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  • 2020/10/27 掲載

「DX」で企業は本当にトランスフォーメーションしているのか?見落としている重要視点

連載:大野隆司の「DX」への諫言

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デジタルトランスフォーメーション(DX)に本気で取り組もうとする企業が確実に増えている。経済産業省の「攻めのIT経営銘柄」は名前が「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄」に変わった。すでに導入効果があったとする企業も出てきているが、正直なところ違和感もある。DXのX(トランスフォーメーション)の完了には、相当な労力と時間がかかるはずだからである。まして、新規ビジネスの立ち上げ、さらにはそれらによる競争優位の確立となればなおさらである。そして、このDXの議論の最中にやや見落とされるように見える視点もある。この記事では、DXの現状と課題、解決策について解説する。
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DXを取り巻く課題と解決策とは?
(Photo/Getty Images)

国が後押しする「DX不可避」の雰囲気

 デジタルトランスフォーメーション(DX)がビジネスパーソンの口の端に上るようになり、「DX待ったなし」といった記事や、DXをテーマに掲げた講演会、DX支援の商品サービスの広告も連日のように目にするようになった。

 経済産業省が2014年から発表している「攻めのIT経営銘柄」の名称が、2020年から「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄」へと変わるなど、国が積極的に動いていることも無関係ではなさそうだ。ウーバー、Airbnbや、中国のアリババ、テンセント、製造業からの業態変化といったコンテクストでトラクターとIoTを連携させたコマツなどの取り組みについての記事を目にされた読者も多いだろう。

 今世紀初頭には「IT革命」「eビジネス」といった「DXと似ているキーワード」が流行し、やがて消えていったが、「どうも今回のDXについては、避けては通れないかもしれない」といった経営層の意識を感じる。

 ここ20年での意識の変化には、長年維持してきたGDP世界2位からの陥落、デジタル技術を活用した米国や中国企業のプレゼンスの高まり、インターネット接続率がほぼ100%かつ通信性能の高度化、スマートフォンによりデジタル技術が身近になってきたこと、第3次AIブームなどによる技術情報の一般化などが複合的に影響しているのだろう。

 ただし、デジタルを中心とした技術への意識は変わったとしても、人間の知識や能力がいきなり上がるわけではない。よって「自社のDXのあり方」に悩む経営層、「わが社でもDXを推進するように」と経営層から指示が出て、対応に苦慮している方々も多いだろう。

 本稿では、そうした方々がDXを推進するためのヒントを提示したい。


DXにはさまざまな定義がある

 DXにはさまざまな定義が存在している。特定のデジタル技術領域を強調するもの、ある業務領域にフォーカスするものなど十人十色といったところだが、比較的汎用性があるものとして、次のような定義がある。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応しデータとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し競争上の優位性を確立すること
(経済産業省『「DX推進指標」とそのガイダンス』より)

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革をけん引しながら、第3のプラットフォームを利用して(著者注:モバイル、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルを指す)、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアル両面で顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること(IDC)

 少しの違いはあるものの、意図する内容に大きな差はない。ポイントは次のようにまとめることができるだろう。

  • ・新しい製品・サービスにより企業が競争優位を確立すること
  • ・そのためにデジタルやデータを利活用すること
  • ・このためには企業のすべてで変革を伴うこと

DXに取り組んでいる企業は60%以上と予想外に多いが……

 さて企業のDXへの対応はどのような状況だろうか。

 電通デジタルと日経BPコンサルティングの調査『日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2019年度)』によれば、2019年に実際にDXに取り組んでいる企業は2019年よりも7%増えて60%を超えており、ここに「計画策定中」の企業を加えると、実に70%の企業が「DXに着手している」と言えそうだ。

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DXに着手している企業は70%
(電通デジタルと日経BPコンサルティングの調査『日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2019年度)』より)

 「世界から周回遅れ」と批判されることもある日本企業だが、予想外に取り組みが進んでいるのである。さらに「DXを完了済み」という回答も1割ほどあり、56%の企業が「DXの成果を享受している」という。

 しかし、正直なところ違和感がある。

 というのも、DXのX(トランスフォーメーション)の完了には、相当な労力と時間がかかるはずだからである。まして、新規ビジネスの立ち上げ、さらにはそれらによる競争優位の確立となればなおさらである。

 もちろん企業規模も千差万別でもあり(小さいほうが変革しやすいだろう)、トランスフォーメーションへの障壁のあり方もまちまちである。さらには、先述のようにDXの定義そのものにばらつきがある。

 では、実際に企業はどのようなDXに取り組んでいるのだろうか。ここで、DXに取り組んでいる企業のテーマに目を移すと、違和感の正体が少しずつ見えてくる。

 先ほどの調査を見ると「DXの計画・取り組み領域」では、「業務プロセスやシステムの最新化」がトップに、次いで「製品サービスや業務へのテクノロジーの適用」「IT基盤の構築やソリューションの導入」となっている。

 また、伸びで見れば「データ活用のための戦略の策定」が目立つ(以下図)。

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DXの計画・取り組み領域では、データ活用戦略策定、組織開発、人材開発・採用がやや増加
(電通デジタルと日経BPコンサルティングの調査『日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2019年度)』より)

 DXの支援・コンサルティングを行う「インダストリアルX社」の調査では、「コスト削減」が圧倒的なトップとなっていることが見える。

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DXへの取り組みと狙い


 「コスト削減」や「業務プロセスやシステムの最新化」をDXと言い切ってよいものかは後ほど考えることとして、「いま主流のDXの取り組み」を共有しておくこととする。

その1 既存業務の効率化というDX

 取り組みの中で最も多く見られるものが「既存業務の効率化や自動化」だろう。

 特にここ数年は、RPA(Robotic Process Automation)の導入が流行していた。Excelの集計処理の自動化、紙の申請書システムへの入力、経費申請された交通費のネットでの価格チェックなどの定常業務をRPAで自動化するといったものだ。

 みずほ銀行は2017年頃からRPA導入に取り組み、年間約77万時間分の業務の自動化に成功したという報道があったように、かなり大規模な事例も見られる。

 RPAに合わせて経費精算や人事労務管理を支援するツール導入も活発化しており、これらの取り組みをDXと回答した企業は多いだろう。

 既存業務の効率化、特にシステムへの置き換えは、業務内容そのものは大きく変化しないので手をつけやすく、効果算定も定量化しやすく、ゆえに失敗も少ないという3つの理由から、20年以上前から「IT投資」における人気がある取り組みだが、これは現在も同様な状況であるようだ。

【次ページ】その2 データに着目したDX
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