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「人生100年時代」「ライフシフト」という言葉が急速に広まっていますが、人生60年、定年退職といったゴールを目指してずっと走ってきたミドル・シニア世代にとっては、それは急激な方向転換に映ることでしょう。今回は、ライフシフトの専門家、多摩大学大学院教授・研究科長 徳岡晃一郎氏と、スタディサプリの社会科講師/早稲田大学3年生/著述家/リングアナ……etc.と数多の肩書を持つ複業家 伊藤賀一氏の対談をお届けします。ミドル・シニア世代にとっての「人生100年時代」「ライフシフト」とは何か、私たちがまだまだ学ばなければならない理由とは?
ライフシフトは40、50代にとっての「救い」
徳岡氏:伊藤さんは非常にダイナミックにさまざまな仕事に挑戦をされています。さらにそれだけではなく、若い人に交じって学び続けられています。ライフシフトでいうポートフォリオワーカーでありながらエクスプローラーでもある、と感じます。
伊藤賀一氏(以下、伊藤氏):僕は40代、50代の人にとってライフシフトは1つ「救い」なのかなと思っています。「人生100年時代」という副題があって人生は長い、と言ってもらっているのですから。
昔ならば40代、50代はもうすぐ60歳で終わりも近い感覚です。もう人生の第4コーナー回ってしまって最後の直線、ホームストレート。
ですがそこで人生100年時代、40代や50代でもまだ人生折り返し地点、第2コーナー回ったくらいだという。僕はそれは「許し」だと思います。「まだあるよ。まだ第2コーナーだよ、バックストレートだよ」と言ってもらっているのは、すごく大きい。
ライフシフトの著者、リンダ・グラットン氏だって60歳過ぎているわけですが、彼女もこれからという感覚。アメリカのトランプ大統領だって、70歳を超えているのにピンピンしているわけです。しかも政治経験も官僚経験も何もないのに大統領ですよ。
ライフシフト関連の書籍を読むと、今はモデルプランが必要とされているように感じます。受験生が合格体験記を読むように、安心するようなモデルが求められている。
徳岡氏:今のお話、救いや許しという感覚は新鮮でしたね。
後ろの人生が延びた分、まだ40年もあるのかと「恐怖」を感じている人も結構いるような気がします。私は「そうではなくてチャンスが増えた」と主張しているのですが……。ライフシフトの目的が伝え切れていないという側面もあり、どうしても「退職後の食い扶持(ぶち)を探すためのライフシフト」というように捉えられがちです。
私も含めて、ずっとがむしゃらに突っ走ってきた大人たちというのが、本当に人生が長くなったときにこれからどうするのか。考えなければなりません。
自分に関係する人が幸せになるよう「政治」を行う
徳岡氏:今のお話に関連して、世界との関わりの中で本当に資本主義的な豊かさを求めていいのかという問いも投げかけたいと考えています。単に80歳まで食いつなぐためのライフシフトでは不十分で、価値観の更新も必要です。その価値観のシフトに積極的なのが若い人であるように見えますね。
伊藤氏:古代ギリシャの時代から、若者は駄目だとみんな言っているわけですが(笑)、もう世代間対立をあおる言説はやめればいいと思いますね。若者だけでなく、新しいことをやろうとしている人や、人気のある人の足を引っ張らないことも大事だと思います
僕は政治経済の講師でもあるので、「政治を一言で言うと何ですか」と、生徒によく聞かれるのですが、「すべてを生かすための優先順位を決めること」と答えるようにしています。全体を生かす中で自分はどうするかということを決めたほうがいい、と僕は思います。
今は「究極の個人戦」の時代ではありますが、実際には国や地方公共団体に所属していたり、会社や役所に所属していたりする。そこをわきまえた上でやっていくことも重要ではないでしょうか。やはり世界は弱肉強食、優勝劣敗のサバンナ、ジャングルだと思うので、完全に自分の思いのままに暮らせるユートピアはどこにもないわけです(笑)。
徳岡氏:結局、自分の居場所というか、自分の役割認識というか、周りを見て、自分がどういう役割を担えば、全体がよりよくなるのかというふうに考える、と。
今までは会社の中で守らねばならない自分のポジションがありました。ですがライフシフトを前提に考える個人の時代では、それを離れて世の中を見渡してみて、自分は何に貢献できるのかと考えなければならない。
どういう役割を担えば、自分に関係する人たちがハッピーになるかということを、ライフシフトするときに冷静に考える。そうすると自然に、今持っているスキルとやってきた経験をうまく接続して、肩の力を抜いて何をしたらいいかを考える発想ができるように思います。ある意味、今より楽になれるかもしれません。
失敗ではなく、逆境を選んできた
伊藤氏:
僕はいくつも仕事をもっていますが、すべてがうまくいっているというわけでもなく、打席に立っている回数が多いというだけで、結構空振りも多いですね。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロのような万能人ではないですから。どうしても失敗するけれど、とどめを刺されない程度に間に合っているという(笑)。
今、若い人と大学一緒に通っていて面白いと思うのが、若い人は失敗したことがある人の方が好きな傾向がある、ということです。強さの種類でいうと、全然倒れないでずっとリングの上に立ち続けている人よりも、何回倒れても立ち上がってくる人の方が好かれています。
なので、ちょっと傾向が変わってきたような気がします。僕の世代だと、ボクシングだとマイク・タイソンがすごく人気がありました。ダイナマイトパンチ、負けない、みたいな。ああいうことで快感を覚えていたわけです。
ところが今の人たちは違って、挫折を知っている人や黒星が付いている人が好きですね。1度負けたけれども、復活してタイトルマッチに勝ったような方。安倍首相も、橋下 元大阪市市長も、ビートたけしさんも、みんな失敗から再起してきた人です。
ネット上では他人にすごく厳しいという人が多いというふうに言うのですが、それはかえって30~40代じゃないかなと思います。若い人たちは失敗に非常に寛容です。
徳岡氏:失敗はなかなか日本の中ではやっぱり認められず、立ち直れないような社会的な風潮があります。「失敗したっていいんだよ」「チャレンジして駄目でも大丈夫だから」と会社も言うけど、実際にはそれを認めません(笑)。
ただやっぱり、そういうのがないとリアリティーもないし、それを感じ取る共感力も育ってこないから、失敗ってすごく大事だと思います。
その現実的な失敗ということを考えたときに、伊藤さんの経歴をお聞きして思ったのが、失敗というよりも、むしろ逆境をあえて経験するようにされていますか?
30歳で東進ハイスクールを出たあと、日本を放浪しながら住み込みで働かれたということですが、それも1つの逆境でしょうか。
伊藤氏:確かに。僕はプロレスが好きだから、リングアナウンサーの仕事もやっているのですが、プロレスは、わざと受け身を取ってそれで客を喜ばせるということもします。
これと同様に、あらゆることに対して受け身を取っている部分が確かにありますね。逆境という言葉が自分の頭の中になかったので、すごく新鮮だったんですけど、要するに、あえてそういうピンチの状態にするということの方が成長するんじゃないかと思っていたといえるかもしれませんね。
徳岡氏:失敗が怖かったら、逆境を積極的に選ぶ、というのは自分の視野を広げる意味でもいいかもしれませんね。
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