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- 2007/08/09 掲載
【やる気を考える】モチベーションとリーダーシップが相性のいいテーマであるわけ / 神戸大学大学院 金井壽宏教授 (3/3)
リーダーシップとモチべーションがどれほど相性のいい相互に密着なトピックであるかを見るために、ジャック・ウェルチのリーダーシップの持論に注目してみよう。この連載で我々は、モチべーションについて持論をもつことが大事だと強調してきた。そのことはリーダーシップにもあてはまる。やる気を自己調整できる持論をもっているひとがやる気の達人であるのと同様に、自分なりのリーダーシップ発揮の勘所を自己調整するために、納得のいく自分なりのリーダーシップ持論をもっているひとがいる。
たとえば、20 年以上も巨大企業GEの変革を導いたジャック・ウェルチもまた、自分の持論を言語化している。これは、有名な4Es モデルだが、覚えやすいようにE で始まる言葉を四つそろえている。ご存知のひとも多いだろうが、その中身は次のとおりだ。
● Energy(自分自身がテンション高く元気であること)
● Energize(その元気ゆえに、周りのひとも感化されて元気になること)
● Edge(情報が足りなくても決断し、だれかが抵抗しても全体のために正しいアクションがとれる)
● Execute(実行とか執行と訳されることもあるが、とことん最後までやり抜く、実現するまでけっして逃げない、放り出さないという実行への執念を示す)
エナジーは、やる気そのものだ。我々のだれも、本人がやる気のないリーダーにはついていかない。元気のないリーダーに喜んでついていくフォロワーをイメージするのは難しい。事実、リーダーは、明るくエネルギッシュでないといけないと指摘する経営者は多い。ジャック・ウェルチだけがそれを強調しているわけではない。ヤマト運輸の小倉昌男さんも、楽天の三木谷浩さんも、なによりも、経営リーダー自身が明るく振る舞うこと、テンション高く元気であることが肝心だと強調する。モチべーションへの意味合いは、明瞭だ。部下のやる気に影響を与えるリーダー自身のやる気が低かったら、部下のやる気への影響力は生じにくい。その意味で、リーダーの活力、エナジーは大事だ。
つぎに、ちょっと具体的に人物像を想起してほしいのだが、「皆さんの身の回りの上位者で、そのひとは元気だけど、そのひとの元気がかえって周りの元気を削いでしまっている」という方がいないだろうか。「あのひとの元気はあやしい。なにしろ、部下はみんな死んでいるのにひとり元気だ」「その元気は、若手のエネルギーを吸い取っているのではないか」「あのひとが支店長を3 年したら、あとは、ぺんぺん草も育たない」「元気なのはいいがそれが取り巻くひとの疲れをもたらしている」という、そんなコメントをされる役員や部長、営業所長、支店長などがどの会社にもいるだろう。本人は元気でもこれではだめなので、ウェルチは、自分の元気がいい形で、他のひとの元気をもたらすことを重視して、それをエナジャイズと名付けた。これは、モチべーションの文脈では、自分の下でがんばってくれるひとたちを元気づけるという意味合いだ。エナジャイズは、動機づける、意欲にプラスに訴えるというのとほぼ等価だ。ウェルチの考えをよく調べると、ビジョンや戦略もエナジャイズに入っているので、希望系に訴えるモチべーションは、エナジーとエナジャイズが代表している。
エッジは、そういう動機づけが一筋縄でいかないこと、きびしい局面もあることを照射する。全体最適のために一部ががっかりして正しいアクションを起こす、情報不足を理由に意思決定を遅らせたりせずに、思い切って決断できることがエッジだ。また、いったん決めたこと、アクションをスタートしたことは、なにがなんでも最後までやりきる。リーダーが逃げない、とことんやり抜くひとなので、フォロワーも感化されて、実行力を高めるというのが、最後のエイクシキュートだ。すぐにおわかりのとおり、エッジとエイクシキュートが、緊張系のモチべーション喚起とその持続にかかわっている。
そして、ウェルチ自身がこの4Esと名付けられたリーダーシップの持論を言語化しており、また、その背後に、ウェルチなりのモチべーションの持論がかいま見られる。非常に興味深いことに、経営戦略論の大家、マイケル・ポーターは、4、5 年前のポーター賞の授賞式で、「ジャック・ウェルチは、偉大な戦略家(great strategist)というよりも、ひとを励ましたり脅したりする動機づけの達(greatmotivator)だ」と述べたものだ。
自分なりのモチべーション持論をチェックするときに、管理職以上のひとなら、自分のリーダーシップ持論もぜひまな板の上に載せて、モチべーションにどうかかわっているかという観点から料理してみてほしい。
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