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メタバースが注目を集めている状況下で、銀行や証券業界でもさまざまな取り組みが始まっている。営業チャネルの1つとして、メタバース内に出店するケースも目立ってきた。メタバース内での金融サービス業の現状と今後の展望、さらには参入していく際の課題や留意点について、アビームコンサルティング 金融ビジネスユニット シニアマネージャーである鈴木雄大氏に話を聞いた。
金融業のメタバース参入は「2パターン」
2022年9月時点で、メタバース空間でのグローバルな経済活動の主流となっているのは、暗号資産やステーブルコインによる決済だ。そのため、暗号資産のウォレット(通貨を管理しておくための財布のようなもの、銀行口座のイメージ)がメタバース世界における金融サービスの入口となっている。
法規制面での課題もあり、日本国内で金融業のメタバースへの参入はまだスタートしたばかりという現状がある。現時点での銀行や証券業界での取り組みは、大きく2つに分けられるだろう。
1つ目はPlace、つまり営業チャネルとしての活用である。SMBC日興証券やみずほ銀行などは、バーチャルマーケットに出店して集客しているのだ。島根銀行は地域経済の発展という文脈で、地域のメタバースイベントに出店している。
2つ目はProduct、つまり金融サービスとしての展開である。三井住友銀行では、トークンビジネスラボを設立して、NFTサービスを開発する動きが出てきた。三菱UFJ信託銀行では、『Progmat(プログマ)』というブランドでのサービスの展開を公表している。このProgmatは、ブロックチェーンの技術を活用したセキュリティトークンの発行・管理プラットフォームで、日本を代表する多くの企業が参画し、共同でサービスの開発を進めているとのことだ。
「国内の金融サービス業においては、営業チャネルを活用するケースがいくつか出てきています。プロダクトに関しては、まだまだこれからというのが現状です」(鈴木氏)
メタバースに対する金融機関の動きの活発化を象徴しているのが、2022年4月にSBIホールディングスによって設立された日本デジタル空間経済連盟だろう。設立の目的として、「業界横断の総合経済団体として、デジタル空間における経済活動を活性化し、日本経済の健全な発展と豊かな国民生活の実現に寄与すること」と掲げられている。
日本デジタル空間経済連盟は、複数の企業が「共同企業体」を組成して、共同でサービスを開発するコンソーシアムと定義できる。
「日本デジタル空間経済連盟の具体的な活動内容は、2022年9月の時点でまだ公表されていません。しかし、メタバース空間における各種サービス開発が進んでいると考えています。その他にも、多くのコンソーシアム・イニシアティブが設立されており、国内メタバースの主導権争いが激化しています。今後、このような取り組みを通じた、各種企画・ルール整備、ならびに新たなユースケース開発が進展するだろうと予測しています。」(鈴木氏)
メタバース上で金融サービスを成立させるのが難しい理由
モノ・ヒト・コトに関わる活動は、メタバースでも同様に存在しているため、メタバース空間も現実空間と同じような金融活動がベースになるだろうと鈴木氏は予測している。
「メタバースの金融で重要なポイントになるのは、『認証』『KYC(本人確認)、AML・CFT』『不正検知』の3つです。これらはメタバース向けに作り直す必要があります。メタバースにおいて、本人をどう特定していくかが課題になります」(鈴木氏)
現実の世界であれば実在する人物に対して、本人確認を行い、信用を与えることができる。しかし、メタバース空間では、アバターという仮想人物が存在しているため、本人の特定はきわめて困難になる。1人の人間が仮想空間AではアバターA、仮想空間BではアバターBというように、複数の人物として活動することもあり得るのだ。
「個人の特定ができないことを前提とした場合、必要になるのはウォレットをベースとする考え方です。メタバース空間ではKYC済みのウォレットをベースとした設計になる可能性が高いと推察しています」(鈴木氏)
メタバース空間における決済・送金・資産の保有といった金融活動において、KYC済みのウォレットを使用する方法は、きわめて合理的と言えるだろう。1人の人間がアバターA、アバターBなど複数のアバターを設定したとしても、背後にあるウォレットは同じものを使えるからだ。
「メタバース空間上の不動産の購入など、大きな取引の場合は、ウォレットではなく、その都度、裏側の実在人に対して信用供与するケースが出てくる可能性もあるでしょう。しかし、日常の少額の送金・決済などに関しては、KYC済みのウォレットでの対応することになるだろうと考えています」(鈴木氏)
【次ページ】メタバース空間の金融サービスにおける「マネロン対策」
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