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2015年、トヨタグループでITに関する研究開発を行うトヨタIT開発センターは大阪市と提携し、車のビッグデータを活用してドライバーの危険運転と市内の危険場所を明らかにする実証実験を実施した。この実験を通して危険データ分析システムを試作開発。これがドライバーに注意喚起を行う安全運転支援サービスやヒヤリハットマップの作成へとつながっている。
交通事故が起きる3つの要因
大阪市は、全国的に見て交通事故件数が多い市だ。2014年のデータでは、日本全国の交通事故数57万3842件(死者数4113人)に対し、その約2%に相当する1万2946件(死者数51人)が、1つの市である大阪市で起こっている(注:ただし一定人口割合で見ると高くはない)。
「TERADATA UNIVERSE TOKYO 2016」で登壇したトヨタIT開発センター 開発調査部/プロジェクトリーダーの長田祐氏は、「これを1件でも減らしたいという思いがあった」と述べ、「我々は車のデータを活用して日本をよくしていきたい、豊かな社会を作り上げていきたいと考えている」と強調した。
大阪市もまた2015年4月に大阪市ICT戦略骨子を発表し、「ICTを使って大阪市をよくしていきたい」という思いを宣言していた。そこでトヨタIT開発センターから今回の実証実験を大阪市に提案し、実現する運びとなった。
それではどんな原因で交通事故が起こっているのか。
その1つが「難しい合流地点」で、たとえば阪神高速環状線の池田付近は、300メートル先の左の出口に出るために4車線を跨がなければならず、事故多発地点となっている。
2つめは社会的な問題にもなっているが「自転車」による事故で、スマートフォンを見ながら、あるいは傘を差しながら自転車に乗っている人と、自動車、歩行者が激突するケースもあるという。
さらに3つめとして、幹線道路の抜け道として利用されている「生活道路での車の暴走」も事故につながる場合が多く、特にスクールゾーンが危険になっている。
「こうした事故の原因を少しでも減らして交通事故を無くしたいというのが、警察であり、自治体であり、市民であり、我々自動車メーカーの願いだ」
急ブレーキを踏んだ事実よりも「なぜ踏んだのか」が問題
安全に対する取り組みは、これまでにも国内のさまざまな組織が行ってきている。
警察なら事故MAPの開示、自動車メーカーなら自動ブレーキやレーンキープアシストなど車の制御技術の開発、また自治体や地図メーカーからは、道路の規制情報や高精度マップなどが提供されており、最近ではITベンダーが、ビッグデータ処理とAIを組み合わせたデータ解析による安全支援に取り組んでいる。
「我々は、これらすべてのノウハウを結集して究極的に目指すのが『自動運転』だと考えている。ちなみに自動運転とは、何も出発点から目的地まで無人運転で着くことが目的ではない。安全技術の究極の目標として存在するものだ」
そしてトヨタIT開発センターは、ITと車のビッグデータを活用する危険データ分析システムの開発を目指して大阪市との実証実験に着手、分析/実用/拡張/将来という4つの観点から目標を掲げた。
「まず車のビッグデータを分析することで、事故につながる危険な運転や場所を発見すること、次に危険運転や事故が起きやすい場所をリアルタイムにドライバーにアドバイスすること、また今後ICT端末としての機能を有する『コネクテッドカー』が普及することを見越して、運転支援の対象エリアを自動拡張させていくこと、そして将来的に自動運転のサポートとして今回開発するシステムを活用させること」
ここで長田氏は「急ブレーキは危険運転なのか?また急ブレーキ地点は、危険場所なのか?」と会場に対して1つの質問を投げかけた。
「自動車メーカーの人間は最初に研修を受ける時、ブレーキはちゃんと踏みなさいと教えられる。そうでなければ安全な運転ができないと。急ブレーキを踏んだからこそ、危険を回避できたのではないか。だから我々は、急ブレーキ=悪いこと、だとは思っていない。急ブレーキを踏んだという事実よりもむしろ、なぜ急ブレーキを踏んだのか、その過程や原因が問題ではないかと考えている。これを明らかにしたいと思ったのが、私の研究のきっかけだ」
【次ページ】ビッグデータの解析で、大阪市内で潜在的な危険場所を47か所発見
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