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米国ではアマゾンの売上減少や人員整理が話題となり、ECサイトの先行きに不安の声が高まっている。海外動向が国内EC市場に与える影響を不安視する声も広がる中、国内大手ECのアスクルは、「2025年5月期には連結で売上高5,500億円、営業利益率5%、株主資本利益率(ROE)20%」と強気な目標を掲げている。その自信の背景にあるのが同社が取り組む2つのDXだ。アスクル 代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)の吉岡晃氏に話を聞いた。
聞き手:松尾慎司、執筆:翁長潤、編集:本橋実紗、写真:濱谷幸江
聞き手:松尾慎司、執筆:翁長潤、編集:本橋実紗、写真:濱谷幸江
アスクルのDX戦略を支える2つのポイント
アスクルの役割は、お客さまの日常を支えることにあります。そのため、当社は、「お客さまの手元にワンストップで多くの商品を早くお届けするだけでなく、ご注文からお届け、そしてお客様が商品を廃棄するまでに発生する廃棄物やCO2輩出を低減させる」という価値提供を目指しています。
したがって、私たちがやらなければいけないのは、価値提供の本丸となるバリューチェーンをデジタル化によって徹底的に効率化し、お客さまにとっての便益を生み出すものに作り変えることです。言い換えると、バリューチェーン、つまり売り場からサプライチェーンまでのデジタルトランスフォーメーション(DX)です。
売り場というのは、お客さまが商品を購入する際に利用するWebサイトやスマートフォンのページを指します。売り場で商品を受注した後は、ほとんどの工程を物流が担うことになります。したがって、DXの対象となるのは「Web・スマホの商品購入画面(売り場)」と「物流(サプライチェーン)」の2つになります。
売り場DXの全貌、売上3,000億円規模のサイト統合
売り場のDXとして取り組んでいるのが、主に中小企業の担当者が直接、商品を購入できる「ASKUL」と、主に中堅企業以上向けに企業単位で利用者の購買管理も行える「ソロエルアリーナ」の統合です。
ASKULはもともと、中小企業のお客さま向けに手軽に仕事場に必要なものを購入していただくカタログ通販としてスタートして約5年後にECサイトでの受注を開始したサービスですが、徐々に大企業のお客さまにも利用いただくようになり、その中で大手のお客さまから「まとめて購入してディスカウントを受けたい」もしくは「購買統制をかけたり、購買データを管理したりしたい」というニーズが出てくるようになりました。
そこで生まれたのが「ソロエルアリーナ」という購買管理機能を備えたECサイトです。たとえば支社ごとにバラバラに行っていた発注を可視化・集約し、効率的な発注ができるようになります。
このような誕生の経緯もあり、ASKULとソロエルアリーナは別々に進化することになりました。
そこから時代が移り、ASKULを利用するお客さまの中にも規模の大きいお客さまが増え、ASKULでも「管理購買の機能を使いたい」という声をお聞きするようになった一方、ソロエルアリーナのお客さまからは「検索エンジンから直接ソロエルアリーナで購入したい」といった声が聞かれるようになりました。両サイトの進化への要望が同じ方向性を持つようになったのです。
そこで、両者の良いところを結集して、サイトを統合することにしました。
統合のメリットとしては、サイトごとに収集していたお客さまの購買データも統合され、一層精度の高いデータ分析などを通じて、UI/UXの改善に生かせると考えています。もちろん私たちアスクル側のオペレーションコストも効率化できます。
とはいえ、ASKULとソロエルアリーナは、それぞれ売上が1,500億円規模もあるサイトであり、売上3,000億円規模の新しいサイトを立ち上げるのは容易なことではありません。当初の計画より遅れているのはたしかですが、設計当初の期日にこだわりすぎてはおりません。なぜなら、私たちが最も重視しているのは、お客さまの購買業務を止めないことにあるからです。
私たちが商品をお届けすることは、お客さまの仕事に直結します。ですから、注文できない状態を絶対に作ってはいけないのです。そこを犠牲にしてまでリリースを優先しようとは思っておりません。
実際に、少しでも不具合があったらすぐに元に戻すなど、リリースはとても慎重に進めています。大切なことは、絶対に止めてはいけないこと、きちんとしたものを仕上げて出すことです。
【次ページ】サプライチェーンDXの全貌、最先端倉庫の効果とは?
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