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  • 2019/12/13 掲載

「橋と船の両方はわがままか」──宇高航路が幕。国の“道路優先”政策が招く未来

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岡山県玉野市の宇野港と香川県高松市のサンポート高松を結ぶ宇高航路が15日かぎりで運休する。瀬戸大橋の開通後、最後に残った四国急行フェリーが減便を繰り返しながら存続を図ってきたが、利用者の減少に歯止めがかからなかったため、鉄道連絡船を起源とする109年の歴史に幕を下ろす。長く人の移動や物流を支えてきた地方の船便は、宇高航路以外でも運休が相次いでいる。岡山大大学院社会文化科学研究科の中村良平特任教授(地域公共政策)は「やむを得ないこととは思うが、国の政策が高速道路優先で、(国の支援がある)離島航路以外は橋ができると廃止に向かっている」と指摘した。
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四国急行フェリーの船上から望む宇野港。廃止された航路の船着き場がさび付き、寂れた感じが漂う
(写真:筆者撮影)

2県2市の追加支援受けられず、運航再開も困難に

 船内名物のうどんを食べながら、窓の外をのぞくと、青い海に直島など離島の緑と巨大な瀬戸大橋が浮かび上がる。ただ、船内は定員490人なのに、乗客は約20人。運ぶ車も10台ほどで、車載スペースは半分以上空いている。

 12月上旬、宇野港に向けてサンポート高松を出港した四国急行フェリーの「第一しょうどしま丸」。約1時間の船旅は美しい瀬戸内海の風景と裏腹に、まるで空気を運んでいるような状態だった。

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サンポート高松に到着した宇高航路の四国急行フェリー。歴史ある航路の廃止に岡山、香川両県民から残念がる声が上がっている
(写真:筆者撮影)

 宇高航路は明治時代の1910年、鉄道院(旧国鉄、国土交通省の前身)連絡船が就航して開設された。高度経済成長期の1960年代には旧国鉄の宇高連絡船に加え、四国フェリーなど民間3社のフェリーが就航、本州と四国を結ぶ大動脈となっていた。瀬戸大橋開通前年の1987年度は3社合計で1日約150便が運航し、年間約400万人を運んでいる。

 しかし、瀬戸大橋の開通で旧国鉄の航路を承継したJR四国の宇高連絡船が廃止されたあと、四国フェリー以外の2社が相次いで撤退した。四国フェリーから航路を受け継いだ四国急行フェリーは、2000年代初頭の1日50往復から1日5往復まで減便、岡山、香川の両県、玉野、高松の両市から補助金を受けて航路を維持していたが、ついに力尽きた。

 2018年度の年間利用客は14万人。毎年5000万円以上の赤字を出し、膨らんだ累積赤字は数億円に上るという。11月に国交省四国運輸局に運休を届け出るとともに、「コスト削減にも限界があり、これ以上の航路維持は困難」とのコメントを発表した。

 高松市で開かれた2県2市との協議会では、離島航路に準じた手厚い支援があれば運航再開の可能性があることを伝えたが、追加支援は受け入れられなかった。



国に離島航路以外への運航費補助制度存在せず

 宇高航路に大打撃を与えたのは1988年の瀬戸大橋開通だが、その時点では割安料金をセールスポイントにどうにか生き残ることができた。だが、2000年代末から高速道路料金の大幅割引がスタートして事実上、息の根を止められた形だ。

 当時、岡山、香川の両県は「国の高速道路施策の結果、影響を受ける公共交通機関の支援は国が責任を持つべきだ」と主張、国交省に再三、支援を陳情した。しかし、国交省は離島航路でないことを理由に支援に乗り出さなかった。岡山県県民生活交通課は「瀬戸大橋がある中で支援できないことも指摘された」と振り返る。

宇高航路の歴史
1910年 鉄道院(後の旧国鉄、国土交通省)が宇高連絡船を開設
1949年 旧国鉄が宇高連絡船を承継
1955年 紫雲丸の沈没事故で168人が死亡。瀬戸大橋構想が本格化
1956年 四国自動車航送(現四国フェリー)がフェリー開設
1959年 津国汽船が航路を開設
1961年 宇高国道フェリーが航路開設
1972年 旧国鉄がホーバークラフトを就航
1985年 旧国鉄が高速艇を就航
1987年 国鉄分割民営化でJR四国が宇高連絡船を承継
1988年 瀬戸大橋開通で宇高連絡船、ホーバークラフトが廃止
1991年 JR四国の高速艇が廃止
2009年 津国汽船が宇高航路から撤退
2012年 宇高国道フェリーが運航を休止
2013年 四国フェリーが運航を子会社の四国急行フェリーに移管
2019年 最後に残った四国急行フェリーが宇高航路の運休を届け出
(出典:国土交通省資料などから筆者作成)

 直島や小豆島を経由して玉野市と高松市を結ぶ航路が存在することも国交省の姿勢を変えられない一因となった。国交省内航課は「省エネ機器の整備や訪日外国人観光客対策など個別の補助制度はあるが、離島航路以外で運航費を支援する仕組みが国にない」と説明している。

 今回の運休について岡山県の伊原木隆太知事は「利用客が大きく減少している現状を鑑みると、休止は残念だが、やむを得ない」、香川県の浜田恵造知事も「航路の休止届が提出されたことは残念」と、万策尽きたことをうかがわせるコメントを発表した。

 これに対し、地元には不満の声もある。玉野市を拠点活動する市民グループ宇高連絡船愛好会は「瀬戸大橋だけで岡山と香川間の交通をすべて支えきれない」として存続に向けた提案書を高松市に提出した。

 岡山県へ仕事でたびたび出掛けている高松市の自営業者(61)は「橋と船の両方ほしいというのは地元のわがままだろうか。霞が関の役人は高速道路ばかりに目が向き、地元のことが分かっていない気がする」と怒りをぶつけた。

【次ページ】静岡や高知でも民間事業者が相次いで撤退
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