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ハンコ廃止やデジタル庁の発足を契機に、政府のデジタル化への取り組みが加速している。しかし、国連が発表している電子政府ランキングでは、デンマークや韓国、エストニアなどの先進国に大きく水をあけられているのが実態だ。そもそも、日本政府がデジタル化に取り組んだのは、これが初めてではない。にもかかわらず、なぜこれほど差が付いたのはなぜか。先進国との違いを分析し、日本の課題と取り組むべき対策を整理する。
20年以上前から掛け声だけ? 遅々として進まない日本政府のデジタル化
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、河野行政改革相による押印廃止、デジタル庁の発足など、行政のデジタル化への取り組みに注目が集まっている。
一方で、日本政府のデジタル化の取り組みに対する世界的な評価は低い。国連が2020年7月に発表したデジタル政府の開発状況を示したEGDI(E-Government Development Index)で、日本は14位と2018年の前回調査(10位)から順位を4つも落としている。
20年以上も前から、日本はデジタル構想を打ち出しているものの、その取り組みは一向に進まない。その原因を特定し、問題を解決しないまま菅政権が行政デジタル化を進めれば、その莫大な投資がムダになる可能性も否定できない。
まずは、デンマークや韓国、エストニアなど、EGDI上位国の取り組みとどのような違いがあるのか、冷静に分析する必要があるだろう。以下では、調査会社 米ガートナーの日本法人ガートナージャパンが発表したデジタル政府実現に関する提言から、デジタル政府成功へのヒントを見ていこう。
韓国、英国はレベル2~3、デンマークはレベル3~4、日本は「評価対象外」
ガートナージャパンは、デジタル政府の成熟度を次の5段階に分類する。
・初期(レベル1)
・発展期(レベル2)
・確立期(レベル3)
・管理期(レベル4)
・最適化期(レベル5)
これは、どこに価値(バリュー)や指標を置いているかという観点からデジタル化の進捗を見るもので、韓国や英国はレベル2から3に、デンマークはレベル3から4に入りつつあるという。
一方、日本の成熟度は「コメントできない」(リサーチ&アドバイザリ部門バイスプレジデントの藤原 恒夫氏)と、評価の対象外となっている。現在、日本政府はデジタル庁の創設に向けて議論を開始しているものの、デジタル化の目的や目標を明らかにしていないからだろう。
IT国家戦略の策定に向けて動き始めてから約20年が経過し、成熟度が初期段階から一向に前に進まないことに、官僚は疲れ、国民は冷めている。
それを数値にしたのが、冒頭に述べたデジタル政府の進展状況を示すEGDIだ。これは、オンラインサービスと通信インフラ、人的資本の3つの指数を加重平均した指標で、日本はEGDI上位15カ国の中で、2016年からの進捗が芳しくない。
その数値は15カ国平均を下回り、日本政府のデジタル化の取り組みが進んでいないことを表している。2016年から2020年の15カ国の年平均成長率が2%超なのに対し、日本は2%を割り込んでいるのが現実だ。
IT支出を増やしているのにデジタル化が進まない日本
ガートナーは「政府のIT支出は市民ファーストであるべき」と考え、人口あたりのIT支出も注視している。同社コンサルティング部門でシニアマネージングパートナーを務める中村拓郎氏は「人口あたりのIT支出が低いことと相関する」と分析する。
問題は、日本はIT支出を増やしているのに、デジタル化が進んでいないことだ。理由の1つは、デジタル化の目的がはっきりしないことにある。目的が不明なままトップが「デジタル化せよ」と指示し、現場も目的が分からないまま取り組んでいるのだ。
同社リサーチ&アドバイザリ部門ディスティングイッシュト バイスプレジデントのアナリスト足立祐子 氏は「役人は与えられた仕事をこなすだけの受け身になり、デジタルは遠い話になっている。いい器ができるだけに終わってしまう」と、デジタル政府実現の課題を指摘する。
しかも「デジタル化ができないと抵抗勢力の力が増す。20年以上前から構想があり、役人は冷めて見ている」とも。こうした失敗の積み重ねも、行政のデジタル化が世界から大きく遅れてしまった要因なのだろう。
【次ページ】デジタル政府の推進に求められる「コンポーザブル」の考え方
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