• 会員限定
  • 2021/03/11 掲載

イノベーションは不要? DXでの売上増を「自社課題」からアプローチする3つの現実手法

連載:大野隆司の「DX」への諫言

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
この連載では「DXで本当にX(変革)ができているのか?」という問題を提起してきた。多くの企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)を目指すといいながら、既存の仕組みの延長線上にある業務効率化、コスト削減策をテーマとして設定してしまっている。そこで前回までは、イノベーションを起こすという視座を持つのが早道と説明してきた。とは言うものの、既存の自社課題からアプローチし、DXのテーマを設定したほうがうまくいくケースもある。今回は、それについて解説する。

ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ 合同会社 代表社員 大野 隆司

ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ 合同会社 代表社員 大野 隆司

アクセンチュア、ヘッドストロング・ジャパン、ローランド・ベルガー、KPMG FASなどで33年余にわたり経営コンサルティングに従事。成長戦略の策定、新規事業の創出支援、それらの実現のためのオペレーション戦略の立案・設計など数多くのプロジェクトを手掛けている。近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)、イノベーション創出、M&Aに関わる支援を中心にしている。

画像
既存の自社課題からアプローチしたDXテーマを設定しやすいものもある
(Photo/Getty Images)


売上増は自社課題からのアプローチで正解

 自社課題からのDXのテーマ設定がすべてダメというわけではない。結論から述べると、売上の増加による経営パフォーマンス向上は、多くの企業がリストアップする既存の課題である。

 このテーマについては、既存の自社課題からのアプローチが機能する。ただし、イノベーションほどではなくても、難易度が高いことには留意しておきたい。

 考えるべきコトや選択肢の幅が広いことなどから、「発想が広がらない」「議論が発散してまとまらない」と足踏み状態になるケースが多いようだ。

 最悪の場合は、実効性があるとは到底思えない小手先の改善、たとえば「顧客データをタブレットで共有して接客できるようにした」といった取り組みで、お茶を濁すことにもなりかねない。残念なことに、実際にはこういった事例がしばしば見られる。

 今回は、稼ぎ方を「考えるための補助線」のように用いることで、発想にレバレッジを掛け、自社課題からのスジのいいDXのテーマ設定のやり方について考えてみる。

 用いる稼ぎ方は次の3つだ。
  • ・ロングテール
  • ・ダイナミックプライシング
  • ・CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)



ロングテール活用はロビンフッドに学べ

 従来のビジネスの常識の1つに「2・8(にっぱち)の法則」があった。2・8の法則は「上位の2割が全体の8割を構成する」というもの。顧客別の売り上げ、店舗の品ぞろえ、メーカーの製品ラインアップ、トラブル防止案の検討、営業担当者の配置転換などなど、さまざまな機会で用いられ、広く普及している考え方である。

 この真逆を行くものがロングテールという考え方である。前回、今世紀初頭に提示されたバリューチェーンデコンストラクションに触れ、そのモデルの1つである「レイヤーマスター」について解説した。

 これはバリューチェーンの1つの機能に特化することで、競争力を持つことを志向するビジネスだ。特定の分野に特化し、豊富な品ぞろえで勝負するカテゴリーキラーなどが該当する。それをさらに掘り下げたビジネスモデルが、ロングテールといえるだろう。

 ロングテールは「上位2割以外にも対応し、それらの需要を漏らさず刈り取る」もので、2005年頃にアマゾンに代表されるECビジネスを解説する流れで提唱された。

 ECでは売り場面積などの制約がなく、取引コストが低いため「手間と暇がかかる割に売り上げ・もうけが少ない『上位2割以外』からでも利益が出せる」ということがポイントだ。

画像
ロングテールは今もなお有効なビジネスモデルだ
(Photo/Getty Images)


 この点からは、インターネット証券も、ロングテールの代表的なビジネスといえるだろう。日本証券業協会の『個人株主の動向について』によれば、1990年代には2700万人程度で推移していた個人株主数(延べ数)は、2000年には約3200万人、2011年には4600万人、2019年には4900万人へと増加している。インターネット証券が、新たな顧客層を取り込んだと考えて間違いないだろう。

 最近いろいろと話題となっているのが、米国のスマートフォン専業証券会社のロビンフッド社である。ロビンフッド社は、株式やETFなどから暗号資産の売買など通常の証券会社と同様のサービスを提供しているが、株価の高い株式を(単元株未満の)1ドルから売買できる投資サービスなども提供している。手数料は無料であり、フリーミアムの一面もある。

 「金融の民主化」をうたうロビンフッドは、ミレニアル世代を中心に人気であり、2015年のアプリの正式公開以来、2016年に100万人であったユーザーは2021年には1300万人に達しているそうだ。


 さて、ここでロングテールをレバレッジとして、自社課題からのスジのいいDXのテーマを設定してみよう。

 自社の経営パフォーマンスの改善(売り上げの増加でもよい)の狙いどころの設定に、ロングテールの特徴を置くことから始めてみると、すぐに次のような課題が挙がる。
  • ・商圏やターゲット顧客の拡大:小口顧客・取引を捨てない
  • ・取扱商品・サービスの拡大:非売れ筋もラインアップに加える
  • ・取引コストを大幅に下げ、ゼロも意識する

 ロングテールという言葉から考えると、しばしば「事業をEC化するには?」「取引を効率化してコストを削減するためには?」という戦術の話になってしまいがちなところを、ここでは、いったんビジネスという視点に上げてみる。

 そうすると「販売が弱い地域の代理店開拓」「品ぞろえの充実のための他企業との提携や買収」といった選択肢が除去されないということになる。

【次ページ】「EC化ではない」ロングテールを自社に取り込む方法

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます