• 2024/11/16 掲載

就職や異動で発覚した「発達障害グレーゾーン」、職場でどう対応すればいいのか?(2/2)

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社会に出てから発覚するグレーゾーン

 近年、社会に出てから初めて発達障害を疑い、精神科や心療内科を受診する人が増えています。企業でカウンセリングをしていても、「自分は発達障害かもしれない」という悩みを抱えて相談にくる人が少なくありません。メディアなどで頻繁に発達障害が取り上げられることも影響しているでしょうが、社会構造が複雑になり、適応できない場面が増えてきたことも一因ではないかと思われます。

 筆者のところに発達障害を疑ってカウンセリングにくる人は、比較的若い世代が多いように感じます。学生時代は環境に適応できていたけれど、社会に出てから適応が難しくなり、ネットなどで調べると発達障害の特性が自分に当てはまるので心配になったという人が多いです。先述しましたが、発達障害は脳機能の発達に関する障害で先天的なものとされていることから、気づいていなかっただけで、社会人になって初めて発達障害を発症することはありません。グレーゾーンはなおさら、社会に出てから発覚することが多いといえます。

「学生時代は上手くいっていた」と悩む男性の実例

 Bさん(男性20代)は、電子工学系の一流大学院を出て、主にシステム開発の仕事を担当しています。システム開発は、頭を使って黙々と作業することが得意なBさんに合っていましたが、慣れていくにつれて担当するパートが多くなり、会議でのプレゼンや発言の機会も増えていきました。しかし、それはBさんにとって、歓迎すべき事態とはいえませんでした。なぜなら、Bさんは周囲の空気を読むことが苦手で、社の内外を問わず知らないうちに相手を苛立たせてしまうからです。

 Bさんは、会議で、自分が開発した案件のこだわりのある箇所についてだけ長々と説明したことがありました。当然、周囲は白けた反応でしたが、会議が終わってからも、忙しそうにしているメンバーに何度も同じ箇所を説明に行ったりしました。顧客へのアフターフォローでも、簡単な質問に対しマニアックな長文メールで回答して、クレームがきたことがありました。次第に周囲から厳しく指摘されることが増え、Bさんは、コミュニケーションが上手くいかないと悩み出しました。

 Bさんの“こだわり”や“空気が読めない”というのは、社会人になって始まったことではありません。学生の頃も、クラスで“浮いている”と感じたことはあるそうですが、成績優秀だったので特に問題にはなりませんでした。しかも、大学院では彼の“こだわり”によって緻密な論文を完成させることができ、学会で賞を獲ることもできました。担当教授から褒められることも多く、研究室では「できる人」というキャラで通っていたということです。

 しかし、最近では、同僚から「そこは全然重要じゃない」などと相手にされなかったり、一生懸命回答した取引先からクレームがきたりして、自信を失うことばかりで、会社に行くのがつらいと思うようになってきたそうです。

 Bさんは自分の特性をネットで調べ、発達障害の1つである“自閉スペクトラム症”に行きつきました。そして、「自分は自閉スペクトラム症ではないか」と筆者に相談にきたのですが、その後受診した精神科では「その傾向がある」と言われました。自閉スペクトラム症の特徴としては、言語以外のメッセージであるメタメッセージ(表情や声色、ジェスチャーなど)が受け取れない、固執傾向(こだわりが強い)、相手の立場に立つといった想像力が働きにくいなどがあります。言葉によるコミュニケーションは、言葉自体によって20%、メタメッセージによって80%伝えられるといわれており、メタメッセージの読み取りが上手くいかないと“空気が読めない”ということになってしまいます。

 近年、Bさんのように社会に出て初めて、この障害(グレーゾーンを含む)が自分にあることが分かったという人が増えているのです。

部下がグレーゾーンかも?と思ったら

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『発達障害グレーゾーンの部下たち』(クリックすると購入ページに移動します)
 発達障害に関して、カウンセラーである筆者のところに相談にくる人は、本人が「自分は発達障害かもしれない」と思っているパターンのほか、「部下が発達障害かもしれない」と部下の発達障害を疑う上司も少なくありません。後者の場合、上司は、部下の仕事ぶりや言動に悩まされていることが多く、すでに両者の人間関係に問題を抱えている場合がほとんどです。

 筆者は、上司のメンタルケアなども視野に入れながら、どのような言動から部下の発達障害を疑うに至ったのか、そのエピソードを丁寧に聞くようにしています。それと同時に、部下を発達障害と決めつけているような上司に対しては、疾病性(診断名)にこだわるのではなく、事例性(仕事に出ている影響)で検討していくよう促すことを心がけています。

 そのうえで、「どのようなことで具体的に困っているのか」「上司や同僚でフォローできそうなことはあるか」について話し合うようにしています。当然ですが、上司の話だけで部下が発達障害か否かをジャッジすることは不可能で、そもそもASDとADHDの診断基準ではカテゴリーが重なり合っていたりすることもあるため、医学的な分類が無意味というケースもあります。

 ただ、発達障害についてネットなどで調べ、少し知識がある上司は、部下の特異な言動を取り上げて「こんなことがあったのでADHDだと思う」とか「記憶力だけは抜群なのでASDだと思う」など、安易に診断名と結びつけるような発言も少なくありません。

 さらに、この考えを本人に伝えたという上司もいましたが、これはもってのほかです。不用意に本人を傷つける恐れがあるだけでなく、ハラスメントに該当する可能性も高いといえます。

 このように、部下の特異な言動から発達障害を疑うよりも、まずは事例性からサポート案を試してみることが重要です。それでも難しいようであれば、遅刻の回数や叱責される内容などの客観的な事実から、受診やカウンセリングを勧めるのも方法の1つです。

 グレーゾーンの問題は、いざ直面したときにはじめてその難しさに気づくことが多いと思います。本記事を読んで、さらに詳しい事例や対応方法について興味を持たれた方は、よろしければ拙著「発達障害グレーゾーンの部下たち」をぜひご一読ください。

※本記事は『発達障害グレーゾーンの部下たち』を再構成したものです。

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