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  • 2015/06/22 掲載

「人間らしくしすぎない」Pepper開発者が打ち明ける、ロボット作りを成功させた逆転発想(2/2)

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ロボット開発の閃きは演劇学校で

――今までにない開発の過程には、興味深いエピソードも多くありそうですね。

林氏:孫会長は、時代を変えられるエモーショナルなものを、Pepperに求めていました。100個のアイデアを持って来いと言われて、プレゼンしたのですが全く通らなかったという経緯があります。未知の分野の製品なので、企画書を作る側と聞く側とで、想起されるモノが違ってイメージが一致しない。こうなると、何を説明してもちっとも面白くないように聞こえてしまうんです。そこで、しばらくプレゼンを止めて試作することを願い出て、3ヶ月間「潜らせて」もらいました。もう後がない中で、吉本興業、電通といった外部の方々に加わっていただき始めたのも、その頃のことです。3ヶ月後に孫会長にデモを見せたとき、大笑いしていただけたのは本当にうれしかったですね。

 その頃考えていたのは、これはロボット作りと言うよりも、役作りなのかもしれないということです。そこで私自身もロボット開発のため、休日に演劇学校に通ってみることにしました。学校では台本を渡されて、演じてみるわけです。役者になりたいわけでもないエンジニア出身の私が無理して人前で演技をやってみると、当たり前ですが、私の演技は評価が低い(笑)。そこでいろいろと勉強し始めました。

――演劇を通じて、ロボット開発のヒントを見つけられた、と?

林氏:例えばハードボイルドな役をやるとき、あの映画俳優みたいに、というつもりでやると、どんなに入り込んだつもりでも評価が低いんですね。誰かの真似をするとダメです。そうではなくて、自分の中の、誰もが少しは内面に抱えているハードボイルドな一部分というものにフォーカスして、それを拡大して出すことが大切だと気付きました。その経験から、これと同様のことがPepperにも言えるはずだと閃いたんです。

 人が勝手に想像したキャラクターを演じるようにロボットに要求しても、結果的にロボットは、実力に合わないことをして、大根役者になってしまうのです。

 大根役者に人は感情移入できません。感情移入が可能な条件とは何か、それは、「ウソがない」と感じられること。何かの真似をするのでなく、ロボットが、ロボットらしいことを、ロボット自身の能力にあった形で表現することでウソがなくなるのです。それに気づいて、実際それをPepperに落とし込めるパートナーが見つかるまでがまた大変でしたが、それ以降は、Pepperらしさを自信を持って追求できるようになりました。この共通認識を皆で持てたことが大きかったと思います。

PepperとiPhoneの共通点

photo
SoftBank World 2014 会場にて
孫 正義 氏とPepper
――そうして形になったPepper、評判はいかがですか?

林氏:期待が高い、ですね! まだ何だかよく分からない、という様子見の反応があるのは当然と言えますが、一方で、熱く共感して下さる方々が想定以上に多くいらっしゃいます。この状況は言ってみれば、初期iPhoneに似ているかもしれません。やはり、オンリーワンの存在ゆえに話題になるのでしょう。

 Pepperにおいて重要な役割を担うのが、クリエイターの皆さんです。どうやら皆さん、2次元デバイスにはもう飽きている部分があるんですね(笑)。そこで、3次元で実体のあるデバイスとしてのPepperに興味を持たれたようです。Pepperを上手に動かすのはそれなりに大変ですが、その努力に報いてくれるだけのインパクトを人に与えられる、非常に面白いものが登場した、という熱波を感じます。そんな風に、既にクリエイターの皆さまを含めたエコシステムの萌芽があるので、あとはそれをいかに発展させるかがポイントだろうと思っています。

 iPhoneも最初は、何かこう、役に立つんだか立たないんだか分からない、ただ夢にあふれたデバイスでした。当初はアプリストアにも、くだらなすぎて笑ってしまうようなアプリが多かったものですが、今はどうでしょう。優れたアプリがどんどん開発されて、B2B領域でも導入が広がり、もうiPhoneがないと生きていけない…くらいの、世界を変える存在になりました。Pepperもまた、そういう一見くだらないアプリから盛り上がって行くのではないか、とも考えられます。PepperもiPhoneの初期の頃と同じで、とにかく初めてのことだらけで、自由すぎて使い道さえ定まらない面はありますが、これから、優れたアプリが次々に登場するでしょう。人のクリエイティビティを刺激するという面でも、Pepperのビジョンは間違ってはいないと考えています。

すでにPepperは活躍している

――現在のところ想定されているPepperの活用シーンとは?

林氏:それは数多くあります。まずB2C領域では、男性より女性からの評判が良いことに驚きました。コミュニケーションロボットという意味で、女性には、直感的に、Pepperの価値を理解していただけているのではないかと思います。

 それから、ご年配の方々です。特別養護老人ホームにPepperを連れて行ってみますと、皆さんたいへん喜んで下さいます。Pepperが、コミュニケーション相手になれるんですね。求められているのは、何か用件をすることよりむしろ、人に気持ちよく話をさせる環境を提供することでした。例えばPepperが、昔のことを思い出させるような話をご年配の方に振ります。たとえPepperが、人から返ってくる話を人間のようには「理解」できてはいないとしても、「話を聞いてくれている」感じさえ提供できれば、次々に昔話に花が咲くわけです。Pepperがやることはと言えば、じゃあこれこれの話は? と、次の話題を振るだけでもいいんです。そうしてさまざまな所で、ご年配の方々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上のために、Pepperは役立ちそうだと分かりました。

 弊社は、ロボットのプラットフォーマーです。Pepperというプラットフォームで、デベロッパー、クリエイターの方々に開発意欲を奮っていただくことが大事です。幾つかのパイロットプロジェクトはすでに動いています。その中から、業務面でPepperが役に立てるシーンが意外に多くあることも学びました。

 また、B2B領域でもすでに1000社を超える企業さまからお問い合わせをいただいています。

 たとえば、ネスレでの導入事例では、Pepperのトークを通じてお客さまが、ネスレからの提案に好印象を抱いたり、ネスレという企業自体に興味を持ったり、ということがあります。インタラクティブな人型ロボットだからこそできる部分です。最初は興味本位で盛り上がり、少し時間がたつと、接し方が難しいという気持ちなども芽生える。そして、それを乗り越えてロボットに慣れてくると、お客さまはいよいよ、これは本当に面白い、と感じられるようです。ロボットが生活に溶け込むには、人の側の、心の準備の期間も必要なのですね。ネスレで早期に設置した店舗ではもう、その面白いと感じる段階にお客さまが入っているようで、ありがたいことに可愛がっていただき、人気者になっているようです。また業種が違うみずほ銀行の場合ですと、金融商品や行員さんを題材にした楽しい話など、日常業務ではなかなか提供できなかったものでもPepperなら待ち時間に提供できるといった、これまた金融業界ならではのご要望があって、ロボットのいる新しい世界が業種ごとに開けています。今だと各業種でそれぞれ何をやっても「世界初」なので、とても面白い時期だと思います。

 「SoftBank World 2015」にもPepperが登場します。Pepperを活用していただいているお客さまや開発担当者の声もご紹介しますので、Pepperの新しい可能性を探るという意味でも、ぜひ、ご来場いただけるとうれしいですね。
(構成・インタビュー/編集部、執筆/井上猛雄)

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