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4月、職場に初々しい新入社員が入ってくるシーズンだ。しかし厚生労働省の調査によると大卒新入社員の11.5%は1年以内に辞職している。3年以内に辞めるのは31.8%だ。辞める理由のタテマエ上位は「結婚・家庭の事情」「体調を壊した」だが、ホンネ上位は「人間関係」「評価・人事制度」。4人に1人はタテマエを取り繕いながら人間関係に悩んで職場を去っている。早期退職を防ぐには「働き方改革」よりも、若手社員の気持ちに配慮しながら対策を講じる「リテンション・マネジメント」のほうが効果があるというが……。
就職氷河期から「すぐ辞める若手」は多かった
4月1日、多くの企業では入社式を行い、職場は初々しい新入社員を迎える。「少子化」「人手不足」「採用難」の売り手市場の中で採用できた新人だけに、今は少々頼りなくても、企業は彼らを「将来を託す貴重な人材」とみて、大きな期待をかける。
ところが近年は、新入社員は大卒でも入社1年以内に約1割があっさり辞め、3年以内に約3割が辞めてしまう。
厚生労働省は毎年10月、民間企業対象の「新規学卒労働者の離職状況」という実態調査の結果を発表している。最新の2018年の結果によると、大学卒の2017年卒・入社組の1年目社員のうち11.5%が1年以内に退職していた。2016年卒・入社組は2年以内に21.9%が退職し、2015年卒・入社組は3年以内に31.8%が退職していた。
よく言われる「新人は1年で1割、2年で2割、3年で3割が辞める」という“体感”を、この統計数字は裏付けている。
しかし「売り手市場だから、早々と退職しても『第二新卒』で採用してくれる会社があるらしいから、簡単に辞められるのだろう」という見方は当たっていない。
大卒1年目の新入社員の離職率は2011年卒・入社組の13.4%をピークに年々、徐々に下がってきている。むしろリーマンショック後の「就職氷河期」「買い手市場」のほうが早期離職率は高く、「やっと入れた会社」なのに、早々と辞める新入社員は少なくなかった。
「入社1年以内に辞める新入社員」は、景気変動に伴って雇用情勢が好転すれば増え、悪化すれば減るようなものではないようだ。
その最近の早期離職率の低下について「新人が簡単に辞めるのは中小・零細企業。今は売り手市場で大企業に入りやすくなったから、辞める新人は全体として少なくなっているのでは?」と思うかもしれない。
それは1年目の新人について言えば当たっている。大卒1年目の離職率の企業規模別のデータでは、従業員数が少なければ高く、多くなるにつれて低くなり、きれいな階段状になっている。従業員5人未満の零細企業では27.9%だが、従業員1000人以上の大企業では7.8%にとどまる。その差は3.57倍ある。
しかし厚生労働省が2018年に大卒2015年卒・入社組を調査した「3年以内離職」のデータを見ると、1000人以上の規模でも離職率は24.2%あり、5人未満の零細企業(57.0%)との差は2.35倍に縮まる。大企業でも新人のほぼ4人に1人は3年以内に辞めているから「大企業だから若手社員は辞めない」と自信を持って言い切ることはできない。
期待を裏切って入社1~3年目の若手社員が職場を去っていく。それは景気変動や雇用情勢、入った企業の規模にかかわらず、日本の企業社会の内部には構造的に横たわる問題が存在することを暗示しているかのようだ。
退職理由は、ホンネでは「人間関係」が最多
なぜ会社を辞めるのか?
これは若手社員に限らないが、人材ビジネス企業のエン・ジャパンの企業の人事部門向けサービス「エン 人事のミカタ」が、転職サイト「エン転職」のユーザー1515人を対象にアンケートを実施して集計し2016年2月に発表した「退職理由のホンネとタテマエ」という調査結果があるので見てみよう。
前職をすでに退職した人に「会社(人事)に伝えた退職理由はホンネとは異なりますか?」と聞くと、47%が「はい」と答えた。続けて「それはどうしてですか?」と聞くと34%は「円満退社したかったから」、21%は「(ホンネで)話をしても理解してもらえないと思ったから」と回答している。
ホンネで不満を言えば波風が立つ、あるいはホンネを言っても理解されないからと、遠慮しながら会社を去っていった者が多いことがわかる。
では、そのタテマエの退職理由とは何だったのか。1位は「結婚・家庭の事情」(23%)、2位は「体調を壊した」(18%)、3位は「仕事内容」(14%)だった。
一方のホンネの退職理由を問うと、1位は「人間関係」(25%)で、2位の「評価・人事制度」(12%)の2倍以上ある。3位には11%で「社風や風土」「給与」「拘束時間」が並んでいる。タテマエ1位の「結婚・家庭の事情」も2位の「体調を壊した」も、2%で最下位の9位にとどまっている。
辞める社員の多数は、表向きの理由として家庭の事情や自分の体調の問題を挙げながら、内心では社内の人間関係がイヤになって辞めている。
たとえばホンネでは「課長のパワハラに、もう我慢できなくなった」と思っても、「私は長男なので親が『帰ってこい』と言っておりまして」などとタテマエ上の理由をつけて辞表を出す。「課長のパワハラを会社で表沙汰にしないのは、せめてもの『武士の情け』だ」と思っているかもしれない。
かつて、就職活動で「長男は不利」と言われていた時代があり、社長が「長男は採用しない」と公言する会社まであったが、「長男なので……」をタテマエの退職理由に使って社員が辞めていくのをイヤというほど見た経営者・採用担当者の心がねじ曲がってしまったためだろうか?
若手社員に限らず4分の1が「人間関係」で会社を辞めていく。そこに日本企業の内部に潜む構造的な問題があり、それを改善すれば、経営にダメージを与えかねない新入社員を含む若手社員の早期退職を減らせる可能性がある。
しかしこれは人間の感情がからみ、個人のメンタルヘルスに関わるようなデリケートな問題なので、根本的な解決を図るのはなかなか難しそうに見える。
【次ページ】リテンション・マネジメントとは何か、そこで重要なこととは
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