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日本は、中国、米国、ドイツに次ぐ世界4位の貿易大国である。そして、その輸出入の99%以上を海運が担っている。島国である日本において、港は経済を支える極めて重要な社会インフラであるため、このエリアに位置する物流倉庫のニーズは高い。一方、大きな課題として長年語られているのが、古い倉庫の乱立やいつまでも図られない物流最適化だ。しかし最近では、湾岸エリアに頼らず、内陸部に物流倉庫を設けて最適化を狙う事例が増えてきた。本稿では湾岸エリアの課題を指摘しつつ、輸出入貨物における物流の今を紹介する。
湾岸倉庫が人気のワケ
まず船で輸出入された貨物は、どのように届けられるのか。たとえばコンテナ船で輸入された貨物の場合、倉庫でコンテナから取り出された後、仕分けされて出荷となる。
当然、仕分けを行うのは港に近い場所の方が良い。だが実際には内陸の、時には100キロメートル以上離れた物流倉庫まで、コンテナのまま貨物を輸送することもある。輸送先がさらにその先にあれば良いが、実際には東京港で揚げられた貨物を、関東北部や東北まで輸送し、再包装・再梱包、流通加工を施した上で仕分け、再び首都圏まで輸送するケースもある。
このような無駄な輸送が発生する原因は、港に近い湾岸エリアの土地が限られていることが1つにある。結果、おのずと湾岸エリアの物流倉庫に人気が集まることになる。
湾岸倉庫を増やせない「3つの背景」
ならば、湾岸エリアにもっと物流倉庫を増やせば良いのだが、ことはそう簡単ではない。その背景には主に3つが考えられる
まず1つに、臨港(湾岸)地区の問題だ。主要な港の周辺には、地方自治体が管理する臨港地区と呼ばれる地域がある。行政が管理し、かつ規制も多い地域ゆえ、民間が「これは良い立地だから新しい物流倉庫を建設したい」と考えても、おいそれとは実現しない。
また臨港地区は、昭和のころに建設されたような古い物流倉庫が少なくない。これが2つ目の背景である。たとえば、大正14年(1925年)に開港し東京港最初のふ頭である日の出ふ頭には、年代物の平屋倉庫が並んでいる。趣のある倉庫ではあるが、首都圏の社会インフラを担うべき倉庫としては残念ながらスペックが足りない。
日の出ふ頭は極端な例だが、東京港に建ち並ぶ昭和の遺物たる倉庫たちがいまだ現役である以上、さらに機能的な最新の物流倉庫への建て替えはとても難しい。
3つ目の背景には、物流用途以外で湾岸エリアの人気が高まっていることも挙げられる。フジテレビを筆頭に観光施設が建ち並ぶお台場や、タワーマンションが雨後のたけのこのように増え続ける有明・豊洲地区(東京都江東区)などでは、物流倉庫にマッチした広い土地が放出されても、商業施設や観光施設、オフィスビルやマンションなどとの競合入札になることも多い。
たとえばファーストリテイリングは、江東区有明の約1万1000坪の土地に、物流センターの機能を備えたオフィス(延べ床面積約3万4000坪)を2016年に竣工させて開設。本件における土地取得価格は421億7,000万円で坪単価は約384万円となる。しかし当時の国土交通省による地価公示を確認すると、有明3丁目(東京ビッグサイトの裏手付近)の坪単価は28万8,000円ほどである。公示価格がイコール土地の取得価格になるわけではないが、それにしてもすさまじい乖離である。
「物流倉庫のみの目的で行うわれわれの入札金額は、下手をすると桁が1つ違うことだってあり得る」。物流不動産ビジネス関係者のぼやきは、10年以上前から聞かれてきた。こうした背景もあって湾岸エリアで展開している物流倉庫オーナーやテナントは、比較的強気の商売ができていたのだ。
しかし最近では、湾岸エリアに頼らず、あえて内陸部で物流最適化を図ろうとする動きが出てきた。たとえば、事業者向けに工場・工事用・自動車整備用品などのECを展開するモノタロウだ。
【次ページ】モノタロウの事例:あえて内陸? 湾岸に頼らない物流最適化
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