- 会員限定
- 2020/07/08 掲載
AI研究の原点、「ダートマス会議」を解説
連載:図でわかる3分間AIキソ講座
1950年には現代のAIを再現可能な基礎理論があった?
人工知能(AI:Artificial Intelligence)という言葉が生まれた1950年代は、現代で言う「デジタル式のコンピューター」が一気に広まった時代です。今となっては想像しにくいかもしれませんが、それまでは計算尺や日時計を高度にしたような「アナログ式のコンピューター」が機械式の計算装置の代表格でした。アナログ式コンピューターの中にも電圧や電流を利用する電気式のものもありましたが、それは現在のコンピューターのように「0と1の2進数」を対象とする計算ではなく「連続的な実数」で計算するコンピューターであり、現代のデジタル式とは大きく異なります。
揺れ動く目盛りから数値を確認するアナログ体重計から、ピタリと数値が表示されるデジタル式に移り変わっていく時期だったとイメージすると、背景がなんとなく見えてくるでしょう。初期のデジタル式コンピューターは、今のように何でもできる汎用性はなかったものの、アナログ式に比べるとさまざまなタスクをこなせました。
そして、世界初の汎用コンピューター「ENIAC(エニアック)」を皮切りに、コンピューターと言えばデジタル式が当たり前になっていきます。当時の汎用コンピューターは現代の電卓以下の計算能力しかありませんでしたが、それでも今でもプログラミングで使われている各種処理(ループ・分岐・モジュール化など)が可能で、複雑な演算に柔軟に対応できる能力を持っていました。
つまり、考える速度こそ遅いものの、現代の人工知能ができるような高度な論理的思考の多くを(時間とメモリさえあれば)当時のコンピューターで再現する事ができたということです。当時の研究者の気持ちとしては、始めてスマホを握った子供のようなものかもしれません。その可能性は無限大でした。当時の研究者たちは誰もがコンピューターの未来に期待していました。
そして、研究者たちが人工知能に注目しはじめたのは、コンピューターが進歩したからというだけではありません。同時期に脳の研究も進み、神経細胞がまさに「0と1の2進数」に近い電気的パルスによって情報処理をしていることが明らかになったからです。
実際には脳はより複雑な機能を有しているとはいえ、脳の神経細胞もデジタル式のコンピューターと似ている部分があるということになります。似ているのなら「人間の知能をコンピューターで再現できるかもしれない」と考える研究者が増えてきました。
人間の“思考”を再現するための研究の歴史とは
当時の技術レベルでは「人間の思考を機械で再現する」というのは可能性があるというだけで現実的なものとは捉えられていませんでした。ところが「どうやって再現するか」という方法論についての議論が進みます。戦時中に使われていたドイツの暗号機「エニグマ」の解読で、後に世に知られることになるアラン・チューリングは、汎用コンピューターの登場よりも早く「チューリング・マシン」と呼ばれるさまざまな問題を解決できる万能機械の理論を構築しています。その理論を元に「人工知能の元になる概念」が提唱され、知的な振る舞いをテストする「チューリング・テスト」の理論も考案されました。
また「ノイマン式」と呼ばれる現代コンピューターの基礎構築に携わったジョン・フォン・ノイマンは「自己増殖する機械(自己増殖オートマトン)」の理論を作り、機械に生命的な活動ができることを示しました。
技術的な面だけではなく、こうした理論の面でも大きな発展があったことで「本当に人間の知能を機械で再現できるかもしれない」という想いが研究者たちの間に広まることになります。
【次ページ】AI研究の原点となった学者たち、その凄すぎるその功績とは
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR