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- 2020/09/03 掲載
よく売れるアシストスーツの秘密、いかに「軽量・安価」を実現した?舞台裏に迫る
アシストスーツの「高価」「重たい」イメージを払拭
物流や製造、介護、農業などの現場で使われ始めているアシストスーツ。身体的負担の軽減が図れるが、総じて高価で重いことから、導入に二の足を踏んだり、導入後に不満を感じることがあった。このようなアシストスーツの課題を解決するものとして開発されたのが、ユーピーアール社の「サポートジャケット」シリーズだ。販売している商品は、動力を使わない『サポートジャケット Bb+PRO(税抜3万6000円)』と『サポートジャケット Bb+FIT(WIDE・税抜2万8000円/SLIM・同2万5000円)』のほか、モーターの力を使う『サポートジャケット Eb+ROBO(税抜オープンプライス)』の3タイプ。これまでのところ、「Bb+PRO」「Bb+FIT(WIDE/SLIM)」が合わせて1万5000着売れており、「Eb+ROBO」が350社を超える企業で採用されている。そんな、ヒット商品はいかにして誕生したのだろうか。
“動力無し”のアシストスーツのメリット
ユーピーアールはパレットや物流機器のレンタル、販売が主力事業で、アシストスーツ事業は2010年から開始した。当初は他社製のアシストスーツの販売が中心であった。「サポートジャケット」シリーズを開発することにしたのは、導入現場からより安価で軽量なアシストスーツを求める声が聞かれたからであった。「本来、アシストスーツは身体に負担をかけないために装着するものですが、聞き取りを行ってみると、ユーザーはパワーアップするイメージを持っていることが分かりました。徐々に啓蒙が進みこのような勘違いがなくなってくると、今度は『高い』『重い』という声が聞かれるようになりました。このような経験から、最初はとにかく安くて軽く、それほど大きな力が必要なわけではなさそうだと感じていました」
また、無動力には動力のあるアシストスーツにはないメリットがあったという。それは、動力のあるものは前かがみや中腰の時に効果を発揮するのに対し、無動力のものは直立、前傾、前かがみ、中腰、しゃがみ、とあらゆる姿勢で効果を発揮するということだ。
「1日中前かがみだったり中腰の姿勢をとる仕事は、ほとんどありません。大多数の仕事は直立からしゃがみまで複合的な動きをしますので、いろんな姿勢でも効果を発揮するものをつくることにしました」(長澤氏)
売れるアシストスーツ開発に関わった意外な協力者
しかし、当時の同社にはものづくりの経験がなかった。そのため、開発は協力者探しから始まった。最初に協力してくれたのは意外にも山本寛斎事務所だった。「動力を用いる機械的なアシストスーツとは異なり、ソフトな着心地のアシストスーツをつくるためには、服づくりの知識・経験が必要でした。こうした事情から協力者探しを進めたところ、当社役員のツテから山本寛斎事務所にデザイン面の協力を得られることになりました」(長澤氏)
山本寛斎事務所と同社で製品コンセプトなどを話し合い、製品像が見えてきたところで、製品仕様の根拠となる理論的裏付けが必要になってきた。そんな時に紹介されたのが、保健学を専門とする金沢大学准教授の米田貢氏。相談を持ちかけたところ協力を快諾してもらい、開発に関わってくれることになったという。
そのために採用したのが、背中から骨盤にかけてもう1つの体幹を生みだすために開発した第2の背骨「Bb+」。人間の背骨と同じアーチと適度な可動性で椎間板への圧力増加を抑制し、負担の少ない姿勢角度をキープ。猫背のように背中が丸くならず腰に負担を掛けないよう矯正する仕組みだ。
素材が硬すぎると矯正がきつくなることから、Bb+はほどほどの柔らかさにすることがポイントになった。材料として板バネ、シリコン、プラスチック、竹などを使い、試作品をつくっては検証するというプロセスを1年半ほど繰り返した結果、ポリプロピレンを採用することになった。
ただし、Bb+を筋肉に相当する生地に縫い付けるのは難しく、対応できる縫製業者が限られた。山本寛斎事務所の協力を得て実現可能な縫製業者に縫製を依頼し、開発は進んでいった。
理想的な姿勢を実現するには、上体を起こす機能も必要だった。この機能を実現する上でカギになるのが、腰から膝裏にかけて設けられたゴム製のマッスルベルトだ。脚の筋力補助を目的に設けられたものだが、前傾した時は起き上がりを助け、しゃがんだ時は立ち上がりを助ける効果を発揮する。足の筋肉を使って物を持ち運ぶようになることから、腰に負担がかからなくなり腰痛を予防できるというわけである。
【次ページ】従来製品に対する不満を解消、売れるための工夫とは
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