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  • 2019/03/04 掲載

嗅覚IoTセンサーで何が実現する?“センサー王国”日本の「最後のフロンティア」

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電子部品「センサー」の全世界の出荷額は、スマホ向け需要の好調さもあり過去5年で倍増した。通信機能を持つ「IoTセンサー」は、通信の「5G」の普及を追い風に今後めざましい勢いで伸びると予測される。世界トップシェアのセンサー王国、日本にとっては最後のフロンティアで、次世代成長分野最有力候補と目されるのが、匂いを検知する「嗅覚センサー」である。最有力プロジェクトは、チップに「感応膜」を組み込んだ「MSS(膜型表面応力センサー)」だ。
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嗅覚センサーは最後のフロンティアだ
(©Daniel Berkmann - Fotolia)


5年で2倍のセンサー市場、高付加価値化が大きく進む

 環境中の光、音、温度、水分、磁気、圧力、加速度など検知して電気信号に変え、情報を収集する電子部品「センサー(センサ)」は幅広い分野で利用されている。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の「電子部品グローバル出荷統計」の最新データによると品目別の出荷シェアで8.5%を占め、コンデンサ、コネクタ、スイッチに次ぐ第4位という、重要な電子部品である。

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電子部品の世界出荷金額に占める品目別シェア

 センサーの生産はほぼ右肩上がりで伸びている。JEITAの「センサ・グローバル状況調査」によると、2012年に9792億円だった世界出荷金額は2017年には1兆9928億円に達し、5年で103.5%増と、ほぼ倍増した。

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センサーの世界出荷金額の推移

 数量ベースのほうは同じ期間で36.5%増なので、金額ベースとの増加率の差で、センサーの高付加価値化が近年大きく進んでいることがわかる。それをもたらしたのはスマホなどスマートデバイス用途の高感度化、小型化、低消費電力化といった技術革新だった。

 2017年は「通信機器・スマートフォン用」が需要全体の53%を占め、「自動車・交通用」の14%を大きく引き離している。スマホでは「光センサー」「位置センサー」「圧力センサー」などはほぼ標準搭載で、指紋認証の普及で「指紋センサー」もそれに加わった。カメラに使われるソニーの「CMOSイメージセンサー」が世界のスマホ市場でたちまちトップシェアを占めたことは記憶に新しい。

 世界のセンサー市場の将来予測は2017年4月に富士キメラ総研が発表しており、2020年度は2015年度比18.4%増の5兆9755億円と見込んでいる(注:JEITAの統計とは調査対象企業が異なる)。種類別では5年で圧力センサーが約2.5倍に、感圧センサー・味覚センサー・脳波センサーも8割以上伸びるという予想になっている。

「センサー王国」日本、5Gでさらなる急伸か

 日本は、そのセンサー技術(センシング技術)をお家芸にする「センサー王国」である。電子部品の出荷金額全体では、日本のシェアは22.9%で中国に次ぐ世界第2位(JEITA「電子部品グローバル出荷統計」2018年4~10月)だが、センサーに限れば日本は圧倒的なトップだ。その世界シェアは2011年は48.3%、2015年も約47%だった(JEITAの調査レポートによる)。

 情報を収集するツールであるセンサーは、リアルタイムで情報を送るIoT(モノのインターネット)と結びつくことで、通信機能を持つ「IoTセンサー」になる。

 たとえば地ビールの醸造装置の内側にIoT温度センサーを何個も取り付ければ、発酵温度をリアルタイムに把握・制御できるので繊細な温度管理が可能になり、地ビールの味が「最適化」される。愛飲家に支持されれば、メーカーにより多くの利益をもたらす。IoTセンサーによって、製品により高い付加価値が加えられるのだ。

 インド・プネーに本社があるZION Market Reserchの予測によると、2016年に米ドル換算で75.1億米ドル(8261億円)だったIoTセンサーの世界市場規模は、6年後の2022年には3.65倍の273.8億米ドル(3兆118億円)になると見込まれている(1米ドル=110円で換算)。

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IoTセンサーの世界市場規模の予測

 2019年から2020年にかけて世界的な普及フェーズに入る「5G」(第5世代移動体通信)には「高速・大容量」「低遅延・高信頼性」とともに「大量端末接続」という特徴がある。

 一つの機器やシステムで大量に使われるIoTセンサーとの相性がよく、5Gの普及につれてIoTセンサーのマーケットもめざましく伸び、それがセンサーの世界市場を引っ張ると予想されている。

「嗅覚センサー」は最後のフロンティア

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 世界トップシェアの「センサー王国」日本にとって、次世代成長分野の最有力候補で「最後のフロンティア」とみられているセンサーがある。それは匂いを検知する「嗅覚センサー」だ。

 人間の五感は「目で見る(視覚)」「耳で聞く(聴覚)」「手で触る(触覚)」「舌で味わう(味覚)」「鼻で嗅ぐ(嗅覚)」だが、その中で最もセンサー化が遅れているのが「嗅覚」である。

 匂いをセンサーで電気信号に変えて「デジタル化」し、それを情報データとして解析・処理する技術は70~80年代から研究されているが、ほかの四感と比べるといまだ発展途上で、日常づかいができるようなプロダクトが登場していない。

 しかし、匂いで食品の変質や機械の異常やからだの病気を検知するなど、可能性は十分にある。だからこそ嗅覚センサーは遅れてきた本命、「最後のフロンティア」とみられている。

 匂いの素は空気中を漂う「ガス分子(無機物、有機物)」または生物由来の「生体分子」で、嗅覚センサーは「化学センサー」の一種である。匂いの微量な化学成分を検出する方法には従来から「半導体式」「水晶振動子式」「FETバイオセンサー」などがあるが、21世紀になってチップに「感応膜」を組み込んだ「膜型表面応力センサー(MSS:Membrane-type Surface stress Sensor)」という新しい方式が考案された。

 従来型の数十倍から数百倍という超高感度のMSSは、匂いの成分に応じた感応膜をそろえれば、同時に複数の成分の検知が可能になる。感応膜に匂いの分子が吸着した時に生じる機械的な歪みを測定して匂いを検知するという原理だ。

 最初は歪みをレーザー光で測定する方法が研究されたが、レーザー装置は高価で小型化ができなかった。2011年、歪みを電気抵抗で測定するMSSの新しい方式が開発され、微細加工技術によって、モバイル機器にも搭載可能な超小型モジュールが可能になるのではと期待が高まっている。

【次ページ】食品、医療、セキュリティ……嗅覚センサーの応用範囲は幅広い
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