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とどまるところを見せない新型コロナウイルスの影響。今や悪影響を受けていない業界はないと言っても言い過ぎではないだろう。日本の発展を長らく下支えしてきた、製造業もしかりだ。特に中小の製造業は、もともと体力がない企業も少なくないため、政府による早期の支援が必要不可欠である。中小の製造業が望む支援とはどのようなものか、製造業を取り巻く現状とともにお伝えする。
絶好調だった企業でさえも「持たなくなるかもしれない」
東京都足立区に本社を置く、金属や樹脂などの加工メーカー・畑精密工業。もともとは、油圧部品の二次加工をメインとするメーカーだった。現代表取締役社長の中村貴裕さんが就任してからは、それまでに培った技術力を武器に、材料調達から全加工、処理までを行うようになり、事業領域も自動車部品、航空・宇宙、建材、音楽パーツなど幅広い分野に拡大。2014年の社長就任から5期連続して増収増益、その間の企業成長率は約800%と、まさに絶好調の企業だった。
そんな好調の企業にも、コロナショックは容赦なく襲いかかっている。
「短期的に見れば、2カ月先、3カ月先の注文がすべてなくなっている状況です。さらに、その先の納品予定もキャンセルの問い合わせが来ています。納品するメーカーが組み立てを停止していますので、私たちが内部パーツを作っても納める先がないのが現状です」と中村さんは嘆く。
また、緊急事態宣言が出されている地域と出されていない地域の温度差に苦しまされている製造業も多いと言う。
「緊急事態宣言が出されていない企業から従来と同量の発注があっても、緊急事態宣言が出されている地域の多くの製造業は、社員を減らし、さらに時短営業を余儀なくされています。そのため、同じ納期で同じ量の納品はできないのです。それを伝えると、“それではほかの会社にお願いするので”と一方的に契約を切られてしまった企業も少なくありません」(中村さん)
畑精密工業は、元々好調だった企業だけに、数カ月先の倒産は考えづらいが、この状況が1年も続けば「持たなくなるかもしれないという危機感はある」(中村さん)。
「弊社には、150社以上の協力企業や協力工場があります。私たちが倒れるということは、150社以上の会社の社員とその家族が路頭に迷ってしまうことを意味します。そのため、どんなことをしてもこの苦境を踏ん張らなければならないと覚悟しています。ただ、経営者仲間の中には、すでに自己資金を注ぎ込まざるを得なくなった人、廃業を決めた人もいます。新型コロナウイルスの感染拡大が続けば続くほど、持ちこたえられなくなる製造業は加速度的に増えていくでしょう」(中村さん)
中小製造業は新型コロナがなくても……
中村さんによれば、「そもそも日本の製造業、とりわけ中小の製造業は新型コロナウイルスの影響がなくても決して好調ではなかった」のだそうだ。
2008年に起こったリーマン・ショックで数多くの中小企業が廃業に追い込まれたことは記憶に新しいが、特に中小の製造業はそのダメージから立ち直れていなかったのが実情だ。
「弊社がある東京都足立区は、かつては大田区と並ぶモノづくりの街でした。弊社があるあたりも、ほんの15年ほど前までは中小零細の製造業が軒を連ねていました。しかし、リーマン・ショック以降、街の景色は一変しました。かつて工場だった場所には、今、ショッピング施設や高層マンションなどが立ち並んでいます」(中村さん)
次ページで、統計からわかる業界構造のゆがみについて見ていく。
【次ページ】このままでは国内製造業は10分の1になってしまう
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