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オンラインサービスのサブスクリプション(売り切りではない定額課金)モデルはこの数年、米国で急拡大しており、ある調査によれば2011年に5700万ドルだった米サブスクリプション市場が2016年には26億ドルにまで成長している。2019年も引き続き好調が予想されるサブスクリプションビジネスだが、一方ですべてがうまくいっているわけではなく、次第に勝ち組と負け組が明らかになりつつある。本稿では現時点での勝ち組の成功と負け組の失敗の理由を分析し、サブスクリプションビジネスの将来像を探る。
米サブスク業界の現況と顧客像
米市場調査企業ヒットワイズによると、アパレルやミールキット、化粧品など手元に届くサブスクリプションボックスを提供するウェブサイトへの月間訪問数は2014年4月から2018年4月の間に
890%も膨れ上がり、4400万に達した。
米市場におけるサブスクリプション利用者の数は1850万人と推定される。利用者や訪問数の増加に伴い、売上も右肩上がりだ。米コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーが2018年2月に発表した
報告によれば、米サブスクリプション市場の規模は2011年に5700万ドルに過ぎなかったが、2016年には26億ドルと、文字通り桁違いの急成長を遂げている。
過去12か月に利用したサービスでは、アパレルやミールキット(食材セット)、化粧品など手元に届くボックスのみの利用者は4%に過ぎず、11%が動画や音楽ストリーミングを中心とするメディアとボックスの両方、35%はメディアのみだ。ボックスの利用者は全体の15%でメディアは46%と、物理的に届く商品よりもオンライン上のアクセス権があるメディアがより多く利用されていることがわかる。なお、51%はまったくサブスクリプションを使っておらず、伸びしろが大きい。
ボックスに限って訪問数と訪問者数の内訳で見ると、最も人気の高いカテゴリーは食品と化粧品であり、合わせて60%以上を占め、次いでアパレルの数値が高い。
サブスクリプションボックス利用者の35%は3つ以上のサービスを毎月購入しており、
顧客像としては、(1)比較的若いミレニアル世代、(2)大卒、(3)大学街やヒップな都市部に在住、(4)女性、(5)世帯収入が10万ドル以上、(6)オンラインの商品やサービスのレビューをよく読み書きする、(7)実店舗よりオンラインショッピングを好む、(8)グルメである、(9)民主党支持者である、(10)アマゾンをよく利用する、など「若く裕福で教育程度の高いリベラルな女性」というプロファイルが浮き彫りにされている。
各種の分析で判明している、サブスクリプション利用の主な理由は、「ほかのサービスや商品よりお得感がある」「よりパーソナルな体験ができる」「毎月届く商品に新鮮な驚きや流行がある」が挙げられる。
「サブスク負け組」の共通点とは?
サブスクサービスには動画ストリーミングのネットフリックスや化粧品のイプシー、お得なショッピングを提供するアマゾンプライムなど大成功を収めた「勝ち組」が存在する一方、人気を得られなかったり、収益面で失敗したものも多い。あえてそうした失敗例に踏み込むことで、成功の秘訣を多角的に分析してみよう。
「負け組」に共通する理由としては、サブスクリプションのルールが柔軟性を欠き、届いた商品や利用権があるサービスを十分に使い切る前に次の商品が配送され、休暇中にサービスがキャンセルできないなどの不満が大きい。
このため、平均して40%のサブスク利用者がサービスをキャンセルすると、マッキンゼーは報告している。高いチャーン(解約率)こそがサブスクリプション業界が直面する課題だといえよう。
特にチャーンが高いのは、自宅に食材の詰め合わせが届き、利用者がレシピに従って自分で料理が作れるミールキットだ。最初の6か月間で60%から70%の顧客が解約をする。当然、新規顧客獲得のための広告宣伝費など経費が膨れ上がる。同業界では2018年中に数社が営業を停止し、最大手のブルーエプロンでさえも業績が冴えず、株価は一時1ドル以下まで下げるなど、環境が厳しい。安定した収益をもたらすはずのサブスクだが、顧客つなぎ止めや新規顧客獲得のためのコストが高まり逆効果になる場合が多い。
解約の理由を探ると、週2回から3回分の注文が必須である融通性の欠如が最も大きい。食事のメニューはその場の思い付きや感覚で決まることが多く、自分で事前に選んだ料理であっても、気分が合わないことがある。さらに、使い切れないキットがどんどん届いて冷蔵庫にたまり、廃棄することもある。そのため、「サブスクリプションに閉じ込められた」と感じる顧客が多いのだ。
また、買い物や調理の手間が軽減されるはずが、予想以上にプロセスが面倒であったり、個別包装された食材のパッケージごみが膨大で「エコでない」と感じられること、料理の選択肢が限られていること、なども高い解約率につながっている。
こうした不満に対応すべく、ブルーエプロンでは宅配に加えて、スーパーマーケットの店頭で数種類のミールキットを販売し、「実店舗に買い物に行く手間はかかるが、好きな時に好きな料理を選べる」オプションを提供したり、ダイエットプログラム最大手のWW(旧社名ウェイト・ウォッチャーズ)と提携した差別化商品を提供するなど、対策を打ち出している。
ミールキットのほかにも盛大にコケたのが、「1日1本の映画が見放題で月額9ドル95セント」をウリに会員数を200万人以上に増やした映画館利用サービスのムービーパスだ。上映館に1か月4回以上通うマニアが殺到する一方、サブスク支払い分を毎月使い切らないため、一般映画ファンはお得感の欠如から解約する人が多かった。
このため、会社側の持ち出しとなって事業存続が危ぶまれる状態になり、失敗した。同社は鑑賞回数に制限を設ける一方、鑑賞回数に応じたプラン導入で値上げを行い、立て直しを図っている。
一方、ムービーパスの教訓に学んだ料金体系で勝負を挑むのが、配車大手のウーバーとリフトだ。たとえばリフトのプランは全米で利用が可能で、月額299ドルを支払えば30日間で最大30回、15ドルを上限としてサービスを利用できる。利用額が15ドルを超えれば、実際の料金との差額をその都度支払う。30回を超えて利用すると、5%割引でその都度実費を支払う。
Frequent rider(サービスを頻繁に利用する顧客)を一方的に有利にしない料金設定だが、柔軟性やお得感が少ない。一部を除いて利用者が伸びないと予想するメディアもある。
また、グーグルが鳴り物入りで立ち上げた1か月9ドル99セントの有料版YouTubeも鳴かず飛ばず。「YouTubeは無料」という認識を変えることが難しく、マネタイズしにくいのだとされる。
このように、「負け組」のサブスクリプションサービスには、「無料」のアイデンティティから抜け出せない、柔軟性に欠ける一方でお得感を提供できない、あるいはお得すぎて事業が成立しないなどの共通点がある。
顧客の高い自由度やお得感の要求と、縛りをかけて収益を安定させたい事業者側の思惑が正反対のベクトルであるからだ。しかし、こうした矛盾をうまく解決しているサービスもある。その秘訣は何なのだろうか。
【次ページ】ネットフリックスら成功の3事例、なぜ「勝ち組」たりえたのか
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