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ここ数年、製造業では「ロボティクス」「AI」「IoT」「デジタルツイン」「メタバース」「データ連携」など、あらゆる技術コンセプトの重要性が語られてきた。そのたびに、企業はその活用方法を模索し、ビジネスに取り入れてきたが、最近そうした取り組みのすべてを加速させる“強力な武器”として「生成AIの活用」に注目が集まっている。本記事では、産業領域における生成AIの活用方法を3つのモデルに分類しつつ、各モデルの中から面白い事例を紹介する。自社の生成AI活用はどのモデルに当てはまるだろうか。
製造業に共通する「経営課題」まとめ
近年、製造業では「ロボティクス」「IoT」「AI」に続き、「デジタルツイン」「メタバース」、「データ連携(GAIA-X/Catena-X)」など、あらゆる技術コンセプトが次から次へと登場してきた。
そうした中で、常に企業は新しい技術をどのように自社に取り入れられるかに頭を悩ませてきた。しかし、あらゆる技術コンセプトはあくまで手段であり、活用の先にどのような目標を設定するか、といったことがより重要になる。
たとえば、現在、多くの製造業が取り組む経営課題などを踏まえ、あらゆる企業に共通する「目指すべき姿」の一例をまとめたものが下記の図だ。
実行系・計画系ともに共通するのが、自動化を進め「人手不足への対応」を目指す点、現場オペレーション・ノウハウをデジタル化によって可視化し、「品質の安定化」「技術伝承」を目指す点だ。それらオペレーションを実現するには、あらゆる技術コンセプトを活用しながら、現況をセンシング・可視化し、シミュレーションなどができる環境を整備できるかどうかが鍵を握ることになる。
一方、ビジネスモデルとして目指すべきは、自社のデータやノウハウを活用したソリューション型のビジネスモデルの創出や、サステナビリティやレジリエンスの実現などだろう。
【図解】DXの構造は「生成AI」でどう変わる?
そうした中、最近登場した「生成AI」に多くの企業が関心を持ち始めているが、それは、これまで企業が進めてきた取り組み(ロボティクス・IoT・AI・デジタルツイン・メタバース・データ連携など)における“強力な武器”となり、実現までのスピードを加速させる可能性を秘めているからだ。
そうした、「既存技術×生成AI」によって起きている構造変化を、計画系(上部)・実行系(下部)に基づき整理したのが下図だ。
このように従来のDXの構造の中に、生成AIが組み込まれていくことにより、取り組み全体が加速する。たとえば、効率的に計画業務を実施するための「新規事業案などのたたき台を作成」などに役立つほか、社内に蓄積したマニュアルや過去トラ(過去のトラブル)の事例などを事前に学習させておき、作業に着手する際に最も効率的なオペレーションを選べるよう生成AIに提示させたりできる。
そのほか、生成AIでシステムやロボットのコードを生成し、インテグレーションを効率化を進められるほか、過去の設計(製品・製造ラインなど)の3Dデータやパターンを学習し、求める設計仕様に基づいたデザイン案を提示することもできるだろう。
また、DXにおいて重要となる「データの活用範囲」も生成AIの登場により大きく拡張してきている。従来であれば、活用しやすいよう整理された“自社データ”がDXにおける主要なデータの対象であり、その点で言えば、活用できているデータは実は限定的であった。
一方、整理されていないデータにこそ、日本企業ならではのノウハウが蓄積されているという側面もある。たとえば、日本企業において強みとなっている熟練技能者やノウハウを持ったベテランのオペレーションはうまくデータ化がなされてこなかった。熟練技能者としても、自身のオペレーションや技術力を支えるノウハウを言語化することが難しく、ノウハウを言語化しマニュアルを作成できたとしても、そのマニュアルが本当に必要になるタイミングで活用されるような運用はなされてこなかった。
しかし、生成AIの登場により、こうしたデータも分析・活用の対象となり得る時代が来るかもしれない。生成AIでは、活用されていないテキストベースのマニュアルや、日報、過去トラブル報告書などを学習することで、欲しいタイミングで利用用途に基づき“答え”を引き出すことができるようになる。
加えて、自社内のデータとともにGAIA-XやCatena-Xなどのデータ連携を通じた他社データを活用することも広がってきており、自社内のデータをより拡張することにもつながっている。
DXを爆速化させる「Generative DX戦略」とは
上記で解説した、生成AIがDXを加速させる構造と、冒頭で解説した企業が「目指すべき姿」の図を対応させたものが下図である。
これら生成AIを既存のDXのアプローチに融合させることで、自社のデータ、オペレーション、DXの取り組みを拡張するアプローチを『Generative DX(ジェネレーティブDX)戦略』と呼びたい。
ジェネレーティブDX戦略とは、筆者による造語で、(1)自社オペレーションを効率化・生産性向上させることともに、(2)他社にソリューション外販することによるビジネスモデル変革の大きく2つの方向性が存在する。
すでに、このジェネレーティブDXには、いくつか事例が出始めている。それらをまとめたのが下記だ。
【「既存技術×生成AI」でDXを加速させた事例】
(1)設計システム×生成AI
設計のジェネレーティブデザイン(Generative Design:過去の設計データを学習し、求める設計仕様に合ったデザイン案のたたき台を生成)により設計仕様や写真・スケッチなどから製造可能な設計図案を自動生成(例:ダッソー・システムズ)
(2)デジタルツイン・メタバース×生成AI
デジタルツイン・メタバースなどの3D世界時代を生成AIにより効率的に構築する。衛星データから生成AIを活用して都市3Dモデルを生成(例:スペースデータ)
(3)ロボット×生成AI
ロボットの学習に活用する3D環境データを生成することで自動運転車や自立搬送ロボット、ピッキングロボットなどの学習を効率化する(例:アマゾンの倉庫)
(4)データ連携×生成AI
企業・業界を超えてデータ連携を行うことにより競争力のあるLLM(大規模言語モデル)を構築(例:Open GPTプロジェクト〈独〉)、プライバシーなどに配慮し合成したデータをデータ連携(例:医療領域データ連携)
(5)現場改善×生成AI
自社の現場改善ノウハウを生成AIに学習させ、自社活用するとともに、他社に対してソリューション外販も検討(例:旭鉄工 カイゼンGAI)
それでは、具体的に、どのような企業が、どのような取り組みをしているのだろうか。また、それら取り組みは生成AI活用のタイプで言えば、どのタイプに当てはまるのか。ここからは、生成AIの活用方法を3つのモデルに整理し、各モデルの生成AI活用事例を紹介する。
【次ページ】自社はどの段階? 生成AI活用「モデル1.0~3.0」を解説
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