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人材派遣の一形態「紹介予定派遣」の成約件数が2017年秋から突然、急増しはじめた。「紹介予定派遣」とは、企業は社員にするかどうかを、本人は社員になるかどうかを、6カ月の派遣期間で「様子見」できるという2000年に現れた新しい制度である。大学新卒者の就職内定率が98%に達し、正社員有効求人倍率が1倍を超える「売り手市場」の雇用情勢で「なぜ様子見をする制度を使うのか?」という疑問が湧く。本稿では、調査および人材業界関係者へのヒアリングをもとに、その答えを探る。
紹介予定派遣とは
人材派遣(労働者派遣)の形態の一つ。詳しくは
用語解説記事を参照。
長期マイナスから一転、成約件数は驚くほど伸びている
一般社団法人日本人材派遣協会が四半期ごとに調査・発表する「労働者派遣事業統計調査」によると、紹介予定派遣の実稼働者数(実際に働く人数)は2015年7~9月期から、成約件数(紹介予定派遣の契約成立数)は2015年10~12月期から、それぞれ前年同期比マイナスが続き、長期低落傾向だった。
ところが8四半期連続で前年同期比割れしていた成約件数が突然、2017年10~12月期は+41.7%の大幅なプラスに変わり、2018年1~3月期はさらに伸び+61.2%に達した。成約件数に遅れて実稼働者数もマイナス幅が-2.4%まで圧縮している。
紹介予定派遣は特に年度末の3月は好調で、月間で調査開始以来最多の2087件の成約があった。なぜ、紹介予定派遣が突然の急増を見せたのだろうか?
急増の背景に2つの法律、「期限前に動く」心理
このように紹介予定派遣が急増した理由について、人材派遣業界のある関係者は匿名を条件に、「2つの法律の影響が重なった」と話す。
1.2013年4月制定の「労働契約法」
「2013年4月に『労働契約法』が施行されました。この法律では5年以上の有期の雇用契約を無期の雇用契約に転換できる『無期転換権』が付与されています。5年の有期契約ですと2018年4月から実際に無期転換権を行使できることになります。
派遣社員であれば本人の希望で派遣契約期間を『5年以上』から『無期』に転換できますが、実際には『無期の派遣契約より直接雇用してほしい』と希望する派遣社員が少なくありません。それで、企業側もそれを前提として紹介予定派遣への切り替えが進んだようです」(業界関係者)
紹介予定派遣の期間は最長6カ月。2017年10月に派遣契約をこの紹介予定派遣に切り替えれば、2018年4月に直接雇用に転換することになる。2013年以降に5年の有期の派遣契約を結んだ派遣社員で、有期→無期より直接雇用への転換を希望する人は、紹介予定派遣という6カ月の「ワンクッション」を経て、直接雇用の正社員や契約社員に転換できる。
2018年4月の期限到来と同時に直接雇用に切り替えるよりも、派遣先は6カ月早く人材を確保でき、派遣社員は6カ月早く直接雇用される見通しがつくというわけだ。
2.2015年10月改正の「労働者派遣法」
もう1つの法律は『労働者派遣法』で、2015年10月に改正された。目玉は「同一職場への派遣期間条件の5年から3年への短縮」で、従来の「5年ルール」に対し「3年ルール」と呼ばれた。
その3年ルールが適用される最初の派遣社員は2018年9月30日までに派遣期間が切れる。こちらも2018年4月にワンクッションの紹介予定派遣に切り替えれば、2018年10月、直接雇用へスムーズに転換することができる。
派遣社員の立場で言えば、紹介予定派遣は業法改正に伴って発生が危惧される「雇い止め」の心配を取り除く。雇い止めとは派遣契約の有期から無期への転換を断られて契約が終了することだが、派遣期間切れ前に直接雇用が前提の紹介予定派遣に切り替えることができれば、留保つきながら雇い止めの心配はなくなる。
不幸にして5年や3年の派遣期間切れで雇い止めされる派遣社員も、それが6カ月早く判明すれば、その間に次の派遣先探しや就職活動などの準備ができる。
派遣先と交渉を行う人材派遣会社にとってもありがたいことで、雇い止めされれば人材派遣会社は別の派遣先を探さなければ収入源を失うが、事前に誰がその対象なのかわかれば動きやすい。ちなみに、派遣先は雇い止めを自由に行えるわけではなく、別の部署への異動の検討など「雇用安定措置」を講じるように求められ、派遣社員の働く権利や労働条件も関係法令によって保護されている。
つまり、人材派遣をめぐる2つの法律の期限が偶然、2018年の4月と10月に重なった中で、人材派遣会社も派遣先も派遣社員も「激変を避けられる制度」として2017年から紹介予定派遣を利用しはじめ、それで成約件数が急増したのである。昨今の雇用情勢の好調さ、正社員の採用難も重なって、数年前と比べると派遣社員には有利な状況になっている。
【次ページ】紹介予定派遣の「特需」以降、人材業界はどう動くのか
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