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酒税法の改正によって2020年10月からビールが減税となり販売価格が引き下げられた。一方で第3のビールは増税なので価格が上がっている。今回の改定は経過措置であり、2023年にはビールはさらに減税され、発泡酒と第3のビールは大幅増税となる。第3のビールで何とか家計をやりくりしてきた人たちにとっては大打撃となりそうだ。一部からは、アルコール中毒のリスクが指摘されるストロング系チューハイに消費者が流れることを懸念する声も出ている。
日本ではビールはもはや贅沢品か
日本ではビールを中心に酒類に対して高額の税金がかけられている。ビールの酒税は、350ml缶1本あたり約77円なので、200円で売られているビールは4割が税金である。発泡酒(麦芽比率25%未満の場合)の税金は1本あたり46.99円、第3のビール(新ジャンル)は28円なので、第3のビールは圧倒的に税金が安い。メーカー各社が第3のビールを低価格販売できたのは税制による部分が大きい。
ビールの税金が高いことは、かつての日本ではそれほど大きな問題にはならなかった。味に好みがあるとはいえ、発泡酒や第3のビールは、あくまでもビールを模倣して造られた製品なので、ビールの方が美味しいと感じる人の方が圧倒的に多い。しかも日本人の平均所得は今よりもずっと高く、多少、値段が高くても大きな問題は生じなかった。このためメーカー各社は、基本的にビールを中心に商品開発を続けてきた。
ところが、ここ25年の間に日本人の平均所得は大きく下がっており、それにともなってビールの割高感が顕著となってきた。メーカー各社は販売数量を維持するため、価格を安く設定できる発泡酒の開発を強化。消費者の購買力がさらに低下すると、今度はもっと税金の安い第3のビールへのシフトを進めてきた。
その結果、約25年でビールの販売数量は6割以上も減少し、第3のビールと発泡酒を合わせるとすでにビールを上回る。今となってはビールはもはや贅沢品という位置付けに近い。
諸外国では、ビールというのは所得が低い人でもごく普通に飲むお酒であり、相対的に豊かな人が飲むものではない。日本経済の貧困化が進んだことで、税制と現実の商品にギャップが生じており、このままでは日本からビールという商品が消えてしまう可能性すらある。
加えて、第3のビールで各社が安値合戦を繰り返したことから、酒類メーカーの経営も苦しくなっている。そもそもお酒を飲む人が減っている状況で、低価格競争を繰り返すのは得策ではない。こうした事情を勘案し、政府はビール類に関する税率を一本化する方向性で調整を進め、今回の酒税法改正につながった。
増税によって缶チューハイに一気に流れる?
今回の改正によって、ビールは77円から70円に減税となり、発泡酒は46.99円のまま据え置きとなる。一方で第3のビールは28円から37.8円に増税される。これはあくまでも経過措置であり、2023年10月にはビールは63.35円に減税され、発泡酒は据え置き、第3のビールと発泡酒は統合され46.99円になる。
2026年10月に再度改定が行われ、すべての税金が54.25円に統一される。最終的にビールは77円から54.25円に減税され、発泡酒は46.99円から54.25円に増税、そして第3のビールは28円から54.25円に大幅増税となる。ビールは減税となるものの、全体的に見ると、第3のビールを大幅増税する方針であることは明白だ。
この状況になると、わざわざ第3のビールを飲む人は減ってしまうので、ビール類の市場はほぼすべて本物のビールに取って代わると考えられる。価格を高く設定できるビールが復活することで、酒類メーカーの経営も安定すると期待されているわけだが、現実はそう簡単ではないだろう。その理由は、圧倒的に税金が安い缶チューハイというジャンルが残っているからである。
缶チューハイの税金は現在28円だが、2026年10月には7円増税となり35円になる。だがビール類と比較すると税金の安さは一目瞭然である。つまり2026年10月以降、1缶100円ちょっとのレベルで楽しめるお酒は缶チューハイだけになる可能性が高いのだ。
ここで考える必要があるのが、発泡酒や新ジャンルが伸びた理由である。基本的にこれらのカテゴリーが急激に伸びたのは日本経済の貧困化によって消費者の購買力が著しく低下したからである。もしビールの市場を復活させたいのであれば、チューハイ並みに税金を安くしなければ、十分な効果を発揮しないだろう。
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