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- 2021/05/28 掲載
ユニクロにも飛び火した新疆綿問題、スポーツウェアで中国勢がナイキら猛追も残る課題
奥瀬なおみ
中国語・英語翻訳者兼フリーライター
アジアの経済ビジネス情報を配信するNNAの中国本土・香港版編集長を経て、DZHフィナンシャルリサーチ中国株部門の前身、トランスリンクの創業時メンバー。現在は中国のマクロ経済や各業界に関するレポートの作成を手掛けるほか、中国株関連書籍の製作にも携わる。
中国の愛国意識を刺激した「新疆綿」問題
新疆ウイグル自治区におけるウイグル族の強制労働疑惑をめぐって懸念を表明し、「新疆綿を使用しない」方針を示したH&Mやナイキ、アディダスに対し、中国では批判が過熱。一時はユニクロや無印良品にも飛び火し、各社ともに苦しい対応を迫られた。そうした中、中国のSNS上では“愛国消費”が一段と熱を帯びている。米中対立の長期化やパンデミックを背景に、ただでさえ消費者が内向きになっていた矢先の出来事であり、国内ブランド志向が加速する気配がかなり濃厚だ。
こうした“愛国消費”が今回、特に鮮明だったのはスポーツウェア市場であり、中国内の業界勢力図を変えるきっかけとなる可能性も出てきた。
一方、国内では追い風を受ける中国の有力ブランドも、IOC(国際オリンピック委員会)などの国際組織とコミットしている以上、無傷ではいられそうにない。
2022年2月の北京冬季五輪の開幕まで、残すところ9カ月。新疆問題は内外のスポーツアパレル企業を巻き込み、この先さらに複雑化する可能性がありそうだ。
ナショナルブランド李寧、“愛国買い”の象徴に
「新疆綿」を取り巻く一連の出来事の発端は、中国共産党青年団や国営メディアが3月下旬に、「中国で儲けているのに中国を中傷している」などとして、スウェーデンのファストファッションブランドH&Mを攻撃したことにある。H&Mが新疆綿を使用しない方針を表明したのは半年前だったにもかかわらず、メディアが一斉に批判の口火を切ったことで、中国人消費者の怒りの声や不買運動が瞬く間に拡大し、ナイキやアディダスも標的となった。
ほかにも、一時的にせよ、やり玉に挙がったのが、ユニクロや無印良品のほか、バーバリー、ニューバランスなどだ。
時期的には、EU、米、英、カナダが中国当局者に対して制裁を発動した直後のタイミング。これに対する“オールチャイナ”の報復といった様相を呈した。
H&Mは直後に、中国のECプラットフォームや地図アプリから消され、複数の実店舗が営業を停止。ナイキとアディダスの社名やロゴも、ぼかしという形でテレビ画面上から消えた。
国営メディアらが、中国に対する誹謗中傷の“黒幕”として批判したのはスイス本部の非営利組織「ベター・コットン・イニシアチブ(BCI)」。『人民日報』の公式ブログが「かつて新疆綿の不使用に言及したBCI加盟ブランド」を列挙すると、中国人セレブら数十人が雪崩を打って、アンバサダー契約の打ち切りを発表。インフルエンサーらも相次いで提携関係を断つ事態となった。
こうした対外批判や愛国意識は、スポーツウェア市場においては、消費行動として顕在化した。中国ブランドの売れ行きは3月下旬から軒並み急増し、有力証券会社のBOCIのレポートなどによると、「李寧(LI-NING)」が爆発的に伸びたとの情報が伝わっている。
体操競技の五輪金メダリスト、李寧氏が2004年に創業した同社は、中国のスポーツ精神を体現するナショナルブランドというイメージが強く、今回の愛国気運の下で勝ち組となった模様。
クレディ・スイスの推計では、中国最大のECプラットフォームであるアリババ系「天猫(Tmall)」上の4月の旗艦店売り上げは、ANTAとLI-NINGが前年同月比51%増、72%増。中でも、Z世代をターゲットとしたLI-NINGのプレミアムブランド「中国李寧」は前年同月実績の9倍超を記録。ナイキ、アディダスの56%減、79%減と大きく明暗を分けたという。
一部では過熱現象もみられ、同社製シューズのネット販売価格が希望小売価格の31倍に当たる4万8889元(約82万円)まで急騰。政府系メディアが投機行為を批判する形で火消しを図る一幕もあった。
【次ページ】IOCの公式サプライヤーANTAも苦しい立場、新疆綿使用を明言できず
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