちらの形も見えてくると思いますが、そうしたら、会社の中でも少しずつ住み分けを考えていかなければいけないでしょうね。
――そうなると、次のデジマさんの課題は、別の雑誌の創刊と、他には?
甲斐■今はほぼ首都圏でしか配布をしていないので、地方への展開を拡大しつつ、海外の企業からも声がかかっているので、そちらへの進出も考えています。でも今は、何より単行本の発売ですよね。当初は原稿がたまった春くらいにはスタートさせようと思っていたのですが、取次会社との契約などに時間がかかり、遅れていました。そちらのめどもたってきたので、夏ごろには発売にこぎつけることができるのではないでしょうか。
――無料のコミック雑誌と有料のコミックスとでは、読者の反応も異なるでしょうね。
甲斐■そうですね。通信簿を出してもらうような心境ですよ。今まで自分自身が面白いと思うものを作ってきて、おかげさまで10万人の人に認めてもらってきました。その人たちが「これなら単行本でまとめて読みたい」と思っていただける品質のものが、どこまで作れていたんだろうかと。売れたか売れないかで、読者の評価をストレートに受けてしまうわけです。売れないとなったら、胃が痛むようなことになるかもしれませんね。非常にどきどきしていますよ。楽しみですね。
(取材・構成:おざわまき)
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