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高速道路IC周辺などに真新しく巨大な倉庫を見かけたことがある方も多いことだろう。ECビジネスの拡大などを背景に、ここ数年、日本各地において倉庫・物流センターの建設ラッシュが続いている。このような物流センター・倉庫など物流関係不動産の建築、売買、賃貸、リノベーションなどを、物流不動産ビジネスと呼ぶ。物流不動産営業の世界では長らく「立地と賃料で営業が決まる」と言われ続けてきたが、ここに来て物流センターを借りるテナント企業に対して、積極的に提案営業を仕掛けていこうという流れが生まれ始めた。日本GLPの事例を交えながら、物流不動産の未来を考えたい。
物流不動産営業は「立地と賃料のマッチングがすべて」?
筆者自身、物流不動産の営業に誘われた時期があった。2013年に独立起業したものの、当初目論んでいたビジネスが立ち行かず、新たな道を模索していた時期のことだ。
結果的には、私が物流不動産の営業になることはなかったのだが、そのとき物流不動産営業の先輩から言われた言葉が「物流不動産営業は千一(せんいち)だから」というものだった。
曰く、「物流不動産ビジネスは、マッチングがすべてである。倉庫・物流センターを探す顧客のニーズにマッチした物件を見つけることができる確率は極めて少なく、千分の一ほどしかない」という意味である。
「それはつまらないな……」──諸先輩のお叱りを承知の上で率直に言えば、当時の私は、このように感じてしまった。
倉庫を新たに求める顧客の多くが、立地の希望を持っていることは当然だろう。加えて、広さ、付帯設備(冷凍・冷蔵・常温、冷暖房装置の有無、トラック用駐車場の有無、天井クレーンなどの特殊設備等)の希望があることも当然だし、予算として、あらかじめ賃料の想定があることも当然ではある。
だが、顧客の言うとおりの倉庫を探すことが、物流不動産を生業とする営業に求められるすべてだとすれば、それは営業としては、あまりに味気ないのではないかと感じてしまったのだ。
誤解のないように申し上げると、物流不動産営業は当時の私が感じたような安直なものではない。優れた物流不動産の営業パーソンは、自身が構築した人脈を用いて、まだ市場に出回っていない空き倉庫情報を独自に抱えている。
表面上はテナントが入居済みの倉庫においても、入居しているテナントではスペースを持て余しているケースもある。たとえば、3000坪借りたものの2000坪分しか貨物で埋められず、1000坪を遊ばせているようなテナントもいるのだ。こういった、いわば「隠れ空き倉庫」は空き倉庫情報サイトなどでも出回っていないことがある。このように、物流不動産営業は、優れた情報収集能力と人脈づくりが必要な営業ではある。
だが一方で、立地と付帯設備、賃料等の顧客が抱えるリクエストに対し、世にある空き倉庫情報から合致する物件を探し当てる「マッチング営業」であることも事実である。
変わり始めた倉庫のアピール方法
とはいえ、倉庫を建築するディベロッパー側に関して言えば、アピール方法やポイントは徐々に変わりつつある。
私が物流不動産という言葉を知った2013年ごろは、10万坪、20万坪といった延床面積を備える巨大倉庫を「メガ倉庫」と呼び、話題になり始めた時期であった。当時は、メガ倉庫であること、つまり規模の大きさをアピールするだけで差別化になった。理由は簡単である。巨大であることそのものが、テナントとなる荷主や物流企業にとってメリットだからだ。
たとえば1500坪を利用するケースでも、1フロアで1500坪を賄うメガ倉庫と、500坪ずつ3フロアにまたがるボックス型倉庫ではまるで作業効率が異なる。1500坪を3フロアに分割されれば、貨物の置き場や作業動線のレイアウトにも制限が出る。貨物を垂直搬送機や貨物用エレベーターで上下移動させる手間も発生するし、何よりも各フロアに作業員とフォークリフト等を配置する必要が生じる。
当時の物件資料には、床面積、倉庫内レイアウトを示した図面、床の耐荷重、天井高、垂直搬送機や貨物用エレベーター、もしくは冷蔵・冷凍設備の有無、冷暖房装置の有無といった、スペックしか掲載されていなかった。
様子が変わり始めたのは、4~5年前だろうか。メガ倉庫が次々と竣工したことによって、単に巨大であることだけではアピールとして弱くなってきたのだ。
たとえば、竣工予定の倉庫に対し、その倉庫にアプローチで可能なバス等の公共交通機関、もしくは倉庫が運用する送迎バスのルートと、そこから想定される就労可能人口数が、物件資料に掲載されるようになったのだ。
土地取得費用の安い郊外にメガ倉庫を建てたほうが建築費用は抑えられる。だがそのような倉庫は、中で働くパートやアルバイト、もしくは社員を集められず、倉庫内の業務遂行に支障が出るケースがある。もともと人口の少ない郊外に建築したのだから当然の帰結なのだが、人手を必要とするEC事業者などにとってこれは致命的となる。
そのためディベロッパー側が、倉庫内で働く人の募集に心配がないことをアピールし始めたのだ。路線便の集荷をディベロッパー側がコミットしたり、同じ倉庫内に路線便を誘致するケースもある。
最近では路線便事業者が集荷を渋るケースが出てきている。トラックドライバーの不足、ECの拡大、宅配便取扱量の爆発的増加などを理由に路線便もキャパオーバーし、集荷ができなくなる営業所が出始めているのだ。
路線便を頼る一部のテナントからすれば商品が出荷できないわけであり、ビジネスの死活問題につながる。そのため、ディベロッパー側が路線便、つまり出荷のためのクルマを確保することで、テナントの誘致へとつなげようというわけである。
「そうは言っても、やはり物流不動産営業の肝は、『立地と賃料』であることは変わらない」──そう語るのは、私が取材した物流不動産の営業パーソンである。それも複数だ。
たしかに、倉庫に対し、人の確保や、輸送手段の確保といった付加価値をつける流れはある。コンビニや保育園、中にはネイルサロンを設けることで、付加価値をつけようとする倉庫もある。だが、こういった付加価値は、同エリアで、かつ同レベルの賃料の複数物件があったときに、最後のひと押しになる営業材料にはなるものの、それ以上でもそれ以下でもないと、私が取材した物流不動産営業たちは断言した。
注目すべき取り組みを行う、GLP ALFALINK
「私たちはずっと以前から、自身の物流倉庫に付加価値を設けることで、周辺の物流倉庫との差別化を実現してきました」──このように断言するのは、日本GLP 代表取締役社長 帖佐義之氏である。
帖佐氏は、不動産の賃料はマーケット相場によって決められるべきであるという、不動産ビジネスのロジックを大切にしたいと考えてきた。ところが、こと物流不動産営業の現場では、「竣工から○年経過したから、減価償却が進んでいるはず。だから賃料を安くして!」という、強い値下げ要求を経験してきた。
これは、叩けるとなれば何でも材料にして値下げ要求をしようという、物流業界のあしき習慣に所以するものだ。
そこで帖佐氏らは、付加価値を提供することで、このような値下げ要求に抗する方法を模索した。たとえば、倉庫にはつきものの柱のスパンを見直すことで、より使いやすい倉庫レイアウトを付加価値として提供、競合他社との差別化を実現してきたという。
倉庫が提供できる、新たな価値とは何か?──この問いに、日本GLPが導き出した答えの1つが、同社が新たに開発したブランド『GLP ALFALINK(アルファリンク)』である。
すでに千葉県流山市(延床面積約28万坪)、神奈川県相模原市(延床面積約20万坪)にて、GLP ALFALINKの名を冠した施設が竣工、2024年8月、大阪府茨木市に、3番目となる『GLP ALFALINK茨木』(延床面積約10万坪)の竣工が計画されている。
GLP ALFALINKは、「創造連鎖する物流プラットフォーム」をキーワードに掲げている。もちろん、マルチテナント倉庫として優れた物流機能を備えているが、私が特に注目したのは、テナント入居者同士が交流しビジネスの創出を目指す協働への取り組みと、地域社会に根付いた施設運用を目指す地域共存への取り組みである。
【次ページ】「嫌われ者」の倉庫は、地域社会と共存できるのか?
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