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- 2015/02/24 掲載
「投資を受ける」ときにお互いが得するためには? 株式・資本金・時価総額の関係
法律がわかる起業物語 第9回
■登場人物紹介
神田友信
元・大手電機会社勤務の32歳独身。理系の大学を出て勤続10年、営業マン一筋でやってきたが、世界を変えるような商品を世の中に送り出したいと起業して1か月。法律のことはよく分からないが、うまく会社を経営できるだろうか?
新堂由起子
友信と同期入社の元同僚で法務部の叩き上げ。31歳。好きな食べ物はザッハトルテ。友信とは入社の頃から細く長く友人関係を続けており、起業の相談にも乗ってくれた。不思議と高い店によく行っているようだが…?
新堂広美
由起子の妹。最近結婚して会社を辞め、フリーランスとして働きたいと考えている。前職の関係でWebなどに強く、シオリヤのECサイトを制作。明るく元気な性格だが、天然なのがたまに傷だ。
玉井真琴
友信が電車の中で出会った、発明が得意な謎の女子中学生。読書を趣味にしているようだ。「本を読んでいる間はおでこに貼っておける栞」という発明を、友信の会社で製品化することに同意してくれた。他にもまだ発明があるようだが……?
■前回のあらすじ
かつて発明家を夢見ていた営業マンの友信は、電車の中で見かけた女子中学生が持っていた自作の栞に衝撃を受け、その栞を製品化して世に送り出したい!……と、本気で起業に向けて動き始めた。メンバーも揃い、商品販売の準備も整った。
自分の会社に投資家からの投資を受ける
広美は、仕事を頼んでみれば、なかなか仕事のできる子だった。発注したECサイトを納期通りに仕上げてくれた。そして、工場に発注していた栞も完成した。いよいよ、「株式会社シオリヤ」としての栞販売が始まったのだ。栞は、発売直後から、ネット上で話題になった。真琴の発明の斬新さから、SNSなどの口コミで広まったのだ。
しかしそうなってくると、問題なのはキャッシュフローだった。少数生産少数販売で少しずつ事業を拡大させる予定だったが、せっかく話題になっているのだから大口の生産発注を行いたい、しかし少数販売の売上しかないから大口発注のための資金がない……という問題だ。
「投資家がシオリヤに興味があるってよ!」
前の会社の同僚、井上から突然電話がかかってきたのは、その頃だった。
「本当に!? どんな人?」
「会社経営者なんだけど、個人で投資もしてる、という人。株の勉強会でたまたま一緒になってさ。お前の話をしたら『今度会わせて欲しい』ってさ」
「第三者割当増資」による投資
「投資」という言葉は、必ずしも一義的ではない。例えば、「シオリヤに1億円を投資するから、シオリヤの栞事業における今後の利益の10%を下さい」という契約だって考えられる。「契約」は、少なくとも基本的には自由に行えるからだ。ただ、ここでいう投資とは、「お金を出すから代わりに株を」という話であり、法律的に言えば「第三者割当増資」だろう。株式は、会社価値の断片である(詳細は第2回)。「第三者割当増資」とは、特定の第三者に対して募集株式を割り当て、お金を振り込んで貰うこと。これによって会社はお金が増え、「第三者」は株主になる。
「株式会社N-HALL」
井上に指定された会社に、友信は到着した。立派なロビーに緊張する。
「申し訳ありません、社長が急用で30分遅れることになってしまい……」
会議室で「取締役」と肩書きの入った名刺を差し出してくれた人にそう言われた。
「代わりに私が、弊社の概要について説明させて頂きます」
「株式会社N-HALL」は、物流を手がける一方で新規事業支援にも積極的であり、これまでも「人の生活をもっと豊かに/楽しくする」をキーワードとして支援を行ってきた、といった説明だった。
「貴社の栞、弊社のコンセプトにピッタリで、是非支援させて頂ければと考えております」
「ありがとうございます!」
栞の現在の売上や今後の展望など、一通り話したところで、ざっくばらんな会話になってきた。
「ところで、正直なところとして、時価総額はおいくらくらいとお考えですか?」
株式と1株あたりの株価と時価総額
「時価総額」とは、会社の現在の価値のこと。そしてこの数字は、特に設立間もない会社ではアバウトなものになる。……というより、「ならざるを得ない」。現在、シオリヤの発行済み株式数は1,000株だ。これは、会社設立時に友信が、ある意味「適当」に決めた数字。会社設立時には、発起人……つまり会社設立後に「社長」になる人が、会社に払い込む金額や、その結果として自分が受け取る株式数を決めることができるからだ。
仮に今回、「株式会社N-HALL」が1000万円を投資し、その代わりに500株を要求してきたとする。すると、1株あたりの値段は2万円、という計算であることになる。そして、第三者割当増資の後の発行済み株式数は1,500株。
繰り返しになるが、株式は、会社価値の断片である。1株あたりの値段が2万円で発行済み株式数が1,500株なら、会社の価値は3,000万円だ。
1株あたりの値段 × 発行済み株式数 = 時価総額
株式の値段が客観的に決まっている上場企業であれば、上の計算式は「自然」に思える。しかし未上場の会社の場合、投資を受ける際に払い込んで貰う金額、相手に渡す株式数は、結局のところ、自由な交渉ゲームの結果として決まるものに過ぎない。それによって「時価総額」、つまり「会社の価値」が算出されるという、この意味で「アバウト」な数字なのだ。
「さまざまなメディアで話題にして頂いていますし、1億円前後で考えさせて頂きたいなぁとは考えています。」
友信が軽くジャブを打つ。
大きな企業は新規事業支援を行う場合、いわゆる「拒否権」を要求することが多い。
【次ページ】 株主総会と株主の持分比率
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