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悪質なあおり運転ドライバーが逮捕され、そのドライブレコーダーの映像がインターネットをにぎわせる一方で、相変わらず、高齢者ドライバーによる悲惨な交通事故は後を絶たない。運転操作ミスによる交通事故の調査分析を重ね、対策を施すことが必要だが、この分野で日本は後れを取っている。正確な事故調査のために、米国では2012年から「EDR」(イベントデータレコーダー)という装置の設置が義務付けられているが、日本ではまだ普及の途中だ。一体何が普及の障害となっているのだろうか。
エアバッグに組み込まれているECUとは?
高齢者ドライバーによる重大な交通事故の原因として多いのが、アクセルとブレーキの踏み間違いだ。しかし、当事者は「ブレーキペダルを踏んでいたのに止まらなかった」と語ることが多い。ドライバーの運転操作に対する懸命さは伝わってくるが、それだけでは事故の原因を解明する手がかりにすらならない。
いまや、ほとんどのクルマの運転席には、SRSエアバッグが組み込まれている。この補助安全装置は、一定の角度から衝撃を受けると、ドライバーを保護するためにエアバッグ内部の火薬を爆発させ、ガスの膨張圧力でエアバッグを膨らませる。ステアリングの中央部だけでなく、助手席側のダッシュボード、シート側面など、いたるところにエアバッグが組み込まれている車種が増えている。
エアバッグの展開を決めるのは、エアバッグに組み込まれている「ECU」(エレクトロニックコントロールユニット)だ。衝撃の大きさや角度などからエアバッグが乗員を守るために有効だと判断(ちなみに前方衝突で、衝突の瞬間から0.02秒で判断)すると、くだんの方法でエアバッグを展開するのである。
そうした高度な制御の裏には、単なる事故の衝撃だけでなく、事故に至るまでの車両の情報をモニタリングする仕掛けがある。スピンモードに陥りそうになるとブレーキの与圧を高めたり、開いているサンルーフを閉じるたりするだけではなく、事故を予測するために、可能な限り走行情報を収集して判断している。つまり、エアバッグECUは、常に乗員の安全を見守ってくれているのである。
そのために、車速や車体に発生している加速度、エンジン回転数、ブレーキ回路の圧力、ABS(アンチロックブレーキシステム)などの制御状態、アクセルやブレーキの踏み込みの有無、ステアリング操舵角度といったドライバーの操作まで、実に幅広い情報を集めている。
事故発生時のドライバーの操作状態を正確に記録するEDR
実は、クルマにはこうした走行情報を記録する装置が搭載されている。それが「EDR」(イベントデータレコーダー)だ。「イベント」とは「事故」を指す。つまり、事故時の情報を記録することで、原因解明やエアバッグ展開制御の正確性を判断する材料とするのだ。
EDRがドライバーの操作を記録している以上、衝突事故が起こった際には、それがドライバーの操作に原因があるかどうかを判断する材料になる。
それは残酷なほど厳格だ。アクセルとブレーキのどちらを踏んでいたのか、ステアリングをどう操作したのか。エンジンや変速機の情報と同列に、ドライバーの操作情報も機械的に記録されているのである。
ただ、事実としてドライバーがどう操作していたかの証明にはなるが、それがどんな意図で操作されたかを判断することはできない。そのあたりは、弁護人がフォローして情状酌量を求める領域といえるのかもしれない。
米国では2012年からEDRの搭載が義務化されており、欧州でも2021年からは義務化される予定だ。だが日本の自動車市場は、この分野では遅れている。
【次ページ】トヨタもかつて自社製EDR解析ソフトを開発したが…
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