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ChatGPTをはじめとする生成AIが話題を呼ぶなど、AIの知名度が日々高まる一方で、その中身を深く理解している人はいまだに多くないのが現状だろう。自分には「関係のない話」と興味を持たない人もいるかもしれない。こうした中、幅広い人にAIへの理解を促すうえで鍵を握るのが、AIとは何かを具体的にかみ砕いて説明する「アウトリーチ活動」だ。最新のAI研究をどうアウトリーチしていけばいいのか。研究者とサイエンスライター、キュレーターの3氏がそれぞれの立場から熱く語った。
本記事は、NEDOが2023年2月に開催した「AI NEXT FORUM 2023」のセッション内容を基に再構成したものです。
アウトリーチで必要な「雰囲気づくり」とは
今回登壇したのは、東京大学次世代知能科学研究センター教授の松原仁氏とJR東日本文化創造財団 高輪ゲートウェイシティ(仮) 文化創造棟準備室長の内田まほろ氏、サイエンスライターの森山和道氏の3氏である。
3氏がまず語ったのは、最先端技術だけに理解がそもそも難しいAIの「アウトリーチの在るべき手法」についてだ。このテーマについて「オンライン/オフラインを問わない研究側からの能動的な発表機会の獲得」が必要と述べたのは松原氏だ。研究者や技術者は従来、自身での発表に関心が薄く、大学予算の関係もあり展示会でのブース参加も進みにくかった。ただ、「研究者の意識も変わりつつあり、今後に期待しています」(松原氏)という。
一方、内田氏は「アウトリーチの目的ごとの丁寧な説明」を重視するという。研究アウトリーチの目的は、一般に「企業との共同研究」「次世代人材の獲得」「一般社会からの理解獲得」の3つに大別される。
「このうち最後は、説明の“発し手”と“受け手”の共通理解の乏しさなどから特に難度が高いです。研究者は大半が男性であるため、世の中は半数を占める女性の視点が特に欠けがちです。理解を促すには女性研究者を増やすといった努力が必要なのではないでしょうか」(内田氏)
同様の観点から森山氏が必要性を指摘するのが「時代に合った雰囲気作り」だ。「ジェンダーバランスへの配慮はもはや必須でしょう。その意識を欠いては、アウトリーチ活動が炎上しかねません」と警鐘を鳴らす。
AIを「自分事」と捉えてもらうために
3氏は、「AIの社会実装の進め方」についても議論を交わした。この点について、「どぶ板営業的な活動しか手はない」と話すのは森山氏だ。
そもそも多くの人にとって「AIは自分には関係のない話」(森山氏)で、AIをどう使うかという発想自体が出てこない。ChatGPTこそ広く知られているが、現状は無名なAIも山のようにある。当然、それらの用途は千差万別で、その良さを理解し、採用してもらうには、個別に説明するより手はない。森山氏は「あとは、今のAIバブルをうまく活用するしかない」と指摘する。
交通系のAIベンチャーに参画する松原氏も、自身の企業への営業経験から森山氏の考えに同意する。
「たとえば交通事業者は乗客と乗員の確保が最優先で、アルゴリズムなどに興味はありません。門前払いが本当にあるということを初めて知りました(笑)」(松原氏)
対して、日本の技術者は自身の開発したアルゴリズムや手法に思い入れがありすぎ、「逆にビジネスを理解する努力が不足している」(森山氏)傾向があるという。それゆえの提案側と企業との考え方の不一致も理解が広がらない理由の1つだという。
こうした状況の打開にあたっては、社会と研究者の間を取り持つ仲介者の存在が鍵になりそうだ。日本科学技術未来館での各種の展示イベントや、アート作品展を手掛けてきた内田氏は、「知識の“溝”を埋め、技術や作品を理解してもらうには、意味をかみ砕いて説明するキュレーターのような“翻訳者”が欠かせません」と語る。
とはいえ、その確保も容易ではないという。
「日本では人材が文系と理系に分かれますが、文系は技術に疎く、理系は社会のシャッターが閉じています。この状況にあっては、外部からの人材獲得は極めて困難です。研究支援プログラムの中に人材育成を組み込むべきなのでは」(内田氏)
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