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- 2022/11/10 掲載
ANA・JALが本気で目指すCO2ゼロ、2050年達成に必須の「次世代の航空機」はどう凄い?
ANAが掲げる、脱炭素への「4つの柱」
ANAホールディングス(ANAHD)が脱炭素化に向けた新たな取り組みを進めるため、スイスのクライムワークスと提携した、と報じられた。クライムワークスは「DAC(ダック)」と呼ばれるCO2回収技術を世界で唯一実用化した企業であり、これまでマイクロソフトやAudiなどとの提携実績がある。日本企業との提携はANAが初めてとみられる。DACとは、Direct Air Captureの略であり、空気中にあるCO2を直接回収してCO2を削減する技術で、脱炭素化に向けて脚光を浴びている。このDAC技術で注目を集めるクライムワークスだが、同社は2017年にCO2を回収・利用する商用プラントを世界で初めて稼働。2021年9月には、アイスランドの地熱発電所近郊で世界最大のプラント「オルカ」を稼働させた。CO2抽出能力は年間最大4000トンあると言われている。
一方、ANAはクライムワークスとの提携を通じて今後、クライムワークスが欧州で商用化するCO2回収プロジェクトへの出資を検討。将来的には、回収したCO2を航空燃料の原料として活用することを目指すという。
提携した背景には、航空分野におけるグローバルな動向が関係しているようだ。国連の専門機関であり、日本が理事として加盟する国際民間航空機関(ICAO)は2010年の総会で、2020年以降は温室効果ガスの排出量を増加させないことを目標とした「CNG2020(Carbon Neutral Growth 2020)」を採択した。これにより、国際航空の燃費効率を、2021年から2050年まで毎年2%改善させる。
さらに2016年の総会では「CORSIA(コルシア:国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)」を採択。2021年から各運航会社は、定められたルールに沿って必要な排出枠を購入し、オフセットする義務が課された。
こうした航空分野の情勢を受けて、ANAは脱炭素化への取り組みを加速させている。DAC技術の活用以外に、CO2排出量削減の取り組みとして以下の4つの柱を掲げている。
- SAF(サフ:Sustainable Aviation Fuel)の活用
- 航空機の技術革新
- オペレーション上の改善
- 排出権取引制度の活用
柱の1つであるSAFとは、植物や廃棄物など化石燃料以外の原料から製造される航空燃料で、CO2排出量が少なく既存の航空機で使用できるのが特徴だ。
ANAはSAFの活用を、脱炭素化への取り組みの中心に据えている。2011年にはユーグレナに出資し、その後NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトに参画して国産SAF製造の開発支援に携わってきた。2019年にはデリバリーフライトで排ガス原料のSAFを初めて使用。2020年には定期便にSAFを初めて使用し、それ以降、積極的にSAFの活用に取り組んでいる。
日本初、JALの「CO2排出量実質ゼロ」運航
JALもSAFを活用した取り組みを進めている。11月18日には東京(羽田)-沖縄(那覇)線で、SAFを活用したCO2排出量実質ゼロの「サステナブルチャーターフライト」を運航。CO2排出量実質ゼロでの運航は日本で初めてという。このフライトでは、従来機と比較してCO2排出量を15~25%程度削減できる機体を使用する。SAFの搭載のほか、カーボン・オフセットを活用し、CO2排出量実質ゼロでのフライトを実現させる(図1)。
また運航だけでなく機内や空港、ツアーの中でもサステナブルな体験を盛り込み、搭乗者とサステナブルな取り組みを共有する。なお同社では、2030年までに全燃料搭載量の10%をSAFに置き換えることを目指しており、海外調達と合わせて国産の製造支援にも注力する予定だ。
航空業界全体では、どのように取り組みが進められているのだろうか。ここからは業界を取り巻く状況や国の脱炭素政策、脱炭素を実現する未来の航空機について解説する。
【次ページ】赤字が続いたANAやJAL、政府はどう支援?
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