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2011年の東日本大震災をきっかけに、電力や交通状況の見える化などで大きな注目を集めた「オープンデータ」。今年の5月20日には、政府のIT総合戦略本部が官民一体となったデータ流通の促進を図る「オープンデータ2.0」を発表した。一般社団法人オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパンの代表理事をつとめ、内閣官房から「オープンデータ伝道師」にも任命されている国際大学グローバル・コミュニケーションセンター(GLOCOM) 主任研究員の庄司昌彦准教授に、オープンデータの現状と課題、オープンデータ2.0の概要、今後の展望、そして企業が押さえるべきポイントについて話を聞いた(聞き手は編集部 松尾慎司)。
オープンデータとは何か?活用のきっかけは?
──そもそもオープンデータとは何なのでしょうか。
庄司氏: 元々は行政機関が持っているデータを、有効活用しようというところから生まれました。行政機関は税金で運営されており、その活動の中で生成される情報は社会的な資源としてもっと活用すべきだという考え方です。
欧州では2000年代の初頭からEUで、政府が作った情報やデータをもっと活用していこうという議論が始まりましたが、オープンデータに注目が集まる大きな契機となったのが、米国のオバマ大統領が2009年の就任当日に「透明性とオープンガバメント」という覚書を発表してからです。
政府をオープンにしていく取り組みの1つとして、税金の使い道などに加えて、政府の持っているデータを国民が使える形で提供していくことを宣言したもので、以前から米国では連邦政府が作った著作物は著作権が発生しないことになっていましたが、今後は今まであまり積極的に出していなかったものを公開していくとか、より使いやすい形で出していくという姿勢を打ち出したのです。「オープンデータ」という言葉が使われたのも、オバマ政権からですね。
──日本での取り組み状況は、どうなっているのでしょうか。
庄司氏: オバマ政権の取り組みを受けて、経済産業省などが実験的なプロジェクトを始めたのですが、2009年というのは、日本がちょうど自民党から民主党への政権交代のタイミングで、「Twitter議員」や事業仕分けは注目されましたが、 データ活用への注目度は低いものでした。
その後、大きな転機になったのが2011年に発生した東日本大震災です。当時、電力の需要と供給が今どんな状況なのかという情報が必要とされました。その中で電力会社は、毎時間何kWの電力を供給できるのか、今需要がどのような状況にあるのかというデータを公開し、それを自由に使ってよいと開放しました。
その背景には国からの要請もありましたが、電力の状況が公開されたことで、需給状況をグラフ化して提供したり、有志のエンジニアによって節電アプリなども作られました。自発的に避難所の情報を整理しようとした人たちもいて、情報提供サイトもたくさん立ち上がりました。
データ活用の課題も浮き彫りになったのも、東日本大震災がきっかけだったと思います。たとえば避難所の情報は提供されているが、データ形式がPDFなので二次利用しにくいとか、緊急時なのでやむを得ないが、データに著作権を主張するCopyright All Rights Reserved.といった但し書きがあり、本来は勝手に使えないとか、あるいは使われている用語が揃っていない、などの問題です。
そこからオープンデータを活用するための取り組みをしようという動きが政府で始まりました。私は民主党政権下の2010年から、IT戦略本部の「電子行政に関するタスクフォース」のメンバーで、このタスクフォースの中でオープンガバメントもテーマに上がっていたのですが、当時はまだ漠然としたものだったのが、震災後、オープンデータ化を促進すべきだという議論を進めて、2012年に「電子行政オープンデータ戦略」を作成しました。日本での本格的なオープンデータヘの取り組みとしては、これが最初です。
政府が「電子行政オープンデータ戦略」で掲げた3つの目的
──その「電子行政オープンデータ戦略」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
庄司氏: オープンデータの活用を促進するための基本戦略で、政府は大きく3つの目的を掲げました。1つめが「透明性・信頼性の向上」、2つめが「国民参加・官民協働の推進」、そして3つめが「経済の活性化・行政の効率化」です。
端的に言えば、透明性を確保して民主主義をよくすること、官民連携をしやすくすること、経済効果を上げることを目指したもので、日本では2012年末に民主党政権から再び自民党政権に戻りましたが、3つめの経済効果への期待が高まっていたことで、この戦略は自民党政権にも引き継がれました。
──「電子行政オープンデータ戦略」策定後、日本でのオープンデータ化への取り組みは加速したのでしょうか。
庄司氏: 震災以降、国はとても頑張ったと思いますが、もっと頑張ったのは地方自治体です。現在政令指定都市など、210の先進的な自治体を中心に、オープンデータの提供が進んでいます。
具体的には福岡市や横浜市、千葉市、大阪市などが挙げられ、小さいところでも鯖江市や会津若松市などが積極的にオープンデータを公開しています。
さらに最近では、非営利団体の「Code for XXXXX(=地名)」など、テクノロジーを活用して身近な課題の解決に当たろうという有志のエンジニア
による「
シビックテック 」活動が盛んです。行政もその声に真摯に答えるようになってきており、エンジニアたちと行政が課題について対話し理解を深め、オープンデータを提供してもらって解決に取り組もうとする動きが広がっています。
ビジネス事例では、福岡市で介護事業者に対し業務支援システムを提供する
ウェルモ という企業があります。
従来、ケアマネジャーは、介護の計画を作る上で必要となる介護施設の空き状況を1件1件、介護事業者に電話やFAXで確認していました。一方、どこに介護事業者があるかという情報は、都道府県が集めて厚生労働省に集約しているので、オープンデータとして既に存在しています。
そこでウェルモでは、複数の自治体に働きかけ、情報提供を依頼しました。いくつかの自治体には断られたようですが、福岡市は出すと言ってくれたのです。
福岡市から情報提供をしてもらえるようになったことで、ウェルモではより精度の高い情報提供が可能となり、ケアマネジャーの人たちも非常に効率的に介護施設を探せるようになりました。施設側にもメリットがあって、自分たちが選ばれるようにさまざまな情報を積極的に提供するようになったそうです。
ビジネスモデルもユニークです。まず、情報を利用するケアマネジャーからはお金を取りません。その代わり、情報を掲載する介護施設から利用料をとるわけですが、情報を載せることで施設はケアマネジャーに選ばれるようになります。さらに、そうして集まる介護ビッグデータを分析することで金融機関や行政向けのビジネスを展開しているそうです。
元々福岡市はオープンデータ以外に、IT関連のスタートアップ企業を応援することに熱心で、企業と顧客とのマッチングや勉強会の実施などを積極的に行っていました。そうしたこともあり、ウェルモは2013年4月に福岡市で起業しています。
【次ページ】オープンデータ活用事例から見えた「最大のメリット」とは
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