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DXの取り組みを進める自治体は多いが「時間」を起点にしたDXを進めようとしているのが横浜市だ。「市役所に来庁する市民の時間や行政サービスを処理する職員の時間がどれだけ削減(還元)できるのか」を起点とし、イノベーションによる新たな行政サービスを生み出していこうという思いが「デジタルの恩恵をすべての市民、地域に行きわたらせ、魅力あふれる都市をつくる」という「横浜DX戦略」に定められている。横浜市のDXの基本方針や具体的な施策の取り組み、生成AIをはじめとする最新テクノロジーの活用について話を聞いた。
横浜DXの起点は「時間」
横浜市は、デジタルテクノロジーの進展、普及によって急激に変化する社会生活や、自然災害、少子高齢化をはじめとするさまざまな社会課題に対応するため、DXの取り組みを進めている。下田氏は、「横浜DX戦略」について「デジタルの恩恵をすべての市民、地域に行きわたらせ、魅力あふれる都市をつくるという目標は、デジタルによって地域や市民、横浜市が魅力的になり、元気になることが狙いだ」と話す。
「デジタルが浸透した結果、『巨大IT企業や個人がメリットを享受する一方で地域の格差が生まれたり、産業が衰退する』ということが起きているのではないでしょうか。そうではなく、地域や市民がより元気に、魅力的になるためにデジタルを使うという強い思いがあります」(下田氏)
そして、デジタルを手段と捉えたときに、DXの結果として生み出される「価値」については、「市民に時間を返す」ことと定めた。
下田氏は「横浜には大学などの学術機関もあるし、企業も多い」とした上で、「これまでどの程度、行政サービス、事務処理に時間を要していたか、その時間を職員や市民にお返しするという思いで、多様な主体と連携して地域が一丸となってDXに取り組んでいきたいと考えている」と話した。
DXの結果として「時間」という価値に着目したのはなぜか? 下田氏は「かつてITの導入というと、業務効率化やコスト削減などのツールという面が強かった」とした上で、「効率化の取り組みというのは、突き詰めていくとどうしてもポジティブさが失われてしまうから」と話す。
「効率化とか削減のためにITを導入するというアプローチでは、たとえば区役所や局組織の担当職員といった、担い手であるはずの人たちが自らの職員数や使える予算を削減するために改革を行うということになってしまいます」(下田氏)
その点、「時間」を起点に、「市役所に来庁する市民の時間や行政サービスを処理する職員の時間がどれだけ削減できるのか、あるいは市役所に来るお客さまに素晴らしいサービスを体感してもらい、その副次効果として効率化や削減という効果が生まれれば、取り組み自体がポジティブな意味合いを持つ」ということだ。
さらに、「産業の育成」という観点もある。たとえば、横浜市では、さまざまな人との共創を通じて新たな課題解決のツールを生み出し、「ゆくゆくはそのツールを他の都市にも利用してもらうということを考えている」そうだ。
「約8000人いる横浜市の消防団が紙で行っているピーク時月に5000件以上に上る活動報告などの業務をアプリ化し、令和5年4月から全団に導入し、団員などが費やしていた「時間」をお返しする取組をスタートした。消防団員と横浜市、ICT企業が意見交換と実証実験を重ね作り上げたもので、消防団員の業務の効率化につながるだけでなく、発災時の情報交換にも活用が見込まれる。既に、他都市からの照会や実証・活用の動きも出てきており、こうした横浜DX発のアプリを他の都市にも利用してもらうことで新たな産業という価値を創出したい」と下田氏は話した。
「時間」を入口にして、イノベーションによる産業の創出や、今までにないサービスを提供していく、さまざまな効果を生むことが、関わる人すべてがポジティブにチャレンジしていくことにつながる──。これが横浜市のDXの本質だ。
【次ページ】横浜DXのプロセスは「デジタルデザイン」
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