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- 2023/08/25 掲載
【世界が衝撃】中国「若者失業率20%超え」、それよりヤバい「隠された2大問題」とは
「若年失業率2割超」の衝撃に隠された数字の仕掛け
中国国家統計局が「21.3%という数字を過大評価しないように」と訴えている理由は単純だ。9月になれば下がるからだ。この失業率は調査が始まった2018年1月からこれまで「7月は高くなり、9月は下がる」という明白な季節変動が見られた。差が小さいため分かりづらいが、全世代の失業率も2月に高くなり、夏には下がる。では、季節変動はなぜ起きるのか。この失業率は、正式には「全国城鎮調査失業率」と呼ばれるもので、日本をはじめとする先進国の失業率とは調査方法が異なる。一般的な失業率は「働く意思があるのに仕事がない人」の割合だが、中国の調査失業率は「働く意思に関わらず、調査時点で働いていない人」の割合なのだ。
具体的には次のような方法で調査される。中国には、都市部では居民委員会、農村では村民委員会と呼ばれる町内会のような自治組織がある。この委員会をランダムに抽出し、さらにその中の家庭を合計34万戸になるようにランダム抽出、その家庭に専用端末を持った調査員が訪問し、16歳以上の全員に就業状況の聞き取り調査を行う。これを毎月1回行っている。
失業者とみなされるのは、次の3つの条件をすべて満たしている人だ。
- 調査週間に仕事をしていない
- 過去3カ月以内に仕事をした/探したことがある
- 適切な仕事があれば2週間以内に仕事ができる状態にある(する意思は問わない)
つまり、以前は仕事をしていた、もしくは仕事を探していたが、今は仕事をしていない人が失業者となる。一見これでいいように思えるが、失業者ではない人を失業者としてカウントしてしまう問題がある。
最たるものが大学進学予定者だ。大学に進学をする人は6月に大学入試共通試験「高考」を受験する。7月には結果が判明し、9月から通学することになる。6月の頭に高考が終わり、時間ができるとアルバイトを探すか、実際にアルバイトをする人は多い。そして7月に大学が決まると、アルバイトを辞めて進学準備をする。このような人は、7月に失業率の調査を受けると、1から3の条件をすべて満たすことになり、失業者として認定されてしまうのだ。
一方、9月に同じ調査を受けたとすると、学校があるので3の条件を満たすことができず、失業者ではなくなる。これが7月に失業率が上がり、9月に下がる原因になっている。そのため、国家統計局は「7月のピーク時の値だけを見て過大評価するべきではない」と説明している。
全体が上昇基調は事実、背景に進学率の上昇
民間の評論家は2つの点を指摘している。1つは進学準備をしている学生を失業者とみなしてしまう調査方法に問題があるのではないかということ。もう1つは、それでも全体が上昇トレンドにあることは問題ではないかという点だ。学生を失業者とみなしてしまう問題については、国家統計局は「そもそも調査失業率は雇用状況を見るための指標ではなく、社会全体の労働力の余力を見る指標である」と説明している。
労働力に余力があれば、人材の流動性が高まり、急激な産業構造の変化に社会は耐えることができる。一方、労働力に余力がない状況では、人材の流動性が低くなり、急激な産業構造の変化が起きると至るところで人手不足のような問題が起き、変化が阻まれることになる。調査失業率は、そのような労働力の余裕を見て政策を決定するための指標だと主張をしている。
民間の評論家は、そうであるなら「失業率」という名称ではなく、たとえば「休業率」や「労働余力」などという名称にすれば余計な誤解を生まずに済むのではないかと指摘している。
若年失業率が上昇基調にあることも、進学者数が急増していることによるものだと国家統計局は説明している。実際、中国経済の先行きが不安になると、進学を希望する人は増え、さらに大学生の再受験組、社会人の受験組も増え、高考受験者数は2018年から増える一方だ。進学者数が増えれば、若年失業率も上がることになる。
このような批判を受けて、国家統計局は「若年失業率には『社会にさまざまな見方があり』『より優れた統計指標に改善をするため』8月以降の年齢別調査失業率の発表をしばらくの間停止する」と発表をした。政策的には意味のある指標であったとしても、世間に誤解を与えたことを認めた形だ。 【次ページ】若年失業率よりはるかに深刻、浮かび上がる2つの大問題
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