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「雨上がり決死隊」の宮迫博之氏や「ロンドンブーツ1号2号」の田村亮氏ら、吉本興業に所属するタレント・芸人が反社会勢力から金銭を受け取っていた問題は、所属タレントの一部が経営陣の刷新を求めるなど、同社の経営を揺るがす事態にまで発展している。同社は6000人のタレントを抱える業界最大手の事務所だが、一部からは肥大化が進み、マネジメントがおろそかになっているとの声も聞こえてくる。
計算上、テレビ番組の半分以上に吉本タレントが出演
吉本興業は、日本の芸能事務所としては初めて株式を上場した企業だが、2009年にテレビ局や大手広告代理店などが出資する形で株式を非上場化している。
このため同社は業績を公表しておらず、現在、どのような経営状態にあるのか外部から伺い知ることはできない。
しかしながら、芸能事務所は基本的にタレントの出演料などが主な収益源であり、最大の顧客はテレビ局である。テレビ番組の本数には上限があるので、株式を上場していた時代の業績もある程度までなら参考になる。
上場廃止直前の2009年3月期における同社グループ全体の売上高は488億7108万円だった。
当時は、吉本所属のタレント・芸人は子会社であるよしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属しており、この会社が出演料の管理などを行っていた。同社の売上高は333億8034万円となっており、これがグループの中核的な収益源とみて良いだろう。
全体の7割以上が番組の出演料もしくは制作料で占められているが、番組の出演料や制作費の獲得には主に2つの方法がある。
1つは番組の企画段階から丸ごと請け負い、タレントの出演をセットにして制作を行うユニットと呼ばれる方法。もう1つは、番組への単発もしくはレギュラーでの出演である。
当時はユニットでの番組制作が年間2644本、レギュラーもしくは単発での出演が2万3414本あった。
テレビ局は1日あたり20~25本程度の番組を放送しているので、年間の延べ番組数は1局あたり9000本を超える。
キー局だけでも年間4万5000本の番組が放送されているわけだが、吉本は計算上、その半分の番組にタレントを出演させていたことになる(ローカル局の番組やキー局との重複は考慮していない)。
2009年当時においても業界における吉本の影響力がいかに大きいのかが分かる。吉本がないと番組の制作もままならない状況であり、テレビ局が同社にこぞって出資するのもうなずける話だ。
ここ10年で吉本の規模は肥大化の一途
吉本は2009年当時、所属タレント数を約800人と公表していた。2013年には1000人と報道されていたケースもある。
売れていないタレントの場合、事務所に所属していても実質的に活動していないケースがあるので、所属タレント数を明確にするのは実は簡単なことではないが、当時はおおよそ1000人のタレントが在籍していたと考えて良いだろう。
これに対してグループ全体の社員数は827名で、実務を行う制作部門の社員数は560名だった。大ざっぱに言えば、560名のマネージャーが1000人のタレントを管理していたことになる。
1人あたり約2人のタレントを管理するという話だが、この負荷についてはどう考えれば良いのだろうか。
ちなみに、芸能事務所大手の1社であるホリプロは現在、約480名のタレントを抱えており、社員数は266名である。200名がマネージャーだと仮定すると、1人あたり2.4人となる。
同じく芸能事務所大手のアミューズには、277名のタレントやアーティストが所属しているが、社員数は約864名である。アミューズの場合には、サザンオールスターズや福山雅治、ポルノグラフィティなど音楽アーティストが多数所属しており、コンサートの開催といった業務もあるため、ビジネスモデルが異なっている。
吉本と比較してお笑いタレントが圧倒的に少ないとはいえ、ホリプロの方が吉本に近い業態であることを考えると、1人のマネージャーが2~3人のタレントを管理するというのは標準的な負荷とみて良いだろう。
ところが吉本はその後、経営を肥大化させており、現時点では6000人のタレントが在籍し、社員数は約1000人近くになっているとされる。
直接、マネジメントに従事する社員は800人程度と考えられるので、もし6000人というタレント数が、アクティブ(それなりに活動している状態)なものであれば、1人あたり7人以上のタレントを管理している計算だ。
この数字が本当であれば、吉本は過剰なまでのタレントを確保していることになるが、なぜ同社は規模の拡大にまい進したのだろうか。カギを握るのはやはりテレビ局との関係と考えられる。
【次ページ】吉本が肥大化した理由とは? 「バーター出演」がカギを握る
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