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2023年3月で創業30周年を迎えるアスクルは、生活用品をはじめ、医療用品や現場用品など事業所向けに必要なものを届けるEC事業を手がける企業だ。社名の由来は、注文したら「明日来る(アスクル)」から来ている。これこそが同社の強みであったが、今や配送スピードは他社との差別化要因とはなりえない状況にある。それでもなお、アスクルは2022年5月期に過去最高益を更新、直近の2023年5月期第2四半期決算でも過去最高を更新するなど、成長を加速させている。今期、中期経営計画2年目の位置づけとして「成長カーブを変える」と語り、それを実現したアスクル 代表取締役社長CEO 吉岡晃氏に取り組みの詳細を聞いた。
聞き手:松尾慎司、執筆:井上健語、編集:中澤智弥、写真:大参久人
聞き手:松尾慎司、執筆:井上健語、編集:中澤智弥、写真:大参久人
アスクルが過去最高益を更新できた理由
過去最高益を更新できた理由は、大きく分けて2つあると考えています。
1つは、数年前から進めてきた構造転換が成果につながっているということです。2017年頃の当社は、ドライバーの過剰労働や人員不足でサービス品質の維持が困難になる「宅配クライシス」を背景とした宅配料金の全国的な値上げの問題に直面していました。こうした中でも、売上成長はしていましたが、宅配クライシスの影響も含めて大幅な赤字となっていたB2CのLOHACO事業について、構造変革を強く進め、赤字額を着実に減らしていったのです。
もう1つはコロナ禍の影響です。コロナ禍にはプラスとマイナスの影響がありましたが、私たちの場合はプラスの影響をより強く受けたと考えています。
もともとアスクルはオフィス向けの商品が多いのですが、実際のお客様は医療、介護、製造、建設、教育などエッセンシャル業種の割合が多いのです。
そこで、かなり前からこうしたお客さま向けの商品の品ぞろえを強化していました。それが、コロナ禍によって急激に需要が伸びたのです。特に消毒液やマスクなどのメディカル商品は、医療機関以外のお客さまにも、たくさん購入していただけました。
コロナ禍で売れた商品、売れなくなった商品
新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2020年初頭、大手メーカーや全国の多数の医療機関とお取引のあった当社は、「アスクルなら信頼できる」ということで経済産業省と厚生労働省から「消毒液を医療機関、介護福祉施設、医療ケアが必要な個人宅へ優先的に届けてほしい」といった要請をいただき、社内に特別チームを立ち上げ約10万本を出荷させていただきました。
当時、ECではマスクや消毒液などの転売が横行したり、品質の悪い商品が販売されたりしていました。しかし、私たちはもともと法人向けビジネスが主力です。そのため、医療介護施設はじめとした本当に仕事で必要としている現場に、きちんとした品質の商品を優先的にお届けするため、転売目的の購入を防ぐ策を講じました。コロナ禍におけるこうした姿勢がサプライヤーにも認められ、国からの信頼にもつながったのだと思います。
こうした背景もあり、エッセンシャル業種のお客さまを中心にさまざまな感染対策商品をご購入いただきました。たとえば、ペーパータオルやウェットティッシュ、アクリルパーティションなどもそうです。コロナ禍前からこうした商品の品ぞろえを強化していたこと、また感染対策や衛生用品はコピー用紙などの従来品に比べて利益率が高い傾向にあったことなども追い風になりました。
もちろん、コロナ禍のマイナスもありました。特に文房具やコピー用紙、オフィス家具などは、テレワークやペーパーレス化が進んだことで売上が減少しました。もともとオフィス市場が徐々に減少するとは予想していましたが、コロナ禍でそれが加速した印象です。とはいえ、全体で見るとプラスの影響のほうが大きかったのです。
ただし、コロナ後も成長を続けるためには、新たな取り組みが不可欠です。2021年7月に発表した中期経営計画では「オフィス通販からのトランスフォーメーション」をテーマとして掲げていますが、その背景にあるのは危機感です。「明日来る」という価値提供をできるeコマースは、もはや我々だけではありません。私たちのサービス自体がコモディティ化しつつあり、新たなイノベーションが必要なステージだという認識です。
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