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コロナ禍から回復して旺盛な旅行需要が戻りつつある航空業界。その半面、出張といったビジネス利用による売上は、コロナ前に比べて25%ほど落ち込んだままだ。実は航空会社にとってビジネス客は、「利益の70%を生み出す貴重な存在」であることから、この落ち込みは大きな痛手となっている。ビジネス客による需要が戻るかどうかが、今後の航空業界を左右しそうだ。
ANAやJALなど業績は大幅回復
日本の航空大手であるANAとJALは旅行需要の回復などにより、両社とも2022年度の決算で3年ぶりに最終損益が黒字転換し、業績は大幅に回復した。足元を見ても活況は続いており、2023年のゴールデンウィーク(GW、4月29日~5月7日)の航空利用実績を見ると、
ANAの国内線旅客数が2022年比120.6%、国際線は275.3%で、
JALもそれぞれ111.7%、229.8%と、大幅な航空需要の回復傾向が見て取れる。
その半面、コロナ禍で浸透したテレワークなどで出張などのビジネス需要は苦戦しているようだ。2022年12月に行われた調査「
コロナ禍で変化した出張観に関する調査」(コンカー調べ)では約8割の回答者が「出張をオンライン会議に置き換えるべき」と回答するなど、働き方は大幅に変化。最近では在宅を取りやめる動きもあるが、働き方の変化がどう展開されるかは、航空業界が今後も回復を続けられるかの1つのカギとなっている。
一方、2022年春に実質的な「コロナ明け」となり、消費の中心がモノからコトに移った米国でも、2023年は引き続き旅行需要が旺盛だ。
米三大航空会社のアメリカン、ユナイテッド、デルタは、夏休みの書き入れ時を含む5月1日から8月31日の期間中に、合計およそ2億4345万席分のチケットを
販売すると見込まれている。これは、パンデミック前の2019年の同期間より約516万席も多い。
デルタ航空のグレン・ハウエンスタイン社長は、「今起こっている需要の急増は、これまでになかった規模だ」と
驚きを隠さない。しかし人手不足を主な要因に供給が需要に追い付いていないため、航空会社が提供できる座席数が限られている。これにより満席の便が続出し、チケット価格が高止まりしている状況だ。
米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、3大航空会社が5月初旬に発売していた6月第1週の東海岸ニューヨークと西海岸ロサンゼルスを結ぶ往復便の運賃は最安値で、エコノミーが約300ドル(4万2,000円)から、プレミアムエコノミーが約900ドル(12万6,000円)から、そしてビジネスクラスが1,200ドル(16万8,000円)からとなっていた。これらは、前年比でおよそ15~20%ほど高い。このため、各社では好決算が続いている。
航空業界は大打撃? テレワークの大きすぎる影響とは
潤う航空会社だが、まだ安心できない状況が続いている。パンデミック前と比較して、乗客の内訳が変化しているのだ。レジャー需要が爆増しているのとは対照的に、2022年のビジネス客向け売上はパンデミック前の2019年から
24.6%落ち込んだままだ(図)。
米調査企業Third Bridgeのアナリストであるクリス・レイト氏は、「これは、リモートワークなどでビデオ会議が定着したことが大きな理由である可能性がある。それに加えて、米経済で景気後退が起こる心配があり、出張費は抑制される傾向にある」と解説する。
レイト氏は、「多くの場合、出張直前に正規価格で高額のビジネスクラスチケットを購入してくれるビジネス客は航空会社の利益の70%を生み出す貴重な存在であるため、航空会社にとっては問題だ」と指摘した。ビジネス客の割合は乗客数全体のわずか
12%(パンデミック前の2019年)であったにもかかわらず、彼らは収益の大黒柱であったのだ。
その一方で、ビジネス客が減少した分、より裕福なレジャー客がビジネスクラスやプレミアムエコノミーの席を埋めるようになっており、その面において航空会社は短期的に助けられている。
だが、このままビジネス客がパンデミック前のレベルまで戻ってこなければ、現在のレジャーブームが下火になった場合や経済が景気後退局面に突入した際に、航空会社の収益性が大きく落ち込む可能性がある。航空業界の今後の業績を左右しそうなビジネス客だが、需要は戻るのだろうか。
【次ページ】ビジネス客は「戻ってくる」と言えるワケ
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