• 2012/11/05 掲載

発信ではなく「聞く」ことで生まれるコミュニケーション──凄腕ライターが教える仕事とキャリア(2/3)

『会話は「聞く」からはじめなさい』著者 上阪徹氏インタビュー

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読者だったら何を知りたいか

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上阪 徹氏
──編集プロダクションに入ってからフリーになった人の話を聞くと、先輩にくっついていってインタビュー現場を体験したって人がけっこう多い。僕はそういうのがなくて、ぶっつけ本番でインタビューに臨んだので、羨ましく思いました。

 上阪氏■僕も誰かについていったり、教えてもらったりはしてないんですよ。最初は、20歳も30歳も年の離れた経営者とか、年長者との対話経験が少ない若い人とか、どう接していいかわからなかったですね。

──どうやってコツを掴んでいったのでしょう。

 上阪氏■結局、読者だったら何を知りたいかなって、代弁する気持ちでインタビューに行けばいいとわかったんです。あとはやっぱりしっかり準備することですね。どんな流れで、どんなことを聞いていくか、資料も読んで徹底的に用意しておく。

──読者のことを考えたときに初めてインタビューというものが腑に落ちたんですね。上阪さんはインタビューで、「ライターとして、広く浅くのスペシャリストになればいい」とおっしゃっていました。ということは、専門分野外のことについて話を聞くケースも多いわけですよね。

 上阪氏■もうわからないことばかりですよ。アンドロイドの専門家とか、透明人間の研究をしている人とか、そういう人もいますから(笑)。

──それはさっぱりですね。

 上阪氏■資料をいくら読んでもまったくわからない。そこで知ったかぶりしてもしょうがないので、素で聞きに行きます。「僕は文系なので、本を読んでもわかりませんでした」といえば、優しく教えてくれます。プロは基本的に上手に教えてくれますから。

──僕も、専門分野外のことについて聞くことが多いのですけど、新しい情報を知るのは楽しいです。

 上阪氏■1時間のインタビューで、本1冊分どころじゃない情報を手に入れられますよね。だから、自分が詳しくないことだったとしても、読者の目線に立てばいいと思うんです。とにかく読者が知りたいことにフォーカスする。これは、聞くのも書くのも同じです。『会話は「聞く」からはじめなさい』や『書いて生きていく プロ文章論』など、たくさん本も出していますけど、これらも、僕が書きたいことではなくて、僕の経験をもとに、読者が知りたいことを書いたつもりです。

僕、「意思なし」なんですよ

──先ほど、30代前半のころから月に50~60人ものインタビューをしてきたとおっしゃっていました。フリーになったのが29歳からですよね。最初から右肩上がりで仕事も増えていったのでしょうか? まったく仕事がない時期とかは……。

 上阪氏■幸運なことにないんですよ。走り続けて17年、同期や先輩から「まだ走っているのか」とよく言われます(笑)。フリーになった当時は不況で、率直に言えばあまり広告の作り手としては面白くない業界の仕事が一番の稼ぎ頭だったんです。それが、金融でした。でも、僕は「せっかくだから面白くしたいし広告効果もちゃんと出したい」と思って、変わった広告を作ったりしていました。そうしたら「どうも上阪は金融に詳しいらしいぞ」ということになって。

──人がやりたがらない仕事をやっているから目立つようになったわけですね。

 上阪氏■いただいた仕事を引き受けていただけなんですが、たしかに他にやりたがる人はいなかったみたいですね。でも、そのうち「どうもあいつは金融に詳しいらしい」って話にますますなっていって。その後、1995年にリクルート・グループがマネー誌を創刊したんです。

──上阪さんがフリーになった年ですね。

 上阪氏■そう。金融に詳しいライターを探していたところ、僕に話がきた。それで創刊に携わることになりました。そこからどんどん、「金融に詳しい」と思われて、いろいろと仕事がやってくることになりました。当時は都銀が確か13行くらいあったんですけど、すべて担当しましたよ。そのうち、紹介で大手広告代理店からも声がかかって。

──すぐ売れっ子に……!

 上阪氏■それから数年して、そのときの大手広告代理店のクライアントだった投資信託会社の担当者の方が、外資系の銀行に転職しまして。その彼が、「上阪さん、頭取が本を作りたいって言っているのですけど、やってみない?」と。

──おお、どんどん話が進んでいきますね。

 上阪氏■打ち合わせに行ったら、銀行側の人と出版社の人がズラーっと並んでいて、僕は銀行側に座ったんです。「こちらがライターの上阪さん」って紹介されて、なんで銀行側にライターがいるんだって(笑)。帰りに、出版社の方から声をかけられて、「実は、もう1冊本を作りたいんだけど」と言われて、いっぺんに2冊、その場で受注!

──うわー。そのときはまだ本を作ったこともないわけですよね。

 上阪氏■そうそう。でも、「大丈夫、大丈夫、きっとできるわよ」って、その女性編集者が。そして1年後、彼女が担当編集者になってくださって出すことができたのが、『プロ論。』なんです。これが売れてくれたので、なんとか恩返しができました。

──人とのつながりで、どんどんとステップしていっていますね。

 上阪氏■恐るべき連鎖ですよね。神風が何度も吹いている。でも、大事なことは、目の前のことをちゃんとやることだけだと今も思っています。実際、それしかしてこなかった。僕は、宣伝会議の編集・ライター養成講座の講師もやらせてもらっているんですけど、「売り込みに行くよりは、一所懸命、自分の原稿を見なおしたほうがいいですよ」と言っています。

──わー、今まさに、「営業はどんな風になさっているんですか?」と聞く直前だったんですよ。

 上阪氏■ライターは得意分野があって、それもキャッチーなものがあるといいのでしょうね。僕はそれが金融だったわけです。でも、別に僕が「こんな風な仕事がしたい」と思ったわけでもないんですよ。「上阪くん、こんな案件があるけど、やってみる?」と言われて、「やります、やります」と言ってきただけ。僕、「意思なし」なんです。仕事を選ぶこともしなかったし、本を出そうとも思ってなかったし、いただいた仕事だけをとにかく懸命にやってきたら今があった。流されるままなんです。

──それは、なんか、あんまり参考には……。

 上阪氏■ できませんよね。もう一度、自分でやろうと思ってもできないもの(笑)。でも、目の前のことさえちゃんとやっていれば、絶対に運は開けてくると思っています。


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