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- 2023/03/01 掲載
AI活用で歩く速さ2.5倍の「ムーンウォーカーズ」、米国生まれ“夢の靴”の正体を探る
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
世界最速シューズ「ムーンウォーカーズ」とは
この速く歩ける歩行補助装置「Moonwalkers(ムーンウォーカーズ)」は、AIがユーザーの歩き方を学習し、それに合わせてモーターが動くことで、歩行を補助してくれる装置。歩行スピードが最大で250%早くなり、靴の上から装着してストラップで固定するだけで利用できる。テクノロジーの中心街の1つであるペンシルバニア州ピッツバーグに拠点を置くShift Robotics(シフト ロボティクス)というスタートアップ企業が開発した。ムーンウォーカーズはスケートのようだがそうではない。開発者でシフト ロボティクスCEOの張迅捷(チャン・シュンジエ)氏は、「これは世界一速い靴にでき、ユーザーはスケートのような滑りの動きをするのではなく、歩くだけだ。使い方を学習する必要はなく、靴(装置)がユーザーを学習する」と述べている。
米テックサイトのWiredは、「この装置を履けば、歩行する普通の道が『歩く歩道』に早変わりする」「想像した以上に安全だ」と評している。
最大速度は毎時11キロメートル。ちなみに、平均的な成人の歩行速度は毎時約4.8キロメートル、走行速度はその約2.5倍だというから、ムーンウォーカーズは文字どおり世界一速い靴にすることができる装置だ。たとえば毎日30分の徒歩通勤をする人なら、単純計算でそれを半分に圧縮できる。
充電にはUSBポートを利用。1回のフル充電で1時間半を要するが、約10キロの走行が可能である。
歩行速度が最大で時速約11キロメートルだから、片道1時間ほどの通勤・通学に向いているということになる。
開発のきっかけは「通勤中のある体験」
発明のきっかけは、張CEOが、坂道の多いピッツバーグを徒歩で通勤していたある日、車にはねられそうになった体験だ。バッテリーで動くモーターをスニーカーに内蔵すればもっと速く車をかわすことができたのではないか。そもそもスピードの出るスニーカーがあれば通勤や通学をもっと楽しくできるのではないか──そう考えた張氏は、ムーンウォーカーズを開発することにした。
ピッツバーグにあるカーネギーメロン大学ロボット研究所に所属していた張氏は、2018年に投資家から100万ドルを調達。その上でロボット工学の専門家や、スニーカーのデザイナー、レーシングカーを研究するエンジニアなど約10人を集めて、持ち主の歩き方を学習するデバイスとしてムーンウォーカーズを設計した。
数世代のプロトタイプ試作を経たムーンウォーカーズは各種特許を取得。米国内のみの出荷ではあるが、ホームページ等ですでに予約販売が開始されている。晴れて完成品モデルが市場に送り出されるわけだ。 【次ページ】性能の秘密や使い方、想定される用途は?
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