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  • 2022/04/26 掲載

なぜデジタル化が必要か?紀伊國屋書店会長が「若手研究者の支援」に注力する深謀遠慮

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昭和2年(1927年)に創業し、90年以上の歴史を持つ日本最大規模の書店チェーン紀伊國屋書店(以下、紀伊國屋)。同社は大学や研究機関へ書籍や学術雑誌を提供する販売業者であると同時に、世界10カ国に41店舗を構えるグローバル企業でもある。長年、学術出版にも注力してきた代表取締役会長兼社長の高井昌史氏は「日本の学術界はデジタル化が遅れている。これは日本の競争力に関わる重大な問題だ」と警鐘を鳴らす。いま日本の学術界が直面する課題とは何か。高井氏へ単独インタビューで話を聞いた。
聞き手・構成:編集部 松尾慎司、執筆:吉見朋子、翁長潤、撮影:大参久人

聞き手・構成:編集部 松尾慎司、執筆:吉見朋子、翁長潤、撮影:大参久人

画像
紀伊國屋書店
代表取締役会長兼社長
高井 昌史 氏

コロナ禍で広がる「教育の情報格差」

 新型コロナウイルス感染症の影響は、私たちのビジネスや日常生活だけでなく、大学など学術研究の世界にも及んでいます。オンライン授業が浸透した大学では先生の指導方法が変わり、学生はデジタルを使った学修方法へのシフトが加速しています。

 デジタル化の波にうまく対応できた者と、できない者との間に情報格差が広がっており、デジタルリテラシーが個人・法人の能力差に大きく関わってくる時代と言えるでしょう。

 紀伊國屋は書店のイメージが強いですが、大学、図書館、研究機関へ専門書籍を提供する学術出版の卸業者としても長い歴史があります。また米国、アジア、オーストラリアなど、海外の大学やインターナショナルスクール、日本人学校、図書館など法人顧客とも深い付き合いがあり、1986年には米国の世界的な非営利・メンバー制のライブラリサービス機関であるOCLC社と国内で唯一、販売代理店契約を結びました。

 近年は教育図書・学術資料でデジタル商品の需要が高まり、電子書籍や辞書データベースなどを提供する機会が増えてきました。紀伊國屋自身も学術情報のデジタル化には30年以上前から力を入れており、コロナ前に学術和書を中心とした電子図書館サービス「KinoDen」をリリースし、洋書については学術書を集めた研究機関向け電子書籍サービス「ProQuest Ebook Central」の代理店として販売活動を行っています。

日本の学術界はデジタル化が遅れている

 しかし、残念ながら日本の学術情報はデジタル化の面において、世界に遅れをとってしまっていると言わざるを得ません。


 たとえば米国では図書館にある本のほとんどはデジタル化されています。学生は紙の本で調べることもできれば、電子化された本を横断検索することも可能です。欲しい本があればインターネットを使って、まず検索し、一次資料にあたる時は紙の本を参照するという使い分け方をしています。

 一方、日本はというと、デジタル化されている書籍は非常に少なく、特に百科事典、文学作品、歴史、語学、辞書などの電子化が遅れています。私が米OCLC社と販売代理店契約を結んだのも、あらゆる学術情報を世界標準の書誌データで情報収集できるようにしたいと思ったからです。しかし日本は言語的な問題もあり日本独自のシステムとデータベースを構築する意向が強かったため、その夢は叶いませんでした。そして、これが日本が世界の学術界の流れから外れデジタル化が遅れる一因になったのではないかと思っています。

 というのも、OCLC社のWorldCatは世界最大の書誌データベースであり123カ国・地域の1万7983機関が参加しています。近年は中国や韓国など、アジア主要国も次々にOCLCを採用しています。しかしながら日本からの参加はほんの一握りの大学だけです。

 つまり、世界中の研究者たちが同じデータベースを使っているにも関わらず、日本だけが取り残されてしまったのです。その結果、日本の研究者たちは海外から学術情報を集めるのに非常な苦労を強いられています。

 また大学側にも大きな負担がかかっています。いまや世界的な影響力をもつ学術雑誌はイギリスの「ネイチャー」や、米国の「サイエンス」などの著名タイトルをはじめ、海外出版社の比重が圧倒的に高く、日本出版社の認知度はほぼ皆無です。大学図書館は海外論文を集めるために、高級車が買えるほど高額な購読料を支払う必要があります。

 日本の学術発展を考えた時、デジタル化の遅れ及び日本出版社の知名度が低いことは大きな障害です。この2つの問題点を解消するためにも世界標準化された共通インフラを導入したほうがいいというのが私の考えです。もし、それができないのであれば、研究者の海外流出は避けられないでしょう。

【次ページ】研究者のためのデジタルインフラ整備が急がれる
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