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  • 2021/03/11 掲載

イノベーションは不要? DXでの売上増を「自社課題」からアプローチする3つの現実手法

連載:大野隆司の「DX」への諫言

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この連載では「DXで本当にX(変革)ができているのか?」という問題を提起してきた。多くの企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)を目指すといいながら、既存の仕組みの延長線上にある業務効率化、コスト削減策をテーマとして設定してしまっている。そこで前回までは、イノベーションを起こすという視座を持つのが早道と説明してきた。とは言うものの、既存の自社課題からアプローチし、DXのテーマを設定したほうがうまくいくケースもある。今回は、それについて解説する。
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既存の自社課題からアプローチしたDXテーマを設定しやすいものもある
(Photo/Getty Images)


売上増は自社課題からのアプローチで正解

 自社課題からのDXのテーマ設定がすべてダメというわけではない。結論から述べると、売上の増加による経営パフォーマンス向上は、多くの企業がリストアップする既存の課題である。

 このテーマについては、既存の自社課題からのアプローチが機能する。ただし、イノベーションほどではなくても、難易度が高いことには留意しておきたい。

 考えるべきコトや選択肢の幅が広いことなどから、「発想が広がらない」「議論が発散してまとまらない」と足踏み状態になるケースが多いようだ。

 最悪の場合は、実効性があるとは到底思えない小手先の改善、たとえば「顧客データをタブレットで共有して接客できるようにした」といった取り組みで、お茶を濁すことにもなりかねない。残念なことに、実際にはこういった事例がしばしば見られる。

 今回は、稼ぎ方を「考えるための補助線」のように用いることで、発想にレバレッジを掛け、自社課題からのスジのいいDXのテーマ設定のやり方について考えてみる。

 用いる稼ぎ方は次の3つだ。
  • ・ロングテール
  • ・ダイナミックプライシング
  • ・CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)



ロングテール活用はロビンフッドに学べ

 従来のビジネスの常識の1つに「2・8(にっぱち)の法則」があった。2・8の法則は「上位の2割が全体の8割を構成する」というもの。顧客別の売り上げ、店舗の品ぞろえ、メーカーの製品ラインアップ、トラブル防止案の検討、営業担当者の配置転換などなど、さまざまな機会で用いられ、広く普及している考え方である。

 この真逆を行くものがロングテールという考え方である。前回、今世紀初頭に提示されたバリューチェーンデコンストラクションに触れ、そのモデルの1つである「レイヤーマスター」について解説した。

 これはバリューチェーンの1つの機能に特化することで、競争力を持つことを志向するビジネスだ。特定の分野に特化し、豊富な品ぞろえで勝負するカテゴリーキラーなどが該当する。それをさらに掘り下げたビジネスモデルが、ロングテールといえるだろう。

 ロングテールは「上位2割以外にも対応し、それらの需要を漏らさず刈り取る」もので、2005年頃にアマゾンに代表されるECビジネスを解説する流れで提唱された。

 ECでは売り場面積などの制約がなく、取引コストが低いため「手間と暇がかかる割に売り上げ・もうけが少ない『上位2割以外』からでも利益が出せる」ということがポイントだ。

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ロングテールは今もなお有効なビジネスモデルだ
(Photo/Getty Images)


 この点からは、インターネット証券も、ロングテールの代表的なビジネスといえるだろう。日本証券業協会の『個人株主の動向について』によれば、1990年代には2700万人程度で推移していた個人株主数(延べ数)は、2000年には約3200万人、2011年には4600万人、2019年には4900万人へと増加している。インターネット証券が、新たな顧客層を取り込んだと考えて間違いないだろう。

 最近いろいろと話題となっているのが、米国のスマートフォン専業証券会社のロビンフッド社である。ロビンフッド社は、株式やETFなどから暗号資産の売買など通常の証券会社と同様のサービスを提供しているが、株価の高い株式を(単元株未満の)1ドルから売買できる投資サービスなども提供している。手数料は無料であり、フリーミアムの一面もある。

 「金融の民主化」をうたうロビンフッドは、ミレニアル世代を中心に人気であり、2015年のアプリの正式公開以来、2016年に100万人であったユーザーは2021年には1300万人に達しているそうだ。


 さて、ここでロングテールをレバレッジとして、自社課題からのスジのいいDXのテーマを設定してみよう。

 自社の経営パフォーマンスの改善(売り上げの増加でもよい)の狙いどころの設定に、ロングテールの特徴を置くことから始めてみると、すぐに次のような課題が挙がる。
  • ・商圏やターゲット顧客の拡大:小口顧客・取引を捨てない
  • ・取扱商品・サービスの拡大:非売れ筋もラインアップに加える
  • ・取引コストを大幅に下げ、ゼロも意識する

 ロングテールという言葉から考えると、しばしば「事業をEC化するには?」「取引を効率化してコストを削減するためには?」という戦術の話になってしまいがちなところを、ここでは、いったんビジネスという視点に上げてみる。

 そうすると「販売が弱い地域の代理店開拓」「品ぞろえの充実のための他企業との提携や買収」といった選択肢が除去されないということになる。

【次ページ】「EC化ではない」ロングテールを自社に取り込む方法
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