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  • 2019/08/23 掲載

「好きを仕事に」できなかった人でも「好きなことで生きていく」方法がある

矢萩 邦彦x徳岡 晃一郎

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YouTubeを中心に「好きなことで生きていく」という言葉をよく聞くようになった。しかし多くの人にとっては、その言葉を字面のまま、うのみにすることは現実的ではないように思われる。では「好き」と「仕事」を接続するにはどうすればよいのか。1995年からパラレルキャリアをスタートさせ独自の方法論を磨いてきた矢萩邦彦氏が、現代のパラレルキャリア論への提言を交えながら語る。聞き手はライフシフトの専門家、多摩大学大学院教授・研究科長 徳岡晃一郎氏。
構成:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

構成:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

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「好きなこと」と「仕事」をいかにつなげるか。その手法のひとつとして、矢萩氏は“カード”を使っている


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そのパラレルキャリアは“キャリア”じゃない

多摩大学大学院教授・研究科長 徳岡 晃一郎氏(以下、徳岡氏):1995年から複業を始めていた矢萩さんはパラレルキャリアの先駆者だと思いますが、昨今の副業・複業ブームに思うことはありますか?

知窓学舎 塾長 矢萩 邦彦氏(以下、矢萩氏):私が副業・複業で一番大事だと思うのが、“続ける”ことです。最近は若い世代を中心にパラレルキャリアとして「色々なことをやっています/経験しています」という人が非常に多くなってきていますが、“キャリア”というからにはプロジェクト単位ではなく、それなりの経験が必要です。また、複数の職業を続けることをキャリアとして確立していないと、パラレルキャリアとは言わないと私は思っています。

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実践教育ジャーナリスト・スタディオアフタモード代表取締役CEO・知窓学舎塾長・教養の未来研究所所長・リベラルコンサルティング協議会 理事
矢萩 邦彦氏
1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を目指し探究するアルスコンビネーター。「探究型学習」「想像力教育」の第一人者。一万五千人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』を運営。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な教育現場で出張授業・講演を展開している。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードでは人材育成・メディア事業に従事、主宰する教養の未来研究所では「教養と豊かさ」「遊びと学び」「キャリア編集」をテーマとした研究を軸に、研修・コンサルティング・監修顧問を手がける。

 そうでなければ、「飽きっぽくていろいろなことに手を出す人でしょ?」という、パラレルキャリアに対する世間のイメージは払拭できない。

 それから、今のパラレルキャリア論で気になるのは「副業して自分の生計のリスクを分散させよう」という捉え方です。たしかにそれで安心感は得られるかもしれませんが、それだけがモチベーションだと続かないと私は思います。「片手間で稼ぐ」という気持ちだと“キャリア”にはなりえません。

徳岡氏:そうですね、お金だけを目的とすると、企業から禁止を言い渡される可能性もあります。前編でも話した「違う視点を獲得するため」という名目があれば、企業にとって副業の意味も変わってきます。

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徳岡 晃一郎 氏
日産自動車人事部、欧州日産を経て、2009年よりフライシュマン・ヒラード・ジャパンのSVP/パートナー。多摩大学大学院教授・研究科長。野中郁次郎名誉教授との共同研究によるMBB(思いのマネジメント)の第一人者。2017年よりライフシフトCEOを兼務。

矢萩:副業・複業をキャリアにしていくことは実際リスクも多いです。所属する組織や外部からは片手間だと思われる可能性がありますし、しかも当然最初は専門家じゃないから、仕事も取れない。中途半端だと思われて、理解もされず、お金にもならない。でも、それでもやっていく覚悟はどこから生じるのか。

 それはやっぱり、好きなこと、興味があること、あるいは自分が社会に対して関わりたい・アプローチしたいというモチベーションがあるものになると思います。それを見付けて「お金にならなくてもいい」という気持ちで始めていくのが多分一番良い。

 さらに副業・複業を5年、10年と続けて認められるようになってくると、今度は方法としてのパラレルキャリアが身に付きます。そうすると、特に好きじゃないのに仕事でやっていることなどとも、つなげたりできるようになっていく。順序としては、まずは好きなことをライフワークとして取り入れていくことが肝心です。

パラレルキャリアを実務につなげる「カード化」

徳岡氏:今お話しされた、「方法としてのパラレルキャリア」について詳しく教えていただけますか?

矢萩氏:パラレルキャリアを歩むからには、“越境者としてのスペシャリズム”が求められます。 “パラレルキャリア”も専門家なのです。これはいわゆる“ジェネラリスト”にも同じことが言えます。ジェネラリストもまた、ジェネラルに活動する専門家です。

徳岡氏:たしかにいま、オープンイノベーションや異業種コラボレーションなど“外部とのつながり”が価値を生む時代になっていますから、領域をまたいでヒト・モノ・アイデアをつなぐ“越境者”として、パラレルキャリアの専門性は発揮されるかもしれません。

矢萩氏:一方で勘違いすべきでないのは、“ただつなげるだけ”の人では駄目だということです。そもそも専門領域を深堀りして探究されている方は、“ただつなげるだけ”の人とはつながってくれない傾向があります。現場を知っていたり、自分なりに軸を持って研究や活動をしている人間が現れて初めて、「つながってみようか」という気になるのです。だから、自分なりに越境したい領域を探究してから会いに行く。それは、“越境者”が持たなくてはならないリスペクトです。

 その点で私が尊敬して弟子入りしたのが、編集者・松岡正剛氏です。彼はどの専門家からも一定のリスペクトを得ていて、何か困ったときに色々な人が話を聞きに来るような編集的世界観という軸を持っていた。僕の肩書「アルスコンビネーター(ArsCombinator)」も彼から付けてもらったものです。ただパラレルにやるのではなく、現場に関わったすべての仕事から方法的抽出を行って、別の現場に具体化して落とす。そんな肩書です。

徳岡氏:そのお話は先程の「方法としてのパラレルキャリア」に通じるところがありそうですね。具体的にはどのように抽出・転用されているのですか?

矢萩氏:私がやっていることのひとつは、「カード化」です。自分がやっていることや携わった仕事、関わりが深い仕事の方法を抽象化して、カードとして持っておくんですよ。たとえば『深夜ラジオ』『俳諧』『ゲーム』『ジャーナリズム』……。

 パラレルキャリアが人から認められる瞬間は、ちゃんとほかのキャリアと目の前の仕事がつながっていることがわかってもらえた瞬間だと私は思っていて、このカードはそのための道具です。「今日はこの仕事を松岡正剛に倣ってやってみよう」「ロック的にやってみよう」「俳句のエッセンスを取り入れてみよう」など。

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「深夜ラジオ」「松岡正剛」「寿司職人」などこれまでの経験から抽出した方法の要素がカードに記されている

 趣味でも過去の仕事でも、その方法の特殊性を抽象化して具体化して転用したらどうなるか考えてチャレンジしてみる。その結果、「それいいね」と言われたときに、「実はこの方法論、〇〇から持ってきたんです」と言えることが増えると、パラレルキャリアはどんどん面白くなっていきます。

徳岡氏:これはまさにパラレルキャリアの価値の源泉ですね。パラレルキャリアで積む経験自体にも大きな価値で、さらにそれ自体をノウハウにしている。

【次ページ】好きなことを仕事にできないときはどうする?実は誰もが“キャリア”を持っている
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