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台風15号と19号によって各地が大きな被害を受けたことから、道路の無電柱化に再び注目が集まっている。無電柱化の議論は30年以上も前から行われているが、日本ではほとんど実施されていない。近年、異常気象が増えていることなどを考え合わせると本格的な議論が必要なのは間違いないが、超えなければならないハードルはあまりにも高い。
何度も議論されてきた「無電柱化」
台風15号は大規模な停電被害をもたらしたが、電柱が倒れたり、倒木によって電線が切れるという事故が同時多発的に起こったことから、復旧作業は難航を極めた。今回は規模の大きい台風だったことから、電柱の被害がクローズアップされたが、これまでも地震で電柱が倒れたり、強風で電線が切れるという事故はかなりの頻度で発生している。
今後も、大型の台風が日本を襲う可能性は高く、大地震の発生確率も高まっている。今のままでは、電柱の倒壊による停電や火災、道路の寸断といった事態が予想されることから、災害対策上、好ましくないという意見は多い。
日本は諸外国と比較すると、道路の無電柱化はまったくといって良いほど進んでいない(東京23区は8%)。ロンドンやパリ、香港、シンガポールといった国際的な主要都市が、ほぼ100%の無電柱化率となっているのとは対照的だ。
無電柱化の話は、30年以上も前からずっと議論され続けているが、当初は災害対策というよりも街の景観という視点での議論が多かった。欧米各国が無電柱化を積極的に進めてきたのも街の景観維持という側面が強い。
日本の場合、都市景観に関する社会的なコンセンサスがそもそも出来上がっていなかったという事情があり、無電柱化の話も、浮上しては消えるという状況が続いた。
だが近年、アジア各国の主要都市が進めている無電柱化には、景観維持だけでなく、災害対策という面も大きい。日本において、無電柱化の議論が再び盛り上がってきたのも、災害対策の視点からである。
基本的にはメリットが大きい
無電柱化については、一部から、台風には強くても、地震には弱いのではないかといった指摘や、地中の電線は冠水のリスクがあるのでかえって危険だという意見も出ている。
地震については、ケースバイケースとなるだろうが、少なくとも地中化することが、そのまま地震に弱いということにはつながらない。日本と同様の地震大国である台湾の台北市も96%が無電柱化されているが、無電柱化が地震の被害を拡大させたという話は聞かない。
米国ロサンゼルスも日本に匹敵する地震多発エリアだが、80%以上の無電柱化率を達成している。
そもそも電話線やガス管、上下水道などがすでに地中化されている現状を考えると、電線だけを特別扱いにする理由はない。地震が来れば、地上の電柱は一定割合で倒れ、ほぼ確実に停電をもたらすという現実を考えると、地震が多いという理由だけで無電柱化が難しいという議論は一種の思考停止だろう。
たしかに地下に電線を配置した場合には冠水のリスクがあり、地上に設置したトランス(変圧器)も、ゲリラ豪雨などの場合には、水にぬれる可能性がある。
ただ、東京都心・千代田区の無電柱化率は44%、港区は約30%、中央区は約35%と、日本の中では突出して無電柱化率が高く、災害に対するノウハウも蓄積している。少なくとも千代田区、港区、中央区において、地中化は危険だという指摘は出ておらず、各区ではさらに地中化を進めたい意向である。
これは、すでに実績が出ている話なので、導入を進める自治体のケースを参考に、ベネフィットとリスクについて冷静に議論すれば良いだろう。総合的には電柱をなくしていく方が、街全体のリスクは軽減できる可能性が高い。
では、十分なメリットがあるにもかかわらず、なぜ無電柱化が進まないのだろうか。
【次ページ】無電柱化が進まない理由とは? 財源確保の先に待ち受ける壁
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