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- 2007/08/09 掲載
【やる気を考える】モチベーションとリーダーシップが相性のいいテーマであるわけ / 神戸大学大学院 金井壽宏教授 (2/3)
「リーダーシップ」にやたら難しい定義は不要だ。「後ろを振り返れば、そこに喜んでついてくるフォロワーがいるかどうか」という問いかけこそ、リーダーシップ現象が生じていることを確認する試金石となる問いだと思っている。また、リーダーシップの機能も、もし日常の言葉でいうならば、わたしは「大きな絵を描いて、その実現のために大勢の人びとを巻き込むこと」という定義がいちばんわかりやすいと思っている。リーダーシップは、政治の世界では首相、ビジネスの世界では社長、長い時間軸では歴史上の英雄、創造的な世界ではオーケストラの指揮者、映画の監督など、こういうすごいひと、偉人をあげてしまうと普通のひとには無縁のように思えてしまう。そういう意味では、「大きな絵を描く、大勢の人びとを巻き込む」ほどおおげさに見ずに、「ささやかでもなんらかの絵を描いて、大勢でなくてもほんの2、3 人がついてきた」ということであれば、そこに萌芽的ではあっても、リーダーシップ現象が発生していることになる。権限や肩書きゆえにひとがついてきているのではなく、その描く絵に惹かれて、喜んでついてくるフォロワーがいれば、絵はきらびやかでなく、ついてくるひとは3 名だけでも、そこにリーダーシップが存在することになる。
逆にいえば、たとえば、ある部長のもとに100 人のひとがついてきても、それが喜んでということでなく、いやいやだけど、そのひとの肩書きゆえに、またそのひとが自分の評価をするがゆえに、そのひとを怒らせたら不利だからついてきているだけなら、そこには、大勢が動いていても、リーダーシップはない。リーダーシップとは、フォロワーの自発的に動機づけられた行動に影響力を及ぼす対人プロセスなのだ。
社会心理学のリーダーシップ研究者がよくおこなうこの定義では、モチべーションがリーダーシップと不可分であり、リーダーシップというテーマの中に、モチべーションが織り込まれていることをよく示している。自分が絵を描く。志をもって。なのに、最初は反対や抵抗があったりする。その絵が新しいほど、部分的に現状を超えるものであるほど、守旧的なひとは反対する。それでも、その絵がいろんな障害にも関わらず実現するためのストーリー、シナリオ、目的に至るステップが描かれているので、最初は反対だったひとまで、徐々に、喜んでついてくるようになったら、それこそが、現実のリーダーシップ・ダイナミクスだ。厳しいことを要求しているのに、後ろを振り向けば、最初はいぶかしがっていたひとも含め、今では喜んでついてくるフォロワーがいたら、そのような場にはリーダーシップ現象が生じている。
喜んでついてくる(willingly follow)、自発的についてくる、リーダーが示す方向に自発的に歩むようになっているひとがどれぐらいいるかが、リーダーシップの器の大きさを示す。通常の社会心理学のテキストでは、リーダーシップとは、ひとからひとへの対人影響力への一形態だと考えられている。たいてい言葉としては難しい定義になるが、「目標に向かって自発的に動機づけられた行動に影響を与える対人的プロセス」がリーダーシップだ。自分が動くのがモチべーション、ひとに動いてもらうのがリーダーシップ─それも、強制でなく、自発的にという点がポイントだ。
リーダーは、一方で自分のやる気を当然のごとくうまく自己調整しながら、フォロワーたちを目的に向かってがんばるようにやる気を自律的に調整できる人間を輩出することが求められるようになる。もう一度、先に説明したセルフ・リーダーシップのことを考えてみてほしい。リーダーが自分のやる気を自分でうまくベストにもっているのを部下が見て学び、自分もそれができるようになったら、いちいち脅したり、上に立つ立場から希望を示したりしなくても、部下自らが自分に緊張感を与え、希望を大切にする人間になっていく。少し理想論のようでもあり、また、へたすると何もしないダメ課長を正当化するようで、誤解の元だと言われつつも、わたしがマンツのセルフ・リーダーシップ論に惹かれるのは、このように自発的で自律的な個人を前提にしている点が共感できるからだ。
もうはるか以前のことだが、一度、アメリカ経営学会で彼に「この理論がなんだか東洋的なようだが」と尋ねたところ、「そのとおり、老荘の影響を受けています」という回答があった。また、日本から1980 年代に米国に入っていった小集団自主管理において、「部下が自分たちで自主管理するためには、その場で職長はどのような動きをとるべきか」という問いから、マンツは、セルフ・マネジメントとか、セルフ・リーダーシップへといきついた。「無為を為す」、自分でその都度働きかけなくても部下が動く、いちいち圧力をかけなくても自ら緊張感をもって部下ががんばる、そういう自律的な部下集団にする役目は、セルフ・リーダーシップが担う。これを、文字通り無為な「ダメ管理職」と一緒にされたら困るので、ある時期以降、セルフ・リーダーシップこそ、スーパー・リーダーシップだというようにして、これを簡単だと思うひとを牽制している。「無為を為さば、即ち、治まらざるところ無し」というようなことが実感できるリーダーは、実はたいへんなリーダーなのだ。
これを考えるときに、やる気を自分で自己調整できる持論の役割が大きいだろう。自分で考えて自分で行動するための、自分の持論を部下にもたせるのを助けるのもまた、リーダーの役割といえるだろう。
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