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ビッグデータといえば、これまで自社データをどのように活用するかというコンテクスト(文脈)の中で語られてきた。しかし今後、ビッグデータはデータの連携・融合による新たなフェーズに入るという。「ビッグデータはマーケティング分野を中心として、他社・外部データの活用によって大きな価値が生まれるフェーズに入っていく」と予測するのは野村総合研究所(以下、NRI)の城田真琴氏だ。ビッグデータのカバレッジが拡大し、データ活用のステップも広がり、データの価値も増大する。このようなビッグデータ第二章に向けて、企業が考えておくべきことは何だろうか?
業種・目的によって求められるビッグデータは大きく異なる
5月21日に開催されたITロードマップセミナー SPRING 2013に登壇した城田氏は、NRIのアンケート調査をベースに、最近の日本企業のビッグデータ活用状況について述べた。この結果から分かるのは、日本ではビッグデータに取り組んでいるのは大企業が中心であることだ。実証実験を含めて20%ほどが何らかの形で取り組み済みで、検討中の企業も6%ほどある。「その一方で、999人未満の企業では実証実験も含めて5%以下という結果で、企業規模による取り組みの格差が大きい。」(城田氏)
また企業別にデータ分析対象をみると、かなり違いがあることが分かる。「全般的に業種を問わずに多いのは顧客情報や取引履歴データだ。だが、それ以外のものでは、POSデータやWebデータ、ソーシャルデータならば商社・卸売・小売業、音声データならば金融業・証券・保険業、位置情報ならば建設・土木・不動産業、センサーデータならば製造業というように、それぞれ必要とされるデータが違っている」(城田氏)という。
このように業種によって必要なデータに隔たりがあるのだが、それではデータをどのように活用しているのだろうか。城田氏は「やはり活用データが異なれば、その目的も違うことがはっきりと見えてくる。」と説明する。
たとえば、商社・卸売・小売業では顧客の購買履歴を活用し、送品割引クーポンを配信する販促に活用するケースが多いという結果が出た。また金融・証券・保険業では、顧客がコールセンターに問い合わせた履歴を活用し、新商品開発や離反予備軍の抽出に役立てている。製造業ではRFIDを利用したSCMの高度化、建設・土木・不動産では位置情報や業務機器のセンサー情報から得た知見を異常検知・保守業務への効率化に活用している。
このような結果を踏まえ、ビッグデータ活用に向けた目下の課題には何があるのだろうか。
上位の課題は「データ分析スキルを持つ人材の不足」「ビッグデータ活用を企画・推進する人材が確保できない」「投資対効果が見えない」というように、ビッグデータ活用に取り組む前に障害となるハードルが挙げられた。
城田氏は「ITベンダー側では、データ分析だけではビジネスとして大きな売上にならない。本音はハードウェアやソフトウェアを売りたいが、ユーザー企業が求めているのは、まず活用・企画ができる人材であり、そのあとにデータサイエンティストがくる。ITベンダーとしてニーズを掘り起こし、具体的に活用を企画するところからサポートしないと、ビッグデータが大きなビジネスとして開花することは難しいだろう。」と指摘する。
ビッグデータで年間約6億円ものコスト削減に成功した事例も
次に城田氏は、各業界における最新の活用例や注目事例について分野別に紹介した。製造業の事例では、GEが2012年11月に「Industrial Internet」という構想を発表。これは、同社が製造する機械にセンサーを付けてネットワーク経由で監視し、データを分析することで故障予兆を探る仕組みだ。「非常に高度なアルゴリズムが適用されている。飛行機のジェットエンジンでは、出発遅延につながるようなメンテナンスが必要な状態を70%の確率で特定できる。」(城田氏)という。
米国の運送業では、U.S.Xpressの「フリート管理システム」(車両管理システム)の活用事例が有名だ。数万台もの車両から取った約900項目のセンサー情報(年間で1000億以上のビッグデータ)をHadoopに集約してリアルタイム分析を実施。走行距離、車両位置、燃費情報、加減速(急ブレーキをかけたかどうか)、アイドリングなどのデータからチャートをつくり、各ドライバーにアドバイスすることで、年間で600万ドル(約6億円)ものコスト削減に成功したそうだ。
金融業では、アメリカン・エキスプレス(AMEX)が「MyOffers」というサービスを2012年5月からスタート。これは、同社のiPhpne用アプリケーションを活用し、顧客のカード決済履歴と位置情報(GPS情報)をヒモ付け、過去に買い物をした店舗、いま顧客がいる位置に近い店舗などを分析し、その人が本当に使いそうなクーポン券を優先順位を付けて発行する仕組みだ。「いま店に来てくれたら20ドルをキャッシュバックします!15%引きクーポンを差し上げます!というように、過去に利用した店や現地点から近い店からオファーが届けば、使ってくれる確率は非常に高くなる。」(城田氏)。
また従来のような手法で販促を打っても、実際に顧客にクーポンを使ってもらえたかどうか、その効果測定はかなり難しい。この場合は、クーポンを利用する際にAMEXカードを使うことが大前提となっており、店舗側で自動的にサービスを適用すれば効果測定も可能だ。利用者もクーポンをペーパーに出力する必要がなく、使い勝手がよい。そのため米国ではかなり流行っているサービスだという。
城田氏は、小売業の事例についても紹介した。小売業界はショッピングアプリが多い。オンライン食品店のPeapodでは、2012年9月に「Peapod Mobile」というアプリをリリース。買い物リストだけでなく、カメラをかざして商品の原材料やカロリーを確認したり、配達日を指定できる機能も盛り込んだ。「ビッグデータ的な観点では、過去の購買履歴を分析し、その人が買ってくれそうな本日のセール品をリコメンドしたり、買い忘れていそうなものを提示する機能がある」(城田氏)。
日本でも特筆すべき事例があるという。全国に430店舗を展開する調剤薬局大手・日本調剤の事例だ。年間980万枚もの処方箋を分析し、「医療機関や診療科ごとに、どの期間にどんな医薬品を処方したか」という情報をまとめ、製薬会社などに有償で提供している。
この種の情報は製薬会社にとって喉から手が出るほど欲しいもの。自社製品の売れ行きを地方ごとに確認できるからだ。個人情報が気になるかもしれないが、すべて匿名化され、あくまで集計データとして提供しているため問題はないという。「このビジネスは昨年から始まったばかりだが、驚くべきことにすでに月商2,000万円のビジネスに成長している。すぐに効果が出たという意味で大変興味深い例だ」(城田氏)。
【次ページ】外部データ連携がビッグデータ第二章の扉を開ける
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