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  • 2020/12/24 掲載

見えてきた「展示会の未来」、アメリカの主要ITイベントはどう変わる?CES 2021は?

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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新型コロナウイルスの第3波襲来により、米国では部分的な都市封鎖(ロックダウン)が一時的に再実施されるなど、人の大規模な移動や密な状況での大型イベント開催が困難な状況が続き、軒並みオンライン化されている。「バーチャルではリアルの人との出会いや、セレンディピティ(思わぬものを偶然に発見する環境)の代わりにはならない」との声が高まるが、ワクチンなどで効果的なコロナ制圧が実現しない限り、リアルでの大規模ITイベントの復活は難しそうだ。米国でのメジャーなイベントを取り巻く状況や、コロナ後の新しい開催方式など、現時点で判明している情報をまとめた。
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新型コロナウイルス感染拡大前(2020年1月)、ラスベガスで行われた「CES 2020」の様子。「CES 2021」はどうなるのか
(写真:AFP/アフロ)


CESもSXSWもオンライン化

 米国では、2021年1月に恒例のネバダ州ラスベガス・コンベンションセンターで開催予定であったコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)や、3月にテキサス州オースティンで開かれるはずであった音楽・映画・インタラクティブ総合イベントのサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)などが軒並みオンラインへと移行した。

 ほんの1年前のCESでは、会場のラスベガス・コンベンションセンターが18万2000名の参加者で埋め尽くされる大盛況であったことを思い起こせば、イベント開催者はもとより、会場周辺の飲食店やカジノ、ホテルおよび航空業界など関連産業の逸失利益の大きさが想像できる。事実、ラスベガスを含む南部ネバダ州では2019年に660万人のコンベンション来訪者があり、経済効果は114億ドル(約1兆1893億円)に上っていたのである。

 そのため、主催者の全米民生技術協会 (CTA) にとり、CESの完全オンライン化は軽く下せる決断ではなかった。4月に第1波の感染がピークに近づいていた時でさえ、一部をデジタル化したハイブリッドイベントが構想されていたのである。だが、コロナ第2波が押し寄せた7月に入ると、2021年1月までにコロナが沈静化し、安全にCESを開催できる現実的な見通しが立てられないことが明らかになる。この時点で、完全オンライン化が決定された。

 その判断が結果的に正しかったことは、10月以降の第3波で全米の感染者が急増していることからもわかる。コンベンションという非日常で警戒心が緩んだ18万もの人が密な屋内でひしめき合い、大声で話し合うCESのような見本市は、たとえマスク着用が励行されたとしても、いわゆる「スーパースプレッダー」なイベント以外の何ものでもないからだ。

 たとえば、ボストンのマリオット・ロングウォーフで2月下旬に開催された医薬品メーカーバイオジェンの会議には175人が参加したが、そこで発生したクラスターにより、8か月後には米国を中心に最大30万人の感染源となった「スーパースプレッダー」であるとのウイルス遺伝子分析結果がある。

 こうしてバーチャル化されたCES 2021では、複数のキーノート演説や討論セッションが同時進行するという、リアルなコンベンションでもおなじみの形式が維持されるほか、来場者のお目当てである商品・サービス展示が、出品者の工夫を凝らしたフォーマットで行われるという。 CTAのマーケティングおよびコミュニケーション担当のバイスプレジデントであるジーン・フォスター氏は、「出展者は、われわれが提供するプラットフォームを使って、重要な観客に特別なエクスペリエンスを届けられるようになる」と語った。

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CES 2021は完全オンライン(ALL-DIGITAL)で開催される
(出展:CES HP

 一方、新型肺炎拡大や中止要請の署名運動にもかかわらず開催が強行される予定であった2020年のSXSWは、直前になって有力出展者や参加者が次々と参加を辞退する事態になり、開催地オースティンの市長の非常事態宣言でイベントが事実上の強制取りやめになるまで、主催者が開催にこだわって非難を浴びるという大失敗を犯した。

 この教訓に学び、2021年のSXSWは、基本的にオンラインで行われることが9月に発表された。参加パスの価格は149ドルから。ただし、全面的にバーチャル化されたCESとは違い、SXSWは一部のプログラムをリアルで行う希望を捨てていない。いずれにせよ、SXSWの音楽祭部門では例年のように参加者候補が自ら選考に申し込むのではなく、主催者が一方的にキュレーションを行う形式に変更される。


バーチャル体験こそIT企業の腕の見せ所

 オンラインでのイベント参加は、本物の見本市でのナマ体験に遠く及ばないという声は根強い。しかし、IT業界はいかに「リアル」を「バーチャル」に移植するかが腕の見せ所であり、オンラインで「本物」のような驚きや興奮を提供できてナンボ、の面がある。

 こうした中、米国最大のガジェットショーであるCES 2021においては、CTAの依頼を受けたテック大手のマイクロソフトが商品陳列・メディアイベント・カンファレンス・ネットワーキングなどを含むプログラムのツールおよびプラットフォームを総合的に手掛けることになった。

 具体的には、マイクロソフトご自慢のTeamsコラボレーション環境が、アプリ・データダッシュボード開発に活躍するPower Platformに乗り、クラウドサービスのAzureを通して提供される。同社は、すでに数十件の大型オンラインイベントを手掛けており、「数千人が参加するようなイベントにおいてもディープな体験を提供できる」と自信を見せる。一方でCTAは、このバーチャル化に数百万ドルを投じたと報じられている。

 マイクロソフトのプラットフォームを使用するCES 2021の出展者は、自動車機器大手の独ボッシュ、タイヤ大手のブリヂストン、カメラ・事務機器製造大手のキヤノン、重機大手の米キャタピラー、家電大手の中国ハイセンス、半導体大手の米インテル、パソコン大手の中国レノボ、家電大手の韓国LGやサムスン、通信大手のNTT、健康医療機器のオムロン ヘルスケア、電機大手のパナソニック、音響機器のパイオニアなど強力な布陣であり、日本勢の積極性が目立つ。

 翻って、SXSW 2021においては11月に、イベントセッションの提案をオンラインで行えるプラットフォーム「PanelPicker」を用いた公募を行い、注目を集めた。

 とはいえ、企業がその経費を使って従業員をイベントに送り込むのは、偶然の出会いによる商機やネットワーキングの価値を知っているからだ。有益なアイデアは、人との交わりの中で芽を出す。そうした出会いには、相手が信頼に値するかを見極めるために、会場の隅でじっくり話し合えるプライバシーが必要になることもある。

 ところが、デジタルイベントでは、「アジェンダをこなすこと」に重点が置かれるため、出会いや深い交わり、さらには“バズり”が生まれにくいのだ。

【次ページ】ひたすら耐える覚悟のラスベガス…イベントは永遠にバーチャル化か
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