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デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れの中で、海外企業は今、どういった取り組みをしているのか。また、DXによってどのようなビジネス変革の効果が出ているのか。そして、DXを阻害する「大企業病」の正体とは何か。IDCのITスペンディンググループのマネージャー 廣瀬 弥生氏が解説した。
世界IT市場の潮流と日本市場の違い
世界のIT市場における製品別シェアをみてみると、約10年前に伸びていたスマートフォンやタブレットのシェアは、近年で成長が鈍化しています。一方で伸びているのがソフトウェア市場で、2016年にはソフトウェアの市場が、モバイルデバイスを上回ります。この流れをけん引するのはアメリカ市場で、2020年にはソフトウェア市場がITサービス市場を超えてしまうと予測しています。
一方で日本は、まだまだソフトウェア化は進んでおらず、ITサービスのシェアが上回っています。今後は、世界のIT市場はソフトウェア市場がけん引していき、その主役はアメリカ企業になるというわけです。
このソフトウェア市場の躍進を支えるものが、実はデジタルトランスフォーメーション(DX)関連のアプリケーションやサービスです。IDCでは、2018年にはソフトウェアの新しい開発の3分の2をDX系のアプリケーションやサービスが占めると予測しています。
なぜソフトウェアの市場が躍進しているのでしょうか。背景には、ITベンダーだけでなくエンドユーザー企業がソフトウェア企業化していることが挙げられます。これを表しているのがGEのイメルト会長の「すべての企業が『ソフトウェア』企業となる」という言葉です。GEはソフトウェアアナリティクスの会社になるということを、CEOさん自ら明言をしています。
この新しいソフトウェア市場の成長を支えるものが、イノベーションということになるわけです。イノベーションの主役は、イノベーションコミュニティーズと産業特化型プラットフォームです。
イノベーションコミュニティーズとは、いわゆるシリコンバレーによくいるベンチャーコミュニティを想像して頂くとイメージがしやすいかと思います。イノベーティブでクリエイティブなアイデアを持っているコミュニティーズというものが、新しいソフトウェアの開発を支えています。
クリエイティブなアイデアを創出し、ビジネス化する支援をするのが、産業特化型プラットフォームです。そしてこの産業特化型プラットフォームの主役になっているのがグローバルな大企業です。
代表的な企業がゼネラルモーターズ(GM)です。同社のDX分野における取り組みとして挙げられるのが、まず顧客体験と顧客分析です。これはディーラーさんと提携し、顧客エクスペリエンスを高めたというものです。さらに、自動車をサービス産業にするテレマティクスサービスがあります。そして現在話題を集めている自動運転技術の開発も挙げられます。
これを実現するために、GMでは構造改革をしました。まずソフトウェア化の一つとして、約8千人のソフトウェアプログラマーを雇用したと推定されています。また産業特化型プラットフォーム上では、APIをベンチャー向けに公開して、自動車の走行距離に応じた「ユーズドベースド保険」のアプリ開発をするベンチャー企業など、GMのプラットフォーム上での新たなソフトウェア開発を支援しています。ベンチャー支援としてはカーシェアリングサービスのウーバーの競合であるLyftにも出資しています。
海外におけるDX事例
それでは、DXによってどういったビジネス変革が行われたのでしょうか。海外のエンドユーザーにとっては、DXというのはCEOの関心事になっています。では具体的にどんな変革が起きているのか。その変革は主に2つあり、1つ目は顧客との関わり、2つ目が社内の業務プロセスです。
これまで企業と顧客との関わりは、営業やマーケティングが主導し、モノやサービスを買ってもらうことが最大の接点でした。今後企業と顧客は、モノを買ってもらったときだけの関係ではなく、モノを買う前から買ってもらった後にも使い続けてもらい、企業との関係を深め次の購買にも続けてもらうために、保守/メンテナンスや、その企業とパートナーシップを結んでいる企業にも目を向けていくことが必要になってきます。
そしてもう1つが、社内の業務プロセスを良くしていくという変革です。
IDCはソフトウェアの自動化の技術が進んでいくことによって、生産性が2倍になると予測しています。デジタルトランスフォーメーションというのはこういった変革を起こすものですよというのがわたしたちからのメッセ―ジになります。
オーストラリアの電力会社、AGI社の事例があります。オーストラリアはずいぶん前から電力自由化がされており、エンドユーザーは明細を見て予想外に高かった場合契約先の電力会社を変えてしまうという事態が頻繁に起こっています。AGI社は消費者のこの行動に着目し、スマートメーターのデータ分析をして、「使いすぎ」と思う使用量に達したエンドユーザーにアラートを出す仕組みをつくりました。これによって、電力会社をスイッチしてしまうという行為を止めようという取り組みをしています。
社内の業務プロセスも改善され、データを分析することによって、これまで社内の業務の中だけでは追えなかった未請求、未払い顧客への請求が迅速にできるようになりました。またビッグデータ分析によって、これまでターゲットとしていなかった層へのキャンペーン提案を行った結果、年間1万人の新規顧客獲得に成功したと言われています。
DXとは、ビジネスのやり方を変革し、意思決定の仕方を変えて、顧客中心のビジネスに変えていくことです。そこで重要なのが、ビジネス変革を進めていくという、そういうマインドを持っていくということです。
DXを阻害する「大企業病」の正体とは
自社がビジネスを変革できるのかどうかを判断する材料の一つとして、「大企業病になっていないか」という視点があります。大企業病は、オムロン創業者の立石 一馬氏が80年代に提唱した概念で、当時ブームになりました。近年でもいくつかの大企業の社長が、大企業病に関する問題提起を行っていますし、海外でもミスマネジメントなどといった言葉で採り上げられています。
例えば大企業病の組織では、中央集権化や官僚システムが肥大化し、顧客に目線がいかなくなる人間が多くなってしまう。組織が大きければ、許認可事項がどんどん増えていき、意思決定が遅れてしまう。大企業病というのは、DXとまったく逆の考えなのです。
とにかく上に聞こうという依存体質は、クリエイティビティとかイノベーションを阻害します。では、大企業病にかかってない組織とはどんな組織なのでしょうか。ここでは、三洋電機の白物家電事業を継承した、ハイアールグループ傘下の企業であるアクア株式会社(以下、アクア)の事例を紹介します。
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