『会話は「聞く」からはじめなさい』著者 上阪徹氏インタビュー
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文化活動としてのライティング、経済活動としてのライティング
──上阪さんは締め切りを絶対守ると取材でおっしゃっていたこともありますよね。自分は編集の仕事をやってみて、締め切りを守るライターのほうが少ないんだ、ということがよくわかります。
上阪氏■締め切りに遅れたら、困る人がたくさんいるんですよね。……あるライターから、「なんでお前は締め切りを守るんだ」と問われたこともありました(笑)。そのうちわかったんです。僕はビジネスといいますか経済活動として、ライティングの仕事をしているんですけど、そうじゃなくて、文化活動としてやっている人もいるんだな、と。
──え、どういうことですか?
上阪氏■文化活動としてやっているから、締め切りに遅れてもいい、という感覚なんだと思うんですよ。芸術家のような文化活動をする人と締め切りって、なんだかそぐわないじゃないですか。その意味では、締め切りを守らない人とは、そもそも考え方が違うんです。締め切りをめぐって語り合っても噛み合わないと思います。彼らは文化を作っていて、僕は経済を作っている。だから締め切りは守る。……どっちですか?
──なんとか、守ってきています。
上阪氏■経済活動系ですね、珍しいですよ。よく編集・ライター養成講座で言っていることがあります。原稿はクオリティが100点、締め切りを守って100点、合計で200点。
──締め切りを守るだけで、100点は取れる。
上阪氏■そう。僕が編集者ならそういう判断をします。リクルートで広告を作っているとき、守らない人がたくさんいたんですよ。納期を守ってくれないデザイナーやイラストレーター。印刷屋さんもクライアントさんも困るじゃないですか。広告の仕事をしてきたからか、締め切りに対する意識はすごく厳しいと思います。だから、僕は締め切りは絶対に守るし、守らない人とは仕事をしないように決めています。
親の言うことは聞いてはいけない
──以前、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の担当編集である柿内芳文さんと、『もしドラ』を担当された加藤貞顕さんがイベントをやっていて、柿内さんが大学生に話を聞いたら、ライターという仕事の人気がなくなってきていると。若い人には人気のない職業になってきているのかなと思いまして。たしかに、僕と同年代の、20代のライターってほとんど見ないんですよ。
上阪氏■ライターはとても良い仕事だと僕は思っていますけど……。変にうがった考え方でライターをやろうとする人はそもそも向いてないかもしれませんね。「出版業界は景気悪いし、ライターなんて仕事はダメだね」みたいなことを言っている段階で、もう合わないかも。
──関心があれば勝手に入ってくる。嫌々やっても続かないですしね。
上阪氏■どんな職業でもそうなんですが、「仕事は何のためにあるのか」を考えていくと、もちろんお金を稼ぐためでもあるけど、一方でやっぱり社会の役に立つためにあるんだと僕は思っているんです。要は何で社会の役に立つか、なんですよね。だから、文章を書くことで役に立ちたいと思えない人はやらないほうがいいと思う。景気や将来なんて関係ない。
──今自分の周りを見ていても、将来に希望を持っている人っていないんですよ。ライター、出版業界に限らないけど、長期的に見て「いいことありそうだ」と思いにくいってのも問題なのかなーと。
上阪氏■でもね、よーく考えてみたら、そんな夢を見ることができた時代って、高度経済成長期からの30年くらいしかなかったんですよ。歴史を紐解いていくと戦前、戦中、戦後、みんな食うのに必死だった。
──奇跡の30年間だったわけですね。
上阪氏■日本2000年の歴史の中でね。その30年だけがおかしいんですよ! 世の中は不確実。この取材のあと、帰りのタクシーで事故に遭って死んでしまうかもしれない。一寸先は闇だし、未来がどうなるかは誰にもわからない。そこに安定とか、輝ける未来みたいなものを求めてしまうこと自体がおかしいのでは。
──上の世代がその「輝ける未来」をたまたま見ることができたから、それを下の世代にも押し付けている気はしていて……。でも、結局僕たちは、ずっと「未来に夢や希望なんてねーよなー」と言ってきたなあ。
『リブセンス<生きる意味>』
上阪氏■そう、親の言うことは聞いてはいけない(笑)。でも、意外に若い人はしっかりしているし、上の世代にも左右されていないんじゃないかとも思いますよ。昨年12月に史上最年少上場を果たしたリブセンスの村上太一社長としゃべっていると、モノに対する考え方といい、したたかな生き方の戦略といい、僕たちの世代よりもはるかにしっかりしている。
──村上さん、1986年生まれでしたよね。僕の1歳上です。
上阪氏■そうなんですか。今の20代は、厳しい状況に直面してきたから、変に楽観視もしないでしょう。シビアに物事をみている。あとは、「輝ける未来」なんてもともとないんだってことに気付けるかどうかですね。
発信することをコミュニケーションだと思っている人が多い
──高度経済成長時に希望があったのと同じで、出版という仕事に人気があったこと自体がおかしかったのかも。
上阪氏■今は、本当に好きな人しか入ってきていないのかもしれない。それでいいんじゃないですか。でも、編集・ライター養成講座を見ても、けっこうな講座生がいますよ。
──志望者はけっこういますよね。でも、今若くしてライターになっても入り口がないというか、きっかけが掴めない感じがすごくします。新しい会社と仕事をするときに、「取引経緯を書類に書かないといけないから、どういうつながりなのかを教えてくれ」と言われたこともありました。コネじゃないとダメなのか……? とか。あと、ベテランの人が若手に自分の仕事を振ろうとしても、出版社から「その若手の人ではダメ、ベテランのあなたがいい」と断られたり。
上阪氏■基本的に新しい人には仕事を振りにくいのは当然だと思います。仕事をお願いする側からすれば、リスクが高いわけですから。それは心得ておかないといけない。特に若い人の場合、コミュニケーションができるかとか、ちゃんとした場で粗相をしないかとか、不安に思えることも多い。どこにいっても「コミュニケーション力が落ちている」と言われているでしょう。
──コミュ力って言葉も新しく生まれるくらい。僕もいつも不安です。ちゃんとコミュニケーションがとれているかなって。
上阪氏■『会話は「聞く」からはじめなさい』を作ったきっかけでもあるんですけど、今はTwitterなどのSNSも増えて発信が可能な場が多い。だから、発信することをコミュニケーションだと思っている人が多い印象があります。でも、結局、相手に話を聞かないと、相手が望んでいるような対話はできないと思うんですよ。だって、相手が求めていることがわからないから。
──しゃべりたいことをしゃべるのではない。
上阪氏■うん。相手が聞きたいことをしゃべれたら、もっといいコミュニケーションができるはずだと思いませんか。そもそも「俺が、俺が」の人はどこに行っても評価されないですからね。仕事も同じです。何が求められているか、しっかり聞くことができないと、期待になんて応えられない。企業の社長って、実は聞き上手が多いんです。ちゃんと人の話に耳を傾けてくれる。だから印象がすごく良い。
──「社長なのに、ちゃんと話を聞いてくれる!」って思いますね。
上阪氏■そうそう。実は偉い人ほどそうなんですよ。出世したかったら、人の話をちゃんと聞くことから始めたほうがいいと思いますね(笑)。
(執筆・構成:加藤レイズナ)
●上阪徹(うえさか・とおる)
1966年生まれ。リクルート・グループなどを経て、95年よりフリーライターになる。経営、経済、就職、金融、ベンチャーなどをテーマに、多くの媒体でインタビューを手がけている。主な著書に『会話は「聞く」からはじめなさい』(日本実業出版社)、『リブセンス〈生きる意味〉』(日経BP社)、『文章は「書く前」に8割決まる』(サンマーク出版)、『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『「カタリバ」という授業』(英治出版)、インタビュー集に『プロ論。』(徳間書店)、『外資系トップの仕事力』(ダイヤモンド社)などがある。
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