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- 2014/03/28 掲載
株式会社はどのようなシステムなのか──「所有と経営の分離」の本当の意味
法律がわかる起業物語:第2話
■登場人物紹介
●神田友信
大手電機会社勤務の32歳独身。理系の大学を出て勤続10年、営業マン一筋でやってきたが、世界を変えるような商品を世の中に送り出したいと起業を決意。法律のことはよく分からないが、うまく会社を経営できるだろうか?
●新堂由起子
友信と同期入社な同僚で法務部の叩き上げ。31歳。好きな食べ物はザッハトルテ。友信とは入社の頃から細く長く友人関係を続けており、起業の相談にも乗ってくれる。不思議と高い店によく行っているようだが……?
■前回のあらすじ
かつて発明家を夢見ていた友信は、最近会社を辞めて独立することを考え始めた。世界を変える発明に出会えたら、その発明を世に送り出すために独立するのだ!──と、妄想しながら起業セミナーに参加した帰りの電車で、友信は不思議な女子中学生を見かける。そして女子中学生の持っていた自作の栞に、友信は衝撃を受ける。「これが、世界を変える発明だ……!」
「会社」といえば「株式会社」?
「……と、そんな中学生がいてさ。あの発明を、僕が作った会社で世界中に普及させたいんだ」会社の隣のビルに入っているカフェのランチを食べながら始めた熱弁を、友信はそう締めくくった。
平日の昼休み。オフィス街の真ん中にあるにしては、このカフェは値段が少し高めで、会社員にはイマイチ人気がない。友信の会社から歩いて数分のわりに、知った顔を見ることはほとんどなかった。同僚に聞かれたくない話をするのには便利な場所だ。
「なるほどねぇ」
新堂由起子は、食後のコーヒーを飲みながらふふっと笑った。カップをゆらゆらと回しながら、からかうような懐かしむような目をして言う。
「友信君、新人研修の頃から独立の話してたものね」
由起子は友信の同期社員だ。友信が営業一本でやってきたのに対し、由起子は法務部の叩き上げ。部署こそ違えど、入社の頃から妙に馬が合って、細く長い友人関係を続けてきた。
いつもの調子で、由起子はぽんぽんと質問を繰り出してくる。
「どうするの? その子から発明のアイディアを買い取るとか?」
「できれば、会社が大きくなったら、あの子にもリターンがあるような形にしたいんだよ。それに、凄い発明だと思うけど、今は十分な資金がないし……」
「株式会社にするんだったら、株をその子にあげるって手もあるけどねぇ」
友信は、首をひねった。
「『株式会社にするんだったら』というか、株式会社にするつもりだけど……」
「それ、ちゃんと考えて言ってる? 株式会社以外の形式もあるし、その方が良いこともあるわよ。……そもそも、株式会社ってどういうシステムか分かってる?」
「……ちょっと詳しく聞いても良いかな?」
素早くバッグからメモを取り出す。由起子はやれやれと肩をすくめた。
「結構ちゃっかりしてるよね、友信君って」
人造人間の「操縦者」と「所有者」
「会社は法人で、一種の人造人間である、って説明を受けたって言ってたよね」「そうそう、この間の起業セミナーでそう説明されたよ」
「じゃあ、その人造人間を操縦する人(経営者)と、その人造人間のオーナー(所有者)について考えようか」
株式会社では、「経営者」と「所有者」が分離する。株主が人造人間を「所有」していて、社長がそれを「経営」するのだ。
「『所有と経営の分離』ってやつか」
友信も、そのくらいは聞いた事がある。経済雑誌などでよく見かけるフレーズだ。
人造人間の価値と「株式」
株式は、人造人間の価値(資本)の断片だ。例えば、ある人造人間の価値が10万円で、発行済株式が10株なら、1株は「人造人間の価値の1/10」で、つまり1万円の価値を持つ。「例えば友信君の会社、元々友信君と私とで5万円ずつ出し合って5株ずつ持ち合ってたんだけど、私がお小遣いが足りなくなって、自分が持っている株式の1/5を──誰でも良いけど、例えば井上君に1万円で売ったとしようか。そうしたら、元々50%ずつの持ち合いだったのが、友信君50%、私40%、井上君10%になる、みたいな感じね」
「株を売ったり買ったりする話だね」
「株」と聞いて、友信が最初にイメージするのは、会社の価値の所有というよりも、株取引の話だ。友信と由紀子の同期のである井上は、株で結構な小遣いを稼いでいることを、しばしば自慢気に吹聴している。
「立場の違いに、問題があるわけ。井上君みたいな人の、っていうか、株を持っている人は多かれ少なかれ皆そうであって当たり前なんだけど、株主の関心事というのは、自分が持っている株式の価値であって、基本的にそれ以外ではないの」
株式は人造人間の価値の断片だから、人造人間の価値が上がれば株式の価値が上がる。井上は、「株式を今買えば、少し後には人造人間の価値が2倍になり、従って自分が持っている株式の価値も2倍になるかもしれない」などと期待するからこそ、株式を買うのである。
【次ページ】 「自分の会社」という素朴な感覚は守られるのか
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