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  • 2018/10/19 掲載

スクエニ、カプコン、コナミ、DeNAらの「AI導入」悲喜こもごも

CEDEC 2018 レポート(後編)

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ゲーム業界においては、すでにAIを活用したさまざまな取り組みが進められている。前回に引き続き、ディー・エヌ・エー 甲野佑氏、スクウェア・エニックス 三宅陽一郎氏、カプコン 新野恵貴氏、コナミデジタルエンタテインメント 岩倉宏介氏がゲーム開発におけるAI導入の未来を語った。


AI活用の鉄則は“もっと単純にできないか”

 機械学習と一口にいっても、教師あり版、教師なし版、ニューラルネットワーク、ディープラーニング、強化学習とさまざまな学習アルゴリズムに分けられる。そして当然、留意しなければいけないのは、最終的にはそれを“現場に展開すること”だ。

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左から甲野佑氏(ディー・エヌ・エー)、三宅陽一郎氏(スクウェア・エニックス)、新野恵貴氏(カプコン)、岩倉宏介氏(コナミデジタルエンタテインメント)

「画像認識ではニューラルネットワーク、文章系を使うときはRNN(Recurrent Neural Network)とかLSTM(Long Short-Term Memory)、生成系はGAN(Generative Adversarial Network)、ゲームプレイの検証などは強化学習も使います。ただ、実際にそれを実運用しようとか、チームのニーズのあるところに持っていくと、結果として、もっと単純な回帰やGreedyアルゴリズムになったりします。単純なもののほうがコントロールしやすいし、聞く側も分かりやすいので、そちら側で物事が進むケースもあります」(岩倉氏)

 その上で、新しい技術へのキャッチアップは必要なことだが、もっと単純に考えられるとコナミデジタルエンタテインメント 第1制作本部技術開発部 主査である岩倉氏は指摘する。

「基本的なところ、全体的なところを確認すると、いたずらに複雑なことをしなくても、もっと単純な方法で解決できることもあると思います。トライ&エラーが非常に重要です。うまくいかなかったときに俯瞰で見て、"もっと単純にできないか"と常に自分に問いかけています。この手法じゃないとダメだと思わない。幅広く見てみることが大切かなと思います」(岩倉氏)

 ディー・エヌ・エー AI システム部 AI 研究開発第二グループ AI研究開発エンジニアの甲野氏も、未知のキャラクターをリリース前に検討するという観点から強化学習を用いているが、いたずらに難しいことをゼロからやる必要はないと考えているという。

ゲーム業界のAI活用のメリット、デメリット

 また、ディスカッションでは、他の業界と比べたときのゲーム業界特有のメリット、デメリットにも言及された。

「ゲームは仮想空間なので、シミュレーション空間で学習を行うと、物理エンジンのちょっとしたごまかしや導入したインタラクションモデルのモデル自体の欠陥といったシミュレーション空間自体の非整合性が見えてしまいます。実空間であれば、それが現実なので仕方がないとなりますが、ゲームの場合は何が悪いのかが見えにくい。学習が有効に働く場を適切に選択しないと、何をやっているのか分からないということになってしまいます」(三宅氏)

 一方、メリットとして「失敗することが許されるのもゲームの特徴」と指摘するのはカプコン 技術研究開発部 プログラマの新野氏だ。たとえば、車の自動運転の場合、失敗は許されない。命にかかわるからだ。つまり、強化学習的なアプローチが取りにくいということになる。

「その点、ひとまずやってみるかということができるのは、おそらく他の業界とは大きく異なっている点ではないかと思います」(新野氏)

 さらに岩倉氏が指摘するのは、従来のソフトウェア工学的なアプローチでは、機械学習のアルゴリズムが扱いにくいという点だ。

「機械学習というのは、そもそも何を達成したらいいかは事前に分かりません。やってみないと分からない。たとえば、精度90%出すというような目標が事前には立てられないわけです。さらに、どこまで精度が上がるかも分からないので、どこまでいったら完成なのかも分からない。つまり、従来のソフトウェア工学的な扱い方ができない面があります。そのためにトライ&エラーを繰り返す、アジャイル的なソフトウェア開発をしなければならないのです」(岩倉氏)

 岩倉氏は、ゲーム業界はトライ&エラーを繰り返す開発を昔からやってきている点で、機械学習の開発においてアドバンテージがあると続ける。

AI導入のジレンマ

 現状での機械学習の成果は、どうとらえるとよいだろうか。

 スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャーの三宅氏は、品質とパフォーマンスについては、やはり全面的に足りていない、まだ手探りの状態にあると言う。

「機械学習を調整するとか、ゲームの要件に合わせてうまくコントロールするというノウハウは、アカデミックでもない。むしろ、調整デバッグといったものはゲーム業界の中でやっていかないといけないのかなと思います。汎化能力については、そもそも何の汎化なのか。いったんゲームを何らかのモデル化してからやらなければいけないのか、といった汎化それ自体の深い問題が根強いという気がしています」(三宅氏)

 甲野氏は、強化学習も教師あり学習も、どちらも既存のゲーム内に含まれているような既存のルールベースAIよりも圧倒的に強いという成果は得られているが、ただ、それはやはり主観評価であり、人間と戦ってどうかということを評価するのは難しいとの認識を示す。

 「そういう意味では次の検証段階に移り、さらなる強さの発展、そしてそれが実際のプランニングイテレーションに適しているかの検証が今後の課題」としながらも、現場のプランナーとどの程度の精度が得られれば作業が楽になるかと話し合う、使い方のレベルでどう考えていくかが重要と甲野氏。

 機械学習を導入する際、何を評価の軸とするか、何をもってOKとするかの閾値の設定は当然必要だが、それ以前の問題もある。ある程度研究を進めた後、ニーズベースで検証を進めていった経験のある岩倉氏は、そこでの難しさとして「意外に使ってもらえない」ことを上げる。

「チームや個人から要望を聞いて、ある程度作って渡しても、これが意外なほど使ってもらえない。よくよく考えてみると、製作者の方はもともとの業務で忙しいので、ツールの使い勝手が悪いと、当然使ってもらえない。生成系は使い方に試行錯誤があったりするので、その時間をとるのが大変というのもあります」(岩倉氏)

 通常のツール導入時もそうだが、“こういうのがあったらいいな”くらいのニーズでは、そのためにわざわざ新たにツールの使い方を覚えてまで使うかということだ。

 しかし、“できないと困る”という案件に対しては、やってみないと分からない機械学習ではなく、別のソリューションがあてがわれる。つまり、どこに対してこの技術を使うのかというのが、プロダクションフェーズでは意外と当てはまるところがないと岩倉氏は感じているという。

機械学習の導入における課題:コスト、法律、人材

 研究開発段階において起こった問題として、特に想定外として挙がっていたのが、学習環境構築のコストの高さだ。

 学習を回すときのレベル設定だったり、もしシミュレータを使うならシミュレータのモデル、ハードウェアの問題など、学習するための環境整備のほうが、むしろ機械学習を動かしている時間より長いと三宅氏。

 また、三宅氏は法律的な部分も挙げる。

「法律の問題として、データとして使っていいものと使ってはいけないものがあります。特にゲーム会社の場合はIPに絡んでいるデータがあるので、そういった問題に対して、まだ初めてのケースなので、どう対処したらいいのかが分からない」(三宅氏)

【次ページ】ゲームのAI導入、狙うは「世代の変わり目」
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